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上巻
プロローグ 2
キッチンで倒れている人の足を見て、一瞬、時が止まった。
いや、逆に時が変な方向に動き出したのかもしれなかった。
俺はハッと我にかえる。
すぐに、その人は自分の母親だとわかった。
顔を近づけると酒の臭いがした。
ああ、やっぱりか……。
最近、母親は昼間から酒を飲んでいるらしい。
との情報を、うちの婆ちゃんから前々から聞いていた。
うちの婆ちゃんとは、俺の父親のお母さんだ。
俺は夏休みで家にいるようになったので、その真相を確かめようとしばらく母親の様子を母屋の部屋からうかがっていたが、酒を飲んでいるようには見えなかった。
これはどうも、婆ちゃんの見間違いだろう、と俺は踏んでいた。
だが、その矢先だった。
「おい、おかあさん! 大丈夫か? おい! おい!」
激しめに肩を揺すると、母親は酒臭い声でやっと反応した。
「ああ! 大丈夫、大丈夫……いま何時? ああ、夏休みだったわね、お昼にしよっか?」
と言って、立ち上がるが、ドテッと尻餅をつく。
どうしようもないなあ……。
「ああ、いいよ、いいよ、適当にお茶漬けでも食べるし」
俺は家庭のことは諦めて、自分のことは自分でしようと決めた。
お茶漬けに大量の氷を入れてかき混ぜ、腹を満たす。
食べながら、母親を見てみた。というよりは診察に等しかった。
母親はジッと何かを見つめたかと思うと、いきなり笑いだした。
そして、狂ったように頭をかきむしる。
なんだこれは? 母親のこの症状はなんだ?
というか、俺は……ここにはあまりいたくないなあ……。
俺は茶漬けを食べて部屋に戻った。
気づくと、俺は部屋の中でドアにもたれたまま、しばらく立ったままだった。
体が震えてきた。
たぶん、これはきっと……悲しみというやつだ。
目の奥が熱くなってくるのがわかった。
だが、男の俺が簡単に泣くわけにもいかず、何か客観的な状況を作り出すことに努力してみる。
とりあえず、母親についてまとめてみることにした。
まあ、簡単に言うと、うちの母親はアル中ってやつだ。きっと助からない。
病院に行って、お薬を処方されることの繰り返しだろう。
でも、俺は気にしない。
母親がアル中だろうと、ガンだろうと、脳梗塞だろうと気にしない。
泣くかもしれないが、ずっと気にしていてもしょうがない。
なぜか……それは人間はどんな生き方をしていようといずれ死ぬからだ。
去年、爺さんの葬儀をしているときに、まあ、死ぬよな……人はどんなにしてようと必ず死ぬ……そうだよなあ、と腑に落ちたものだ。
そして、俺は爺さんにありがとうと感謝した。
俺が生を授かり、この世でこうして元気でいられるのも、爺さんが頑張ってセックスをしてくれたおかげだからだ。
ありがとう……爺さん……。
棺桶に寝かされた爺さんの亡骸を見ている時に、頑張れって告げられているような気がした。
頑張れ? ああ、そういうことか……。
俺はまだこの世で何もしてないからなあ……と気づかされた。
ああ、そうだよ……俺は童貞だった。
童貞のまま、子孫を残せないまま死ぬなよ……。
と、爺ちゃんから告げられているような気がした。
そして、じいちゃんは燃えて灰となった。
まあ、でも焦るな、時間ならたっぷりある。
そこで、俺は人生とはなんだろうかと考えてみる。
だが、なかなかその答えは自分の内側からは出てこない。
そういうときには、何か答えはないものかと外側に目を向ける。
本を読み、時に人の話しを聞き、映画を鑑賞する。
俺は特に映画の鑑賞をすることがよきだと考えていた。
単純に映画が好きだったこともある。
人生とは何か? 生きるとは何か?
映画には、その答えを見つけるヒントがあるんじゃないかと思っていた。
とりあえず俺は指先で涙をぬぐうと、部屋の窓とカーテンを、ザッと閉めた。
冷房を入れて、間接照明だけにして幻想的な空間を演出する。
そして、テレビをつける。デカかった。55インチの有機ELテレビだった。
爺ちゃんの遺産だと思っている。
今の俺にはこの映像の世界が希望の光だった。
俺は狂った世界から抜け出すように、DVDプレイヤーを起動させる。
テレビは明るくして見ましょうなんて注意喚起してるけど、夢中になるなら絶対暗くするしかないだろう。
俺はソファにドカッと腰を下ろすと、映画館にいる雰囲気で鑑賞した。
映画が始まった……。
主人公は男だ……ある一人の男が綺麗な女と結婚した。
男は仕事と家庭を順風満帆に進む船のごとく人生を謳歌していた。
だが、人生とは面白いもので、突然びっくりすることがおきる。
なんと、妻は浮気をしていたのだ。
男は妻と浮気相手ともども殺そうと拳銃を手に取り浮気現場に忍び込む…・・だが、そこにはすでに死体となった妻がいた。そして、男は無実なのだが、儚くも刑務所に投獄されてしまう。
男はそこで終身刑を迎える……。
つまり、死ぬまで塀の外には出られない。
その、はずだった……。
そのはずだったのだが、男は最後まで人生を諦めなかった。
どんなに残酷な痛いめにあっても、どんなに最悪な環境でも、男は諦めなかった。
いつか必ず希望の光がさすと信じて自分の人生と戦っていた。
そして、映画はハッピーエンドで幕を閉じた。
俺はエンドロールを飛ばすことができなかった。
なぜなら、号泣して動くことができなかったからだ。
めちゃくちゃ最低で、残酷で、不幸で、クソみたいな世界でも、絶対に諦めない男がいたのだ……俺もそんな男になりたいと思った。
この男の人生に比べたら、俺の人生なんて、ショートケーキのようだ。
この男の人生に比べたら、俺の人生なんて、イージーなRPGゲームのようだ。
俺はガンとして奮い立った。そして、ザッとカーテンを開ける。
外は青紫色がにじみ、ゆっくりと夜の帳が落ちる景色が広がっていた。
いや、逆に時が変な方向に動き出したのかもしれなかった。
俺はハッと我にかえる。
すぐに、その人は自分の母親だとわかった。
顔を近づけると酒の臭いがした。
ああ、やっぱりか……。
最近、母親は昼間から酒を飲んでいるらしい。
との情報を、うちの婆ちゃんから前々から聞いていた。
うちの婆ちゃんとは、俺の父親のお母さんだ。
俺は夏休みで家にいるようになったので、その真相を確かめようとしばらく母親の様子を母屋の部屋からうかがっていたが、酒を飲んでいるようには見えなかった。
これはどうも、婆ちゃんの見間違いだろう、と俺は踏んでいた。
だが、その矢先だった。
「おい、おかあさん! 大丈夫か? おい! おい!」
激しめに肩を揺すると、母親は酒臭い声でやっと反応した。
「ああ! 大丈夫、大丈夫……いま何時? ああ、夏休みだったわね、お昼にしよっか?」
と言って、立ち上がるが、ドテッと尻餅をつく。
どうしようもないなあ……。
「ああ、いいよ、いいよ、適当にお茶漬けでも食べるし」
俺は家庭のことは諦めて、自分のことは自分でしようと決めた。
お茶漬けに大量の氷を入れてかき混ぜ、腹を満たす。
食べながら、母親を見てみた。というよりは診察に等しかった。
母親はジッと何かを見つめたかと思うと、いきなり笑いだした。
そして、狂ったように頭をかきむしる。
なんだこれは? 母親のこの症状はなんだ?
