悪徳騎士と恋のダンス

那原涼

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第二章

行商隊

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ウィオルがシャスナ村に来て2か月が経った。

完全に、朝起きて夜寝るという生活習慣になったギルデウスのせいか、村の活気はウィオルが初めて来た時より一段と下がった。

アルバートが「なんでギル坊は寝る時間を戻したんだ……」と1日に一回は嘆くようになった。

巡邏当番として、ウィオルが新しく配られた剣をベルトに差そうとした時、ふと剣の柄頭に見覚えのある傷があった。

ハッと何かに気づき、剣を鞘から抜いて全体を確認する。

「やっぱりだ。以前使っていたものと同じだ」

ギルデウスの失踪事件の時、モレスを殺そうと本人に持っていかれたきり見ていないあの剣である。

「なんでこれがここにあるんだ……」

騎士の剣の再配給はある程度の工程があるため、特にシャスナ村のような帝都から離れた場所にいる騎士への配給は遅れることがある。

ウィオルも再配給の申請をしてからずっと待っており、つい昨日に剣をもらったのだ。

「今初めて気づいた……」

剣の出現に訳が分からず首を傾げている時だった。ドンッとドアが蹴り破られた。

「遅いぞ!!」

怒声響かせてギルデウスがドア前に立っている。ドアの金具からギチっという音がした。

「ドアが壊れるから蹴るなとあれほど言っただろ!」

だいぶ敬語なしにも慣れてきた。ちなみに言えば名前も呼び捨てにできるようになった。

ウィオルは剣を鞘に収めて腰に差した。

「他のやつらはもう全員行った!いいもん持ってかれるぞ!」

「別に山分けするわけじゃないし、そんなに心配することないだろ」

ギルデウスが心配しているのは村に来ている行商隊のことである。

シャスナ村はもともと旅人や商人が足休めにする途中経過の場所であるため、こうしてたまに物資交換もする。ギルデウスはほとんど日中は寝ているので、こうして交換に参加することが少ない。なので本人なりに期待しているのかもしれない。ウィオルはそう考えた。だからか、ドアを蹴るという行為にそれ以上のいさめはしなかった。

「じゃあ、行こう」

2人がともに駐屯舎を出ると、バッとウィオルに抱きつく人がいた。

「ウィオル!!ーーヒュッ」

ウィオルの名前を叫んでいたレクターはその隣にいるギルデウスを見て言葉を飲み込んだ。

そのまま固まってしまう。

なんとかレクターをギルデウスから離れさせて正気に戻した。

「どうした?」

「ギ、ギルデウス様もいるのか!?」

「ああ、行商隊を見に行くらしい」

「ウソ!?」

「本当だ。それよりどうした?」

「それより!?いや、まあそうか。大変だよウィオル、どうやら行商隊のほうで村人と騒ぎを起こしてしまったみたいで、団長たちが対応しているけど、向こうの人数が多いんだ」

「騒ぎ?なんでそうなった」

騒ぎと聞いてギルデウスが反応した。

「それが、村人が商人の持ち物を壊したみたいで、かなり高値のものらしい」

「なるほど、それはやっかいだな」

だが、レクターはもじもじしてまだ何か言いたげである。

「まだ何かあるのか?」

「その、少しおかしいんだ」

「何が?」

「来たのは行商隊って言ったよな?通常村に来るのは数人程度なんだよ。村は見ての通り大きいけど、大人数の行商隊が来るような場所じゃないんだよ。雨や雷もなかったから道が歩きにくいなんてこともないのに、あんな大人数でわざわざこの村に来るのがおかしいんだ。大人数だから品物も多くて、そのせいで村人たちがみんな集まっちゃって、現場が騒がしくなって手がつけられないんだよ」

言われてみればそれは少しおかしかった。ウィオルはあごに手をそえて考えた。

「とりあえず現場に行こう。手がつけられないんだよな?」

「うん!それと、これを渡せって団長が言ってた」

手渡されたのは黒い布だった。

「これは?」

レクターが口をウィオルの耳に近づかせてささやくように言う。

「ギルデウス様につけるんだよ。目を隠すためだって言ってた。先日商人が立ち寄っただろ?その人から仕入れたらしい。布に近づけてみるとわかるけど、つけている人はある程度周りが見えて、周りからはただの黒い布にしか見えないらしい」

ちなみにつけている人の目を間近で見るとそれも見えるらしい、と付け加える。

ウィオルは布とレクターを交互に見て、布をレクターの目に当ててみた。顔を近づかせて、

「本当だ。薄らだけど見えるな」

レクターが顔を赤くして離れた。

「俺で試すなよ。いるじゃん、本人が」

レクターがどこか意味深い表情でギルデウスを小さく指差す。

「確かに。でもそうしたら怒られそうだな」

「そうかな?タメ口許されているのにこれだけで怒らないと思うけど。とりあえずお邪魔虫な俺はさっさと逃げ、じゃなくて現場で対応してくる」

「レクター、まさかだと思うがまだ……」

「何が?俺ーーはっ!それじゃ先に行ってくる!!」

そう言ってレクターはまるで逃げるように走り去って行った。

何におびえているんだ?

その時、ウィオルの肩にポンと手が置かれた。ギルデウスはウィオルの肩に置いたとは反対の手であごをつかむ。

「お前、あのガキに興味があるのか?ん?」

「顔が怖いぞ。やめろ、離れろ」

「ずいぶんと親しく見えたようだが?」

「いつもと変わらないだろ!何に怒っているんだ!」

「あんなに顔近づかせて、俺じゃ無理なのにか?」

「何を想像したのかわからないけど、絶対そうじゃない!!それにレクターは俺とお前のことを……」

そこまで言ってウィオルは言葉を切った。とりあえず関係を誤解されていることは黙っておくことにした。

「なんでもない……とにかく離せっ!」

ギルデウスの手から抜け出すとウィオルはつかまれたあごをさすった。

本当に力加減のできない人だな。もうこれで何回目だ。








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