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結婚3
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ギィとドアを開けた先には眩しい光が差し込み、あたり一面の真っ白な光景にアロンは思わず唖然と口を開いた。
「な、なんだ……これ」
色彩差はあるものの、カーテン、床、机、椅子、そして全ての置物が真っ白だった。唯一違うのがバラの茎と葉ぐらいである。
部屋の中央寄りには奥へ上がる短い階段があり、壇上には2人分の姿があった。
ひとりは白いスーツ姿のエルヴィスであり、もうひとりが黒い軍服の男、ライネスだった。
エルヴィスはドアが開けられるや否や興奮が抑えきれないといった様子で前へ出迎えに行き、ライネスは壇上で腕を組み、不思議そうにひょいと片眉を上げた。
「アロン!待っていたよ!」
エルヴィスはアロンの手を取り、壇上のほうへと導こうとする。逆にアロンはそれに反抗するものの、思った以上に相手の力が強く、自分の手すら引っ込めない。
「おい!離せ!」
「ほら、おいで。きみへとってもいい贈り物を準備したんだ!」
「離せって!」
階段を引きずられるように上がり、壇上の前に無理やり立たされる。
やっと相手の力が緩められ、アロンはパッと手を引っ込めて後ろに隠した。まるで負傷した獣のような表情で睨み上げて言う。
「離せと言っただろ!1人で歩ける!」
「す、すまない!怒らせるつもりはなかったんだ。ただ、早くきみに贈り物を渡したくて」
アロンがなおも何か言いたげに眉を吊り上げているとふと後ろから声が響いてきた。
「着てこなかったのか?」
「は?何がだ!」
「お前に用意しただろ。結婚用の衣服だ。メモに書いてベッド横の棚に置いてあっただろ?」
ライネスはアロンが入ってきた時から自分の用意した服を着ていないことに気づいた。かなり丹精込めて用意しただけに残念げなため息が出る。
「将来の嫁さんだからと気合入って準備したけどな」
凶悪顔の男に残念と言いたげな顔でそう言われると、アロンの中でもさすがに申し訳ない感情が湧いてくる。だが、
「胸とケツの部分に穴あけといたから見ものだと思ったがな」
その言葉で申し訳ない感情が一瞬でチリも残さずに消滅した。
「この……ッ!」
「そんなに怒らないでくれ!ほら、アロン指輪を交換しよう!」
エルヴィスは爆発寸前のアロンに向かってひざまづき、やけに大きな平ための箱を取り出した。
「な、なんのつもりだ…?」
その様子を見てライネスがため息をつく。
「おい、エルヴィス。それは求婚の時に人間がする動作だ。今やらなくていい。というかその過程はもう過ぎた」
「なっ!間違っていたのか私は!」
「だから突っ走るなと日頃から言ってるだろ」
「それじゃあ、改めて。アロン、私たちと結婚をしてくれないか?この体が錆びるまできみを愛し続けると誓うよ」
アロンはぐっと言葉につまって目線を彷徨わせた。ここまできて迷いが残り続けるせいでなかなか答えが出ない。
「アロン?」
「お、俺は…………」
優柔不断な姿に痺れを切らしたのはライネスだった。
「早く受け取れ!時間の無駄だ!」
「っ!いきなり連れてきたのはお前たちのほうだろ!迷うのは当然だ!」
「お前たち人間は無駄が多すぎる!」
ライネスは箱を雑に開けて中かから輪っかのようなものを取り出した。どう見ても指輪ではない。
だというのにライネスはそれを持ってアロンに近づこうとする。
「おい、待て!なんだそれはーー」
待たずにライネスは逃げようとするアロンのあごをつかんで引き寄せ、その首に輪っかをはめ込んだ。カチッという金属音とともに「できた」というライネスの冷たい声が響いてくる。
あごを離されてアロンは慌てて後退し、苦しげな咳をしながらのどもとを触った。
「ケホッケホッ!何をつけた!?」
アロンが首につけられたものを外そうとするが、どこを触っても繋ぎ目のようなものは見当たらない。
「クソッ!なんなんだこれは!」
「アロン!大丈夫かい?……ライネス!もう少しきみは優しくできないのか!」
「こういうガキにはしっかりと上下関係を教え込まないと必ず噛みついてくる。調教には必要なことだ」
「彼は人間だ!使えなくなったパーツを取り替えれば治る我々とは違うんだ!」
「わかった、わかった!説教はいいから可愛い可愛い人間ちゃんが無事なのかもう確かめなくていいのか?」
「後で説教する!ああ…アロン、苦しいか?」
