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第5部『Resonant Fate(響命)』
第54話『VESSEL OF EMBER(魂の燻り)』B part
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扉の候補者、ローダ・ファルムーンと扉の鍵、ルシア・ロットレンが裏で先導しながら戦之女神の都、ロッギオネの奪還作戦が新月の闇を縫い開始された。
街灯を全て消した街で、僧兵フィエロ・ガエリオが先陣切った第1小隊が、暴徒の様に敵の砦目掛け馬の蹄鳴らし進軍。砦を守護する連中の意識誘い出す必然呼び込む。
処でこの砦、旧マーダ軍がこの街を蹂躙した後、ロッギオネを収める者の為に建造された。
周囲を15m程の壁で覆った大体四角形の建造物。壁の四隅に地上を見渡せる櫓が存在する。壁には出入口以外、覗き窓がまるで存在しない。
中の構造に明るい者は戦之女神側に居ないのだが、砦と云うよりまるで刑務所を彷彿させる薄気味の悪さがあった。
然も出入りする者達の数が矮小な割、一体何を収めているんだと首を傾げたくなるほど巨大。四方の壁と建物は一体を成していた。
この砦内部で可愛い男の血肉貪りたき欲求駆られたフィスチノと云う、人なのか危うき者が座している。
少なくとも現状報告では、極ありふれた人の身の丈であり、例え権威を振り翳すにせよ解せぬ無駄多き建物なのだ。
そして件のフィスチノ──。
ローダ達がどれだけ忍んで襲撃を掛けようとも実の処、全く以って意味を成さない。
何しろ可愛い血肉湛えた男の血を人間離れした嗅覚で察知出来る。
Forteza市からやってきた英雄ローダの血。加えて可愛い男を愛する女傑は、最高の浸け合せ。依ってルシアの存在も知り抜いていた。二人は最高の撒き餌になっていた。
早い話、手薬煉引いて今か今かと待ち侘びているのだ。ローダは、対人戦に於いてかなり経験値を増しつつあるが、人外らしきフィスチノについて認識が甘かったと言わざるを得ない。
人外の気配を悟る──。
そうした意味ではルシア、そして彼女の器に居る人の意識を知れるヒビキとて持ち合わせが足りなかった。
兎に角先ずは砦を破壊し敵を丸裸にする。その後は如何ようにも為ると思っていた。
仮にロッギオネの軍人達が敗色濃厚に至れば英傑二人が敵前に出ればカタがつく。ローダとルシア、少し増長しているのやも知れなかった。
「──風の精霊達よ、あの連中の耳へ悪戯をして頂戴」
賢士の藍染が夜空に沈んだルシア、賢士の御業に非ずな精霊達を口遊む。
砦の最上階、櫓から地上を監視しているホブゴブリンやコボルトなど、亜人族の鼓膜を風の精霊で揺さぶる聴覚無効化。
以前ヴァロウズ7番目の大気使い、ザラレノにやられた内容を応用した迄の事。
聴覚を喪失し、狼狽える敵兵達へ、拳の形で固めた土の精霊達を正確無比に飛ばし断末魔すら出せぬよう、頭毎刈り取るルシアの隠密。
敵の残兵──砦内は不明だが、各出入口に配された連中だけ。要は彼等に後方から押し寄せる本軍を気取られなければ作戦は成功なのだ。
そうした狙い含む早駆けのフィエロ達が砦の出入口へ取り付いた。見た処、外回りの敵は少数。
フィエロ達は至る場所でわざと爆音を鳴らし尽くし、乱戦を装っていたので敵兵達は、その音に釣られ本命であるフィエロ達の寄せに気付くのが遅れた。
「戦之女神よ、あの者等に心安らかなる刻を──『天使之休息』」
門番達──あっと気付いた時、既にカタがついた憐れを知る。
フィエロの母、エリナ司祭が囁く眠りの奇跡だ。本来眠れぬ病や眠らせるより他なき存在を落とすのが目的。
門番達、聞いたが最期。あっという間に眠りに誘われ、フィエロ達の手に堕ち絶命に瀕した。
後は鎖で引き上げ閉じられた門だけである。
今度ばかりは音だけない本物を火薬を仕掛け、やはり派手を装いフィエロ達12名は、難なく砦侵入を果たした。
◇◇
「クククッ……来たわ来たわ。それにしてもあの男、芳醇なワインの如く、好い香りがするッ! 嗚呼、一刻も早く血肉を味わいたい!」
敵の大将フィスチノは、近寄って来たローダの香りで既に酔いしれていた。目が蕩け涎も垂らす、到底人の上に立てぬ醜態を晒す。
「そして空の女。これもやはり極上! 此奴を喰らえば後100年、美しいままでいられそ…」
浸け合せと評さえたルシアも彼女の御眼鏡にすっかり適った。ルシアの中に眠る命の座さえも気取られたやも知れない。
「さあ、早くいらっしゃい。──貴様、サッサと役目を果たしな。獲物は殺すな」
隣に居る黒づくめの者に対する命令口調──冷たく言い放つフィスチノ。
黒服──服には見えぬ処、肌の色から着衣まですべからず黒い者が無言のまま立ち上がった。
◇◇
フィエロ達が砦内部へ進撃を果たすと、またもや亜人達が各々の武器を携え続々襲い掛かって来た。
されど武器だけでなく攻撃手段もまるで整然としない族に等しき敵兵達。
どれだけ数で押され様ともフィエロ等の敵ではなかった。
フィエロ等僧兵達が敵を討ち倒す最中、小型のクロスボウを装備した盗賊達は、砦の壁際に向け黒い弾を幾重にも飛ばし続けていた。
特に炸裂する訳でなく、音も反響しない。一体何を狙っているのか不明瞭。
されど知能が低いのか、オーク等の亜人達は襲い来る相手だけを求め武器を振るう。それ故クロスボウに依る仕掛けに目もくれなかった。
砦へ突貫果たした最前列はフィエロを中心とした棒術使いの僧兵達。
最後列、砦2階へ続く階段手前。
たった独り、上の階から降りて来る敵を薙ぎ払う勇ましき者が居た。
この者、何と無手であった。黒塗りのマント下、一見武器の様な先の尖った物が見え隠れしてはいた。だがよくよく見れば手刀、敵を斬り裂く瞬間のみ両刃の剣が見える不可思議。
偶に覗く緑色の髪と品位漲る紫の鋭利な瞳──。
何と正体は賢士、スオーラ・カルタネラであった。剣に見える物は術の類か。
現状、襲撃する敵兵は一網打尽──2、3度程武器で語った後、絶命させた。
尚、ローダは砦の外。後方に配置済である本陣と先鋒を結ぶ中間地点に陣取る。不測の事態が発生し、味方が分断されるのを防ぐのが目的なのだ。
先ず第一の目論見は巧く運び胸を撫で下ろす。ロッギオネの僧兵達は未だ勇猛果敢也──此れだけ活躍してくれたら、世界へ堂々示せるのだ。
バサバサッ……。
砦の外で待機していたローダ、羽根のはためく音が耳に轟いた。
一挙緊張が背筋を走り抜け、音の主を探すべく周囲を見渡すが発見出来ない。
「やあ、初めまして。君がローダ・ファルムーン君、そして空に浮き待機してるのが鍵の女性だね」
「だ、誰だッ!?」
妙に友好的で落ち着いた声に思えたローダ、されど敵の姿形が見えぬのだから緊張の糸、解れる訳がない。自分だけなくルシアの正体すら知り尽くした不気味。
「此処だよローダ君。自己紹介をしておこうか、私はラウム。今は訳在って君達の敵だ」
崩れた建物同士が色濃くした影の中からローダは呼び込まれた。
人の5倍は在りそうな巨大な烏が翼を広げ夜空で制止。嘴から発せられたのは、落ち着き払った男の声であった。
ハイデルベルク時代、兵学校で習った名前。ローダの心拍が急激に高鳴る。
ラウム──。
教科書の記述、悪魔学に於ける悪魔の独り。『ゴエティア』に記載された『ソロモン72柱の悪魔』の1柱を担う魔神。
この巨大な烏がローダの知るラウムだとするなら神話の魔神を自分達は相手取る事になるのだ。
街灯を全て消した街で、僧兵フィエロ・ガエリオが先陣切った第1小隊が、暴徒の様に敵の砦目掛け馬の蹄鳴らし進軍。砦を守護する連中の意識誘い出す必然呼び込む。
処でこの砦、旧マーダ軍がこの街を蹂躙した後、ロッギオネを収める者の為に建造された。
周囲を15m程の壁で覆った大体四角形の建造物。壁の四隅に地上を見渡せる櫓が存在する。壁には出入口以外、覗き窓がまるで存在しない。
中の構造に明るい者は戦之女神側に居ないのだが、砦と云うよりまるで刑務所を彷彿させる薄気味の悪さがあった。
然も出入りする者達の数が矮小な割、一体何を収めているんだと首を傾げたくなるほど巨大。四方の壁と建物は一体を成していた。
この砦内部で可愛い男の血肉貪りたき欲求駆られたフィスチノと云う、人なのか危うき者が座している。
少なくとも現状報告では、極ありふれた人の身の丈であり、例え権威を振り翳すにせよ解せぬ無駄多き建物なのだ。
そして件のフィスチノ──。
ローダ達がどれだけ忍んで襲撃を掛けようとも実の処、全く以って意味を成さない。
何しろ可愛い血肉湛えた男の血を人間離れした嗅覚で察知出来る。
Forteza市からやってきた英雄ローダの血。加えて可愛い男を愛する女傑は、最高の浸け合せ。依ってルシアの存在も知り抜いていた。二人は最高の撒き餌になっていた。
早い話、手薬煉引いて今か今かと待ち侘びているのだ。ローダは、対人戦に於いてかなり経験値を増しつつあるが、人外らしきフィスチノについて認識が甘かったと言わざるを得ない。
人外の気配を悟る──。
そうした意味ではルシア、そして彼女の器に居る人の意識を知れるヒビキとて持ち合わせが足りなかった。
兎に角先ずは砦を破壊し敵を丸裸にする。その後は如何ようにも為ると思っていた。
仮にロッギオネの軍人達が敗色濃厚に至れば英傑二人が敵前に出ればカタがつく。ローダとルシア、少し増長しているのやも知れなかった。
「──風の精霊達よ、あの連中の耳へ悪戯をして頂戴」
賢士の藍染が夜空に沈んだルシア、賢士の御業に非ずな精霊達を口遊む。
砦の最上階、櫓から地上を監視しているホブゴブリンやコボルトなど、亜人族の鼓膜を風の精霊で揺さぶる聴覚無効化。
以前ヴァロウズ7番目の大気使い、ザラレノにやられた内容を応用した迄の事。
聴覚を喪失し、狼狽える敵兵達へ、拳の形で固めた土の精霊達を正確無比に飛ばし断末魔すら出せぬよう、頭毎刈り取るルシアの隠密。
敵の残兵──砦内は不明だが、各出入口に配された連中だけ。要は彼等に後方から押し寄せる本軍を気取られなければ作戦は成功なのだ。
そうした狙い含む早駆けのフィエロ達が砦の出入口へ取り付いた。見た処、外回りの敵は少数。
フィエロ達は至る場所でわざと爆音を鳴らし尽くし、乱戦を装っていたので敵兵達は、その音に釣られ本命であるフィエロ達の寄せに気付くのが遅れた。
「戦之女神よ、あの者等に心安らかなる刻を──『天使之休息』」
門番達──あっと気付いた時、既にカタがついた憐れを知る。
フィエロの母、エリナ司祭が囁く眠りの奇跡だ。本来眠れぬ病や眠らせるより他なき存在を落とすのが目的。
門番達、聞いたが最期。あっという間に眠りに誘われ、フィエロ達の手に堕ち絶命に瀕した。
後は鎖で引き上げ閉じられた門だけである。
今度ばかりは音だけない本物を火薬を仕掛け、やはり派手を装いフィエロ達12名は、難なく砦侵入を果たした。
◇◇
「クククッ……来たわ来たわ。それにしてもあの男、芳醇なワインの如く、好い香りがするッ! 嗚呼、一刻も早く血肉を味わいたい!」
敵の大将フィスチノは、近寄って来たローダの香りで既に酔いしれていた。目が蕩け涎も垂らす、到底人の上に立てぬ醜態を晒す。
「そして空の女。これもやはり極上! 此奴を喰らえば後100年、美しいままでいられそ…」
浸け合せと評さえたルシアも彼女の御眼鏡にすっかり適った。ルシアの中に眠る命の座さえも気取られたやも知れない。
「さあ、早くいらっしゃい。──貴様、サッサと役目を果たしな。獲物は殺すな」
隣に居る黒づくめの者に対する命令口調──冷たく言い放つフィスチノ。
黒服──服には見えぬ処、肌の色から着衣まですべからず黒い者が無言のまま立ち上がった。
◇◇
フィエロ達が砦内部へ進撃を果たすと、またもや亜人達が各々の武器を携え続々襲い掛かって来た。
されど武器だけでなく攻撃手段もまるで整然としない族に等しき敵兵達。
どれだけ数で押され様ともフィエロ等の敵ではなかった。
フィエロ等僧兵達が敵を討ち倒す最中、小型のクロスボウを装備した盗賊達は、砦の壁際に向け黒い弾を幾重にも飛ばし続けていた。
特に炸裂する訳でなく、音も反響しない。一体何を狙っているのか不明瞭。
されど知能が低いのか、オーク等の亜人達は襲い来る相手だけを求め武器を振るう。それ故クロスボウに依る仕掛けに目もくれなかった。
砦へ突貫果たした最前列はフィエロを中心とした棒術使いの僧兵達。
最後列、砦2階へ続く階段手前。
たった独り、上の階から降りて来る敵を薙ぎ払う勇ましき者が居た。
この者、何と無手であった。黒塗りのマント下、一見武器の様な先の尖った物が見え隠れしてはいた。だがよくよく見れば手刀、敵を斬り裂く瞬間のみ両刃の剣が見える不可思議。
偶に覗く緑色の髪と品位漲る紫の鋭利な瞳──。
何と正体は賢士、スオーラ・カルタネラであった。剣に見える物は術の類か。
現状、襲撃する敵兵は一網打尽──2、3度程武器で語った後、絶命させた。
尚、ローダは砦の外。後方に配置済である本陣と先鋒を結ぶ中間地点に陣取る。不測の事態が発生し、味方が分断されるのを防ぐのが目的なのだ。
先ず第一の目論見は巧く運び胸を撫で下ろす。ロッギオネの僧兵達は未だ勇猛果敢也──此れだけ活躍してくれたら、世界へ堂々示せるのだ。
バサバサッ……。
砦の外で待機していたローダ、羽根のはためく音が耳に轟いた。
一挙緊張が背筋を走り抜け、音の主を探すべく周囲を見渡すが発見出来ない。
「やあ、初めまして。君がローダ・ファルムーン君、そして空に浮き待機してるのが鍵の女性だね」
「だ、誰だッ!?」
妙に友好的で落ち着いた声に思えたローダ、されど敵の姿形が見えぬのだから緊張の糸、解れる訳がない。自分だけなくルシアの正体すら知り尽くした不気味。
「此処だよローダ君。自己紹介をしておこうか、私はラウム。今は訳在って君達の敵だ」
崩れた建物同士が色濃くした影の中からローダは呼び込まれた。
人の5倍は在りそうな巨大な烏が翼を広げ夜空で制止。嘴から発せられたのは、落ち着き払った男の声であった。
ハイデルベルク時代、兵学校で習った名前。ローダの心拍が急激に高鳴る。
ラウム──。
教科書の記述、悪魔学に於ける悪魔の独り。『ゴエティア』に記載された『ソロモン72柱の悪魔』の1柱を担う魔神。
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