下宿屋 東風荘

浅井 ことは

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四社

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 ナースセンターの前の休憩所でひとまず座って話を聞くことにするが、何故か苛立って仕方がない。

「あの、先程は声を荒らげてしまいまして……」

「いえ。こちらも下宿屋とは言っても親ではないので、今回のような場合親御さんに来てもらうしかないんですよ。電車でも1時間ほどでしょう?他の下宿人の親御さんは何時間かかろうと来ましたよ?今大学生の子が骨折した際にはすぐに駆けつけてきましたがねぇ……」

「それは何度も謝ってるじゃないですか……」

「入院の手続きはしておきました。一度目が覚めたのならまたすぐに意識が戻るでしょう。私も下宿の仕事を放って付き添いしてたので、寝てないんですよねぇ……今夜から落ち着くまでの間はお母様がして下さるんでしょう?」

「え?いえ、何の準備もしてきてないので帰りますけど」

「ご自分のお子さんのことですよね?」

「いきなり言われても困りますし」

「あなたそれでも母親ですか?」

「失礼な!そちらには十分すぎるほど、三年分のお家賃は入れてありますよね?学校からの支払いはこちらでちゃんと払ってますし、下宿屋なんだから面倒見て当たり前でしょう?」

「それ以前の問題ですね。こちらにて少し調べさせていただきました。早乙女家は転勤ではなく新居への引越し。今は父親と下のお子さんと3人暮らし。御主人は会社を経営されてますよね?なので、家のローンは全くなし……それから……」

「な、何が言いたいんですか?人の家を調べあげて!」

「入居者に関して事前に調べられませんでしたので、つい最近調べましたけど?下のお子さんに合わせて引っ越されたんですよね?そして雪翔君のことは見捨てている」

「人聞きの悪い……」

 柚から見聞きしたものをこっそりと録音しておいたので、それを再生すると、母親の顔は段々と悪くなり、録音テープを取り上げようとするのですぐに引っ込める。

「盗聴は犯罪です!」

「それで?」

「それでって!これは家の問題です」

「一つ聞きます。3年後雪翔君はその新しい家にお迎えになるのですか?」

 そう言って目を見て術をかける。


 真実を語らせるために……

術が聞いたのか、とろんとした目になり話し出す。

「あの子は昔からおかしかったんです。何もいないところに喋ったり、友達も作らずに……かと言って施設に入れる条件も揃わないし困っていたところで下宿を見つけたので、これでもう会わなくて済むと思っていたのに面倒くさい事に入院だなんて。顔だけ見せればいいと思っていたのに、捨てたことまでバレるとは思ってなかったわ。卒業後はアパートでも借りてくれたらいいと思っていたのに……」

パチンと指を鳴らして術を解き、
「それが本音ですか?」としっかりと目を見て言う。

 そして録音の機械を目の前に出す。

「あ!」

「雪翔を捨てたんでしょう?」

「厄介払いしただけです!」

「はぁ……もういいです。お帰りください」

「言われずとも帰ります!」

 怒って帰っていく母親に藍狐らんこを付け、滅多にしないが、とことんして来いと送り出す。

 親が帰った翌日、朝に一度下宿に戻り郵便を待つ。
 受けとったのは、差出人も送り主もこの下宿となっており、ダンボールの中には紙幣が束で300。勿論親に送った記憶はなく、すべて藍孤が親に成り代わり預貯金すべて下ろしてこちらに送った現金だった。まだ家まで取り上げはしなかったものの、会社と自宅の金庫の中に仕舞われていた不正な金もすべてこちらに送ってもらっており、今後の倒産は確実だろうという所までは藍狐にしてもらっている。


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