「外れねぇ!なんだよこれは!早く外せっ!」
エルヴィスが困ったような顔でアロンの首もとをそっと触った。
「すまない、それはできないんだ」
「なんでだ!?」
「それはきみがここで暮らすために必要なものだし、私たちの結婚指輪でもあるんだよ。人間は結婚する時に大事なものを交換するのだろう?それならば指輪の形でなくともいいはずだ。大丈夫、すぐに慣れるよ」
慈しみさえ感じる表情なのに、アロンはその表情と同じような優しい声を聞きながら体の芯が冷えていくのを感じた。
「いいから外せ!俺はお前たちの犬じゃないぞ!」
「きみを犬だなんて思ってない!ただ、必要だから……そんなに怒らないでほしい。そうだ!贈り物をまだあげていなかったね!これで機嫌を直してほしい。人間なら喜ぶはずなんだ」
エルヴィスはいそいそと壇上の台の下に隠した四角い箱を取り出した。
「ほら、指輪も交換したし、次の段階に踏み込まないと。開けてみて」
アロンは今度は何を渡されるのかと警戒し、差し出された箱に一歩距離を取った。
「大丈夫だよ、アロン。人間同士の愛の確かめ方はちゃんと学んできたから、よろこんでくれると思うよ。私やライネスは愛に不向きかもしれない。職種型と戦闘型機体だから、どうしても伴侶型機体のような細かい感情表現ができない。でもちゃんとそれを補うように方法を考える。だから、私たちを受けいれてくれないか?」
「……入ってるのは、変なものじゃないだろうな」
「もちろん!」
先ほどみたいにライネスの手が出る前になんとか箱を受け取って、ごくっとのどを鳴らしてリボンを解いた。
上質な素材の箱を開けると、中に入っていたものを見てアロンの顔が瞬時に引きつった。
入っていたのは男性器を模した器具だった。
それも一つだけではない。シンプルな形のものもあれば、アロンでは使用用途がわからないおもちゃみたいなサイズ感のものまである。
なんだよ……これ。
あきらかに贈り物に適するようなものじゃないとわかる。
「言ったじゃないか。不足なところは補うように方法を考えると」
ハッとしてアロンはエルヴィスを見上げた。
「補う……?これが?」
「そうだよ。職種型や戦闘型には人間を模した生殖機能はない。それがあるのは伴侶型だけだよ。だから人間のような愛の営みは器具を頼るしかない。アイロ、おいで。必ず人間のようにきみを愛してあげる」
「な、なんだ……これ」
色彩差はあるものの、カーテン、床、机、椅子、そして全ての置物が真っ白だった。唯一違うのがバラの茎と葉ぐらいである。
部屋の中央寄りには奥へ上がる短い階段があり、壇上には2人分の姿があった。
ひとりは白いスーツ姿のエルヴィスであり、もうひとりが黒い軍服の男、ライネスだった。
エルヴィスはドアが開けられるや否や興奮が抑えきれないといった様子で前へ出迎えに行き、ライネスは壇上で腕を組み、不思議そうにひょいと片眉を上げた。
「アロン!待っていたよ!」
エルヴィスはアロンの手を取り、壇上のほうへと導こうとする。逆にアロンはそれに反抗するものの、思った以上に相手の力が強く、自分の手すら引っ込めない。
「おい!離せ!」
「ほら、おいで。きみへとってもいい贈り物を準備したんだ!」
「離せって!」
階段を引きずられるように上がり、壇上の前に無理やり立たされる。
やっと相手の力が緩められ、アロンはパッと手を引っ込めて後ろに隠した。まるで負傷した獣のような表情で睨み上げて言う。
「離せと言っただろ!1人で歩ける!」
「す、すまない!怒らせるつもりはなかったんだ。ただ、早くきみに贈り物を渡したくて」
アロンがなおも何か言いたげに眉を吊り上げているとふと後ろから声が響いてきた。
「着てこなかったのか?」
「は?何がだ!」
「お前に用意しただろ。結婚用の衣服だ。メモに書いてベッド横の棚に置いてあっただろ?」
ライネスはアロンが入ってきた時から自分の用意した服を着ていないことに気づいた。かなり丹精込めて用意しただけに残念げなため息が出る。
「将来の嫁さんだからと気合入って準備したけどな」
凶悪顔の男に残念と言いたげな顔でそう言われると、アロンの中でもさすがに申し訳ない感情が湧いてくる。だが、
「胸とケツの部分に穴あけといたから見ものだと思ったがな」
その言葉で申し訳ない感情が一瞬でチリも残さずに消滅した。
「この……ッ!」
「そんなに怒らないでくれ!ほら、アロン指輪を交換しよう!」
エルヴィスは爆発寸前のアロンに向かってひざまづき、やけに大きな平ための箱を取り出した。
「な、なんのつもりだ…?」
その様子を見てライネスがため息をつく。
「おい、エルヴィス。それは求婚の時に人間がする動作だ。今やらなくていい。というかその過程はもう過ぎた」
「なっ!間違っていたのか私は!」
「だから突っ走るなと日頃から言ってるだろ」
「それじゃあ、改めて。アロン、私たちと結婚をしてくれないか?この体が錆びるまできみを愛し続けると誓うよ」
アロンはぐっと言葉につまって目線を彷徨わせた。ここまできて迷いが残り続けるせいでなかなか答えが出ない。
「アロン?」
「お、俺は…………」
優柔不断な姿に痺れを切らしたのはライネスだった。
「早く受け取れ!時間の無駄だ!」
「っ!いきなり連れてきたのはお前たちのほうだろ!迷うのは当然だ!」
「お前たち人間は無駄が多すぎる!」
ライネスは箱を雑に開けて中かから輪っかのようなものを取り出した。どう見ても指輪ではない。
だというのにライネスはそれを持ってアロンに近づこうとする。
「おい、待て!なんだそれはーー」
待たずにライネスは逃げようとするアロンのあごをつかんで引き寄せ、その首に輪っかをはめ込んだ。カチッという金属音とともに「できた」というライネスの冷たい声が響いてくる。
あごを離されてアロンは慌てて後退し、苦しげな咳をしながらのどもとを触った。
「ケホッケホッ!何をつけた!?」
アロンが首につけられたものを外そうとするが、どこを触っても繋ぎ目のようなものは見当たらない。
「クソッ!なんなんだこれは!」
「アロン!大丈夫かい?……ライネス!もう少しきみは優しくできないのか!」
「こういうガキにはしっかりと上下関係を教え込まないと必ず噛みついてくる。調教には必要なことだ」
「彼は人間だ!使えなくなったパーツを取り替えれば治る我々とは違うんだ!」
「わかった、わかった!説教はいいから可愛い可愛い人間ちゃんが無事なのかもう確かめなくていいのか?」
「後で説教する!ああ…アロン、苦しいか?」
「外れねぇ!なんだよこれは!早く外せっ!」
エルヴィスが困ったような顔でアロンの首もとをそっと触った。
「すまない、それはできないんだ」
「なんでだ!?」
「それはきみがここで暮らすために必要なものだし、私たちの結婚指輪でもあるんだよ。人間は結婚する時に大事なものを交換するのだろう?それならば指輪の形でなくともいいはずだ。大丈夫、すぐに慣れるよ」
慈しみさえ感じる表情なのに、アロンはその表情と同じような優しい声を聞きながら体の芯が冷えていくのを感じた。
「いいから外せ!俺はお前たちの犬じゃないぞ!」
「きみを犬だなんて思ってない!ただ、必要だから……そんなに怒らないでほしい。そうだ!贈り物をまだあげていなかったね!これで機嫌を直してほしい。人間なら喜ぶはずなんだ」
エルヴィスはいそいそと壇上の台の下に隠した四角い箱を取り出した。
「ほら、指輪も交換したし、次の段階に踏み込まないと。開けてみて」
アロンは今度は何を渡されるのかと警戒し、差し出された箱に一歩距離を取った。
「大丈夫だよ、アロン。人間同士の愛の確かめ方はちゃんと学んできたから、よろこんでくれると思うよ。私やライネスは愛に不向きかもしれない。職種型と戦闘型機体だから、どうしても伴侶型機体のような細かい感情表現ができない。でもちゃんとそれを補うように方法を考える。だから、私たちを受けいれてくれないか?」
「……入ってるのは、変なものじゃないだろうな」
「もちろん!」
先ほどみたいにライネスの手が出る前になんとか箱を受け取って、ごくっとのどを鳴らしてリボンを解いた。
上質な素材の箱を開けると、中に入っていたものを見てアロンの顔が瞬時に引きつった。
入っていたのは男性器を模した器具だった。
それも一つだけではない。シンプルな形のものもあれば、アロンでは使用用途がわからないおもちゃみたいなサイズ感のものまである。
なんだよ……これ。
あきらかに贈り物に適するようなものじゃないとわかる。
「言ったじゃないか。不足なところは補うように方法を考えると」
ハッとしてアロンはエルヴィスを見上げた。
「補う……?これが?」
「そうだよ。職種型や戦闘型には人間を模した生殖機能はない。それがあるのは伴侶型だけだよ。だから人間のような愛の営みは器具を頼るしかない。アイロ、おいで。必ず人間のようにきみを愛してあげる」
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