下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

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陰陽の守り神

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「栞さんもお社飛んだんでしょ?」

「今年もなんとか。でも、やっと八尾。那智様もよ?秋彪君たちは六尾になったわ」

「僕はしなくていいんだよね?」

「ええ」

「本見てて、ちょっと興味があるのがあって。月読って書いてあったけど、最初は毎日月のかたちを覚えて書き込んでいくんだって。それをノートに書いてみようかなって」

「思いついたことするのもいいと思うわよ?そうだ、あのね、お小遣いなんだけど……」

「やっぱり多いよ。僕まだ学校も行ってないし、大金だし」

「それは冬弥様が決めたことだから。ノートとか文房具とかは参考書と同じで私たちが出すから、ちゃんと言って欲しいの。高いものは買えないけど」

「今あるので足りてるよ?きっと余ると思う……」

「貯金箱持ってる?」

「持ってないけど」

ちょっと待ってねと栞が持ってきたのはどう見ても賽銭箱。

「これ、貯金箱なの。これに貯めていくのはどう?お金の使い方は任せるけど、貯めていくことも必要だから」

「貰っていいの?」

「いいわよ?実はこれ、前にお土産通りで見かけて買っちゃったの。でも私は好きなものを買えって生活費預かってるけど、欲しいものがなくて……余ったのを貯金箱に入れてるのよ」

「それも賽銭箱?」

「だって可愛かったんですもの!これよりかなり大きいから笑われちゃって……貯まったらみんなで美味しいもの食べに行きましょうね」

夜は結局起きていられなくて寝てしまい、朝ごはんを食べてから、森に行ってみんなを遊ばせる。寒さはあるがそれが日課になっているが、ちゃんとみんな人が来たら隠れてくれるので、今のところ問題は無い。

「雪翔」

「あ、お帰りなさい」

「みんな食堂で待ってますから行きましょうか」

「お昼には早いよ?それに今日は休みでしょ?」

「そうなんですけど、みんなでご飯を食べようということになって」

分かったとみんなを影に戻してから下宿まで行く。
面から入ってくれと言われて食堂の扉を開けると、クラッカーが鳴らされ、Happy Birthdayを歌われる。

「え?」

「16歳おめでとう!」
「ほら、ロウソク消して!」

フーっと消すと拍手が起こり、みんなからプレゼントを渡される。

「ほら、開けてみろよ!」

「うん、でも……飾りまでいつの間に?」

「実はこっそり用意してたんだよ。俺誰かにプレゼント渡すの初めてですごく悩んだんだから!」

「海都と一緒に行ったんだけど、ほんとに悩んでんの。それとみんな聞いてくれる?」

コホンと賢司が咳払いし「来年四月から、俺学校の先生!決まったんだよ!来月から研修なんだけど!」

「おめでとう!海都君の高校?」

「星ヶ丘高校!難関だったよ。もう卒業論文も出してあるし、肩の力抜けた!」

「二重におめでたいじゃないですか!もっと早く教えてくださいよ 」

「今朝来たんだ。通知が!だから、雪翔が登校の時は直接かかわれないけど、ちゃんと見てるからな!」

「ありがとう」

プレゼントを開けると、綺麗なグリーンのひざ掛けや手袋。レトロな置時計などたくさん貰った。

「これは私たちからです」と冬弥が取り出したのはカタログ。

「カタログ?」

もう届いてますよ?とニコニコ笑っている。

何だろうとカタログをめくると付箋が貼ってあり、オットマン付きのリラックスチェアだった。

「いつまでもベッドで本を読むよりいいでしょう?」

「ありがと!」

たくさんのご馳走とともに、みんなでゲームしたりして遊び、夕方まで騒いでから自宅に戻ると、部屋にリラックスチェアが置いてあった。

座ってみると硬すぎず柔らかすぎず、リクライニングもついていてとても座り心地がよかった。

「ゆっきー、おめでとう」と紫狐と珍しく橙狐が出てきて、みんなからですと箱を二人で持っている。

「みんな?」

「冬弥様と栞様のお狐と、金や銀に翡翠や白と黒からです。私たちは習慣がないので……」

ありがとうと箱を開けると、頑張って書いてくれた金達の絵と、木ノ実や手作りの肘当てなども入っていた。

肘当てというよりはカバーだったが、雨の日に車椅子につけて欲しいと、女の子の狐が縫ってくれたという。

「漆様と琥珀様からはこれを預かってます」

黒と白の鈴のついた石のストラップに見えるが、少し透き通っている。

「黒は漆様、白は琥珀様の力がこもっていて、邪気を祓ってくれます」

「鞄につけるよ。ご利益ありそう。直接お礼言えたらいいんだけど」

「それについては『要らん』との伝言ですよ?」

「なんだか分かる気がする」
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