11 / 225
来客対応
エルドと温室に行ってから3日が経った。
アロンはやることがなさすぎて毎日窓辺でぼうとするか、庭園を散歩していた。
この期間、なんの刺激を受けたのか、エルヴィスがことあるごとに薔薇の花束を贈るようになった。
そのため、それを避けるためにアロンはなんとか見つからないようにこっそりと部屋を抜け出して庭園に避難するが、なぜか毎回見つかる。
最初こそエルドが監視カメラを通して自分の居場所を教えているのではと疑ったが、エルヴィスを捕まえて白状させるとどうやら、自分の首につけられている輪っかにGPS機能があるらしい。
専門用語に訳のわからない顔をしたアロンだが、簡単に「居場所がわかる装置」と説明されると怒りからその場でエルヴィスに殴りかかった。
もちろんエルヴィスに傷ひとつつけられず、自分の拳を傷めるだけだった。その後謝られることにさらなる怒りを覚え、しゃがんだ相手の肩に蹴りを入れると部屋に逆戻りした。
そして現在、ベッドで腕を組み、収まらない怒りに肩が激しく上下している。
ふーっ、ふーっ!
ギリギリと奥歯を噛み締め、何かを地面に叩きつけたい衝動に駆られる。
「何がじーぴーえすだ!ふざけやがって!」
ちなみにこの3日間、ほとんどエルヴィスとしか顔合わせをしない。
ライネスは軍部での仕事でむしろ帰ってこないほうが多いらしい。アロンにとっては吉報である。
エルドに関しては衣食住のほぼ全てをこの建物で過ごすが、基本監視カメラの処理や情報伝達などの仕事により顔を出さないことが多い。
よって、エルヴィスは書類仕事や会議が終わると隙を見つけてアロンの前に姿を現し、おのずと会う確率も他の二人より高い。
アロンが床を足でドスドスと踏んでいると突然ドアの来客通知音が鳴った。
「誰だよ!」
「あの!僕たちは給仕の者です。市長から贈り物が届きました!」
「またお前たちかよ!どうせ薔薇だろうがよ!」
「はい!」
「はい!じゃねぇよ!」
アロンはドスドスと足音を響かせてドアを開けた。
見た目アロンとそう変わらないアンドロイドの少年がふたり、ワゴンの側に立っていた。
少年ふたりは設定年齢16らしい。アロンはすでに成人年齢の18歳に達するため、年齢では上でも長年の栄養不足と不健康な生活により背丈も体つきもふたりより小さく見える。
少年アンドロイドのふたりを選んだのは他でもないエルヴィスの提案だった。
歳や見た目が近ければアロンも接しやすいのだろうという配慮からくるものである。もちろん提案の原案者はエルドである。
ちなみに少年アンドロイドたちは補助型であり、なんらかの原因で塞ぎ込む人間を社会生活に戻すための手助けをする友達アンドロイドとして開発されている。見た目や年齢幅が広く、一人っ子の家庭でも重要視されており、多くは必要な期間だけ貸出しとして利用されている。
攻撃性がなく、親しみやすい顔立ちをしたのが補助型に多く見られる特徴である。
だが、そんなこと怒り心頭のアロンには関係がなかった。
少年のうち、茶髪の少年のえり首をつかんで思い切り引き寄せたアロンは、腹の底から絞り出したような声で警告した。
「次こんなゴミを持ってきたら頭かち割るぞ。そうエルヴィスに伝えろ!」
パッと手を離したが、それだけには留まらず、ワゴンに綺麗に飾られた赤系統の薔薇たちを握りつぶすか床に叩き落とし、トドメに真ん中に置かれた薔薇の花束を床に投げ捨て足で思い切り何度も踏みつけた。
ドスッドスッドスッ
少年達の顔色があわあわと変わるのも気にせず、アロンはひとにらみするとふんっと鼻を鳴らした。
ドアが閉まると少年達はお互い顔を見合わせてため息をついた。
「せっかく綺麗な花たちなのになぁ」
「職員たちに配ってもいいのに、もったいない」
一方で、部屋に戻ったアロンは多少怒りが収まってきたようで先ほどまでの何かを地面に叩きつけたい衝動がなくなっていた。
そうなると今度はやることがなくなって庭園に出かけたくなってきた。
しかし何度も行くと多少飽きてくる。
そういえばここに来てから建物の外に出たことなかったな。初めて来た時は周りをゆっくり見れなかったけど、中心部の街がどうなのか気になるな。
そこまで考えてちらっとドアの方向を見やる。
外で片付けをしていた少年達はさっきまで閉まっていたドアが開いたことで床から顔を上げた。
アロンの姿がちょうど開いたドアの端に隠れるように顔と足だけをのぞかせている。
茶髪の少年が立ち上がり、手に持った薔薇の残骸をワゴンに置くと両手を体の前で組んだ。
「アロンさん、どうかなさいましたか?」
「エルヴィス今どこにいるんだ?」
「えーと」
少年ふたりが言いにくそうに顔を見合わせた。
「なんだよ。また会議とかいうやつか?」
「いえ!そうではなく……その、現在来客の対応中でして……」
「へぇ……」
「ア、アロンさん?」
アロンがニヤッと笑ったのを見て少年が目をぱちくりとさせた。
「じゃましに行ったら、あいつ困るか?」
「えーと、はい……おそらくは」
「案内しろ」
「え?」
「案内しろって言ってんだよ。あいつの味方するならどつくぞ」
「え、え?いや、あの……」
「ほら、行くぞ!」
アロンは少年の腕を引っ張ると廊下を大股に歩き出した。心の中でどうエルヴィスに復讐するのかを考えながら人の悪い笑みを浮かばせた。
反対にその笑顔を見て少年の顔に心配と焦りの表情が浮かぶ。
どうしよう……アロンさんの表情的にとても市長に会いたいという顔ではない。むしろ子どもが悪巧みをしている時の顔とよく似ている!
