高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

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第一部 春

13 現実主義のシエルに甘えられて

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 あれは遠い夏の日。
 わたしは水色のワンピースを着てアイスを食べていた。
 公園のベンチに座ってシエルと談笑している。
 初等部の六年生になったわたしは、四年生であるシエルのことを弟みたいに思っていた。まあ、いまでも弟としか見てないけど。そんな、シエルはとりすました顔で、わたしに質問を投げかけた。
 
「ねえ、マリ姉、神様ってホントはいないって知ってる?」

 わたしはペロリとアイスを舐めていた。
 当時のわたしは高嶺真理絵の記憶を取り戻していなかったから、シエルの言っている意味がまるでわからなかった。だから、適当に答えていた。
 
「おお、神よってみんな言ってるけど、ホントはいないってこと?」
「うん、いないけど、いるってことにしてるみたい」
「なんでそんなことするのよ?」
「たぶんそのほうが大人たちが都合が良いんだと思う」
「ふーん、わたしはいると思う」
「え? マリ姉、神様を見たことあるの?」
「人間には見えていないだけで、実はいるかもしれないわよ」
「まさか、僕は見えるものしか信じないっ」

 わたしは腕をのばすと指さして叫んだ。

「あ! あああああ!」
「ど、どしたのマリ姉!」
「シエルの後ろに神様がいるっ!」
「え! マジ?」
「ウソだよぉ~」
「ちょっとマリ姉ぇぇ!」
「きゃはは」

 わたしは快活に笑い飛ばしていたような気がする。
 理想的な答えではなかったようで、シエルはむすっとしていた。わたしはかまわずアイスを食べ終えて、なんの役にも立ちそうにない棒切れを一瞥すると、シエルにわたした。
 
「これ、片付けといて」
「え~! マリ姉ちゃんが自分でやってよ」
「いいじゃん、公園も教会もシエルの家みたいなものでしょ?」
「そうだけど……」
「だったらいいでしょ、じゃあね、バイバーイ」
「あっ! マリ姉っ、んもう」

 駆け出すわたしのことを、シエルはいつまでも見つめていた。あれから、わたしたちは成長してみんな大人になったけど、友達だという絆だけはずっと変わらない。シエル、あなたはパルテール学園に入学したのね。どうせ、お父さんに叱られたから、すねて草むしりして八つ当たりしているのでしょうけど。まったく、身体は大きくなったのに、心はいつまでも子どもなんだから。
 
 思い出にふけっていたわたしは、ルナスタシアの声で我に返った。シエルに話しかけているようだ。物語は確実に動きだしている。
 
「君、何をやっているの?」
「む……草むしり」
「へー、あたしも手伝ってあげる」

 心の優しいルナはスカートを手で折り曲げると腰を落とした。黙々と草むしりする二人。

「ねえ、なんで草むしりしてるの?」
「……邪魔だから」
「草が?」
「うん、綺麗じゃないから邪魔なんだ」
「ふーん、でもホントは何か探してるんでしょ?」
「え?」
 
 猫のような瞳を大きく開いたシエルの手が止まった。
 ルナは草をむしると、その草を太陽の光りにあてるように観察した。
 
 ルナは天然キャラだけど、けしてバカではない。彼女は観察眼と洞察力に優れていて、セリフの選択も的確に正解を選んでいた。文句なしのヒロインだった。いまのところ、特にわたしがサポートすることは何もない。
 
 暇なので、シエル・デトワールを観察してみよう。
 彼は亜麻色のゆるいくせ毛と大きな瞳がかわいい弟系男子。
 性格は猫みたいにクールでツンデレ。
 なので、なかなか心を開いてくれない。
 攻略対象者のなかで一番難攻するキャラなのよね。
 でも、ホントは甘えん坊さんなの。
 好感度がマックスになると、ものすごくすり寄ってくる。
 ショタ好きのお姉さんたちにはたまらない存在みたい。
 高嶺真理絵のときのわたしにも、かわいい弟がいた。
 だから、お姉さんの気持ち、わからなくもない。
 
 まあ、現実に甘えてきたら引いちゃうかも。
 だけど、ここは乙女ゲーの世界。
 弟から甘えられる擬似体験を味わっても、いいかもしれないわね。うふふ。
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