というか、俺は……ここにはあまりいたくないなあ……。
俺は茶漬けを食べて部屋に戻った。
気づくと、俺は部屋の中でドアにもたれたまま、しばらく立ったままだった。
体が震えてきた。
たぶん、これはきっと……悲しみというやつだ。
目の奥が熱くなってくるのがわかった。
だが、男の俺が簡単に泣くわけにもいかず、何か客観的な状況を作り出すことに努力してみる。
とりあえず、母親についてまとめてみることにした。
まあ、簡単に言うと、うちの母親はアル中ってやつだ。きっと助からない。
病院に行って、お薬を処方されることの繰り返しだろう。
でも、俺は気にしない。
母親がアル中だろうと、ガンだろうと、脳梗塞だろうと気にしない。
泣くかもしれないが、ずっと気にしていてもしょうがない。
なぜか……それは人間はどんな生き方をしていようといずれ死ぬからだ。
去年、爺さんの葬儀をしているときに、まあ、死ぬよな……人はどんなにしてようと必ず死ぬ……そうだよなあ、と腑に落ちたものだ。
そして、俺は爺さんにありがとうと感謝した。
俺が生を授かり、この世でこうして元気でいられるのも、爺さんが頑張ってセックスをしてくれたおかげだからだ。
ありがとう……爺さん……。
棺桶に寝かされた爺さんの亡骸を見ている時に、頑張れって告げられているような気がした。
頑張れ? ああ、そういうことか……。
俺はまだこの世で何もしてないからなあ……と気づかされた。
ああ、そうだよ……俺は童貞だった。
童貞のまま、子孫を残せないまま死ぬなよ……。
と、爺ちゃんから告げられているような気がした。
そして、じいちゃんは燃えて灰となった。
まあ、でも焦るな、時間ならたっぷりある。
そこで、俺は人生とはなんだろうかと考えてみる。
だが、なかなかその答えは自分の内側からは出てこない。
そういうときには、何か答えはないものかと外側に目を向ける。
本を読み、時に人の話しを聞き、映画を鑑賞する。
俺は特に映画の鑑賞をすることがよきだと考えていた。
単純に映画が好きだったこともある。
人生とは何か? 生きるとは何か?
映画には、その答えを見つけるヒントがあるんじゃないかと思っていた。
とりあえず俺は指先で涙をぬぐうと、部屋の窓とカーテンを、ザッと閉めた。
冷房を入れて、間接照明だけにして幻想的な空間を演出する。
そして、テレビをつける。デカかった。55インチの有機ELテレビだった。
爺ちゃんの遺産だと思っている。
今の俺にはこの映像の世界が希望の光だった。
俺は狂った世界から抜け出すように、DVDプレイヤーを起動させる。
テレビは明るくして見ましょうなんて注意喚起してるけど、夢中になるなら絶対暗くするしかないだろう。
俺はソファにドカッと腰を下ろすと、映画館にいる雰囲気で鑑賞した。
映画が始まった……。
主人公は男だ……ある一人の男が綺麗な女と結婚した。
男は仕事と家庭を順風満帆に進む船のごとく人生を謳歌していた。
だが、人生とは面白いもので、突然びっくりすることがおきる。
なんと、妻は浮気をしていたのだ。
男は妻と浮気相手ともども殺そうと拳銃を手に取り浮気現場に忍び込む…・・だが、そこにはすでに死体となった妻がいた。そして、男は無実なのだが、儚くも刑務所に投獄されてしまう。
男はそこで終身刑を迎える……。
つまり、死ぬまで塀の外には出られない。
その、はずだった……。
そのはずだったのだが、男は最後まで人生を諦めなかった。
どんなに残酷な痛いめにあっても、どんなに最悪な環境でも、男は諦めなかった。
いつか必ず希望の光がさすと信じて自分の人生と戦っていた。
そして、映画はハッピーエンドで幕を閉じた。
俺はエンドロールを飛ばすことができなかった。
なぜなら、号泣して動くことができなかったからだ。
めちゃくちゃ最低で、残酷で、不幸で、クソみたいな世界でも、絶対に諦めない男がいたのだ……俺もそんな男になりたいと思った。
この男の人生に比べたら、俺の人生なんて、ショートケーキのようだ。
この男の人生に比べたら、俺の人生なんて、イージーなRPGゲームのようだ。
俺はガンとして奮い立った。そして、ザッとカーテンを開ける。
外は青紫色がにじみ、ゆっくりと夜の帳が落ちる景色が広がっていた。
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