会議室にて現在、エルヴィスは来客の対応をしていた。
相手は市役所のいち部局長であり、本来なら今日面会の予定はないはずだった。
「今日はどうなさいましたか?」
エルヴィスはアロンと接する時の人の良い笑みはなく、どこか控えめで他人行儀な笑みで対面に座る2人を見つめていた。
やけに笑顔な中肉中背の男が部局長の男、その隣で鞄をひざに置き、頬を染めて座っているのは娘らしい。
エルヴィスはふたりの反応を目に映してから紅茶をすすめた。
「どうぞ、お茶を」
「いやぁ、市長どの、申し訳ない!ありがたくいただきます!」
「ありがとうございます。エルヴィスさん」
「いえ、それで、今日はどのようなご用件で?」
一口飲んだ紅茶をテーブルに置き、局長が姿勢を正した。
「実は市長どのがご結婚されたとお聞きしました」
「ずいぶんと知るのがお早い」
「いやぁ、たまたまです!実は我が娘も前々から市長どのを慕っており、支配階級のアンドロイドと結婚が可能になった今だからこそ、いい機会なのではと」
アンドロイドと人間の結婚が可能となったのはここ数年の話である。しかもそれは支配階級のアンドロイドに限定される。
もし伴侶型という人間の理想を詰め込んだアンドロイドと結婚可能になれば人間の存続危機に関わる。
支配階級のみが結婚可能なのは主に人間で言うところの政略結婚に近い。しかも生殖不可なので、人数の限定もない。
「つまり……」
エルヴィスはちらりと局長の隣に座る娘を見た。顔をさらに赤くして指先をからめている。その姿はどこか可憐で、主張も低く、立てるべき相手を知っているように見える。
はたから見れば魅力的に映るだろう。だが、職種型アンドロイドとして、エルヴィスには人間のような欲望はない。
なので娘に対してもあくまで第三者からの評価しかできない。
「ぜひ我が娘も、あなたのお側に置かせていただけないでしょうか。多くは望みません。ただ、この子をもらっていただけるだけで、ええ」
「なるほど、そういうことですか」
エルヴィスの視線はどこか興味を失せたかのように下げられた。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
春野くんち―僕の日常は、過保護な兄弟たちに囲まれている―
猫に恋するワサビ菜
BL
春野家の朝は、いつも賑やかで少しだけ過保護。
穏やかで包容力のある長男・千隼。
明るくチャラめだが独占欲を隠さない次男・蓮。
家事万能でツンデレ気味な三男・凪。
素直になれないクールな末っ子・琉生。
そして、四人の兄弟から猫のように可愛がられている四男の乃空。
自由奔放な乃空の振る舞いに、兄たちは呆れながらも、とろけるような笑顔で彼を甘やかす。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
召喚された聖女の俺は生真面目な護衛騎士に愛されたい
緑虫
BL
バイト帰りにコンビニを出た瞬間、西洋風な服装のおじさんたちに囲まれた片桐隼人(かたぎり はやと)。
「聖女様が御姿を現されたぞ!」
「え、あ、あの」
だが、隼人を聖女と呼ぶ赤毛の王子は隼人が男と知ると態度を豹変。金髪碧眼の美貌の騎士レオが「――ここにもうひとりおります!」と言ったことで、聖女召喚に巻き込まれただけの一般人としてレオと共に城を追い出されてしまう。
てっきりこれはドッキリの類だと思い込む隼人は、「早く家に帰ってインスタント焼きそば(辛子マヨネーズ味)を食べたい!」と願うが、事はそううまくは運ばない。
「我レオ・フェネオン、騎士の名誉に誓い、真の聖女様に揺るぎなき忠誠を捧げる」
あまつさえ、レオにそんなことを言われてしまう。
レオに連れられて異世界を移動するうちに、魔物に襲われてしまう二人。
光り輝く剣で敵を倒すレオは格好いいけど、隼人は最早リバース寸前だった。
――ここまできたら、いい加減認めざるを得ない。俺がいる場所が施設の中とかプロジェクションマッピングとかじゃなくて、本物の異世界だってことを!
だが、元の世界に帰る為には、別の召喚陣がある場所まで行かなければならない。そんな訳でレオと二人、隣国に向けて逃亡を始めた。
レオ以外に頼る相手のいない隼人は、ひとりになった瞬間恐怖に襲われる。
するとレオが「では、私の祖国に到着し王家に保護されるまでの間、私とハヤトは結婚を間近に控えた恋人同士の設定でいきましょう」と何故か言い出し――?
オメガバースは独自設定です。ご了承下さい。
秘密多き生真面目イケメン騎士攻めx明るい勤労大学生受け
ハピエン、完結保証。ムーンライトノベルズにも掲載中。
聖女(男)・騎士・追放・後宮・溺愛・執着・王子・異世界・召喚・敵国・偽装・オメガバース(α、Ω)