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第一部 春
15 モブの役目はヒロインをEDに導くこと
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ルナとシエルの手は土で汚れていた。
自分の手を見て苦笑するシエルは、ふと水場に視線を移す。そのときやっと、シエルはわたしとロックが花壇にいることに気づいた。それほど草むしりと四つ葉探しに夢中になっていたのだろう。
「あー! マリ姉だっ、わーい、マリ姉ぇぇぇ」
いきなり叫び声をあげたシエルは走りだした。
え? なにこの子? 目がハートなんだけど……。
シエルはわたしの胸めがけて飛びこんできた。でも、ギリギリのところでロックに首をつかまれてしまい、ジダバタと手足を動かしている。うわぁ、猫みたい。
「ロック、なにをするっはなせっ!」
「このエロガキがっ! マリに抱きつくなんて百年はえぇよ」
「ぼ、僕はエロくない。これはハグだっ」
ルナは目を丸くしてびっくりしていた。
まったく、シエルは全然成長していないわね。高等生にもなってハグを求めてくるなんて甘えん坊なんだから。んもう、もし誰もいなかったら、よしよ~しって、ぎゅっとハグしちゃうところだったわ。
でも、変ね……おかしい点がある。
公式ファンブックにはマリエンヌに抱きつくなんてシーンは載ってなかった。これっておまけイベントかしら? うーん、わからない。わたしが首を傾けていると、ルナに低い声で尋ねられた。
「ねえ、マリ……みんなは知り合いなの?」
「ええ、まあ、わたしたちは幼なじみなのよ」
「へー」
「ごめんね、なんかバカみたいな男たちで」
聞き捨てならなかったようで、シエルはロックの腕を振り払うと声をあげた。
「マリ姉、ひどい! ロックはバカだけど、僕はバカではないっ」
「は? なんだとエロガキ……そろそろ調教してやろうか? んああ?」
「ひぃえぇぇ! ロック、なんだその目は? なにを考えているっ」
「がははは! おびえてやがるぜ」
「むぅぅぅ……」
「よし、とりあえずシエルの歓迎会をしてやるからソレイユのとこにいくぞ」
「イヤだ! おまえらの歓迎なんかいらない! 僕はマリ姉さえいればいいんだっ!」
「はいはい」
ロックは、ひょいっとシエルをお姫様抱っこすると去っていった。その様子を見て、呆然と立ち尽くしていたルナは、ポツリとつぶやく。
「お姫様抱っこ……いいなぁ」
「それなぁ……」
同意するわたしの内心は、実はそれどころではなくて、驚愕の念を抱いていた。彼らの行動パターンがおかしいからだ。
わたしを溺愛するなんて、シナリオの軌跡から逸脱している!
わたしは顎に指をあてて黙考した。これがわたし、高嶺真理絵の推理スタイル。なにごとも論理的でないと気がすまない。
やっぱりどう考えてもおかしい、この乙女ゲーム……。
シエルがわたし、つまりマリエンヌ・フローレンスを溺愛しているなんて、そんな設定あったかな? たしかに幼なじみではあるけれど……あと、さらに腑に落ちない点がほかにもある。
わたしへの溺愛は、シエルだけではない。
ソレイユもお菓子でわたしを釣ってきた。
チョコブラウニー、食べたいわ……。
ロックも日曜の拳闘を観にこいと誘ってきた。
たくましい男たちの闘い、観たいわ……。
これら、三人の男子からの溺愛を総合的に判断すると、わたしは……。
逆ハーレム状態になっているんだけどぉぉぉぉ!
え? ちょっと待って……モブのわたしがモテる乙女ゲームなんてありえない……。
こんなシナリオは公式ファンブックには載っていなかった。わたしは予期せぬ展開に、不安を感じずにはいられない。吹く風が心なしか不穏な空気を運んできたような、そんな錯覚があった。
ん? その瞬間だった。何者かの視線を感じる!
花壇のなかに得体の知れない、何かがいる?
わたしをこの乙女ゲームに入れた存在かしら?
そのとたん、ルナが花壇のほうでなにか物陰を発見したようで、さっと指をさして叫んだ。
ガサササ、と葉音が跳ねている。ん? やはり、なにかいる?
「きゃああ! なんかいま変なのいたっ! ねえ、見た? マリ」
「いえ、正確には見えてないわ……ルナは見えたの?」
「うん、小人っぽいような……羽もあったような……」
「それ妖精では?」
「そうそう、そんな感じ!」
「ルナ……嘘つきは泥棒の始まりよ」
「え? 嘘つきはサキュバスのささやきだよぉ」
「……そうでしたわね」
おっと、いけない。
ここは乙女ゲーの世界。
日本の格言や名言などは少しファンタジーふうにアレンジされてある。そういうユーモラスな部分があることもこの乙女ゲーの売りだけど、設定では魔法やらのファンタジーの要素は無かったはず。それなのに、妖精がいるなんて……そんなことありえるのかしら?
「どうしたの? マリ?」
「あ、ごめん、なんでもない。さあ、女子寮を案内するわね」
「うん、お願い」
いくら考えても答はでない。
ここで呆然と立っていても、わたしが乙女ゲームに入ったプロセスが明確になっていなければ、いくら考えても時間は不毛に過ぎて行くだけ。そして、もしわたしを乙女ゲームに入れた存在がいるとしても、そちらからわたしにコンタクトを取ってくる可能性は十分にある。それまで慌てず、待ってみるのも良きだろう。果報は寝て待て、そもそも乙女ゲーに入ってるこの現象は、人智の域を超えている。
よし、ここはとりあえず、まえに進もう!
わたしはルナに笑顔を振りまくと歩きだした。
「あ、マリ~、ちょっと手を洗わせて~」
「おっとと、そうでしたわね」
この乙女ゲーム、ちょっと細かい。
わたしは蛇口をひねって水をだしてあげた。
きゃ、冷たい、なんて女の子っぽい声をあげるルナは片目をつむった。か、かわいい……。女子から見てもかわいい。
そんな彼女に、これから物語が進むといろいろなイベントが待ち受けている。果たして、彼女はラストどうするのかしら? だれか愛する一人の男性を選ぶのかしら?
それとも……。
わたしは首を横に振った。ダメよ、マリ。
未来を選択するのは、わたしじゃない。
これからの展開を見守っていくのがモブの役目。
ちゃんとヒロインのルナスタシアが幸せになれるように。
自分の手を見て苦笑するシエルは、ふと水場に視線を移す。そのときやっと、シエルはわたしとロックが花壇にいることに気づいた。それほど草むしりと四つ葉探しに夢中になっていたのだろう。
「あー! マリ姉だっ、わーい、マリ姉ぇぇぇ」
いきなり叫び声をあげたシエルは走りだした。
え? なにこの子? 目がハートなんだけど……。
シエルはわたしの胸めがけて飛びこんできた。でも、ギリギリのところでロックに首をつかまれてしまい、ジダバタと手足を動かしている。うわぁ、猫みたい。
「ロック、なにをするっはなせっ!」
「このエロガキがっ! マリに抱きつくなんて百年はえぇよ」
「ぼ、僕はエロくない。これはハグだっ」
ルナは目を丸くしてびっくりしていた。
まったく、シエルは全然成長していないわね。高等生にもなってハグを求めてくるなんて甘えん坊なんだから。んもう、もし誰もいなかったら、よしよ~しって、ぎゅっとハグしちゃうところだったわ。
でも、変ね……おかしい点がある。
公式ファンブックにはマリエンヌに抱きつくなんてシーンは載ってなかった。これっておまけイベントかしら? うーん、わからない。わたしが首を傾けていると、ルナに低い声で尋ねられた。
「ねえ、マリ……みんなは知り合いなの?」
「ええ、まあ、わたしたちは幼なじみなのよ」
「へー」
「ごめんね、なんかバカみたいな男たちで」
聞き捨てならなかったようで、シエルはロックの腕を振り払うと声をあげた。
「マリ姉、ひどい! ロックはバカだけど、僕はバカではないっ」
「は? なんだとエロガキ……そろそろ調教してやろうか? んああ?」
「ひぃえぇぇ! ロック、なんだその目は? なにを考えているっ」
「がははは! おびえてやがるぜ」
「むぅぅぅ……」
「よし、とりあえずシエルの歓迎会をしてやるからソレイユのとこにいくぞ」
「イヤだ! おまえらの歓迎なんかいらない! 僕はマリ姉さえいればいいんだっ!」
「はいはい」
ロックは、ひょいっとシエルをお姫様抱っこすると去っていった。その様子を見て、呆然と立ち尽くしていたルナは、ポツリとつぶやく。
「お姫様抱っこ……いいなぁ」
「それなぁ……」
同意するわたしの内心は、実はそれどころではなくて、驚愕の念を抱いていた。彼らの行動パターンがおかしいからだ。
わたしを溺愛するなんて、シナリオの軌跡から逸脱している!
わたしは顎に指をあてて黙考した。これがわたし、高嶺真理絵の推理スタイル。なにごとも論理的でないと気がすまない。
やっぱりどう考えてもおかしい、この乙女ゲーム……。
シエルがわたし、つまりマリエンヌ・フローレンスを溺愛しているなんて、そんな設定あったかな? たしかに幼なじみではあるけれど……あと、さらに腑に落ちない点がほかにもある。
わたしへの溺愛は、シエルだけではない。
ソレイユもお菓子でわたしを釣ってきた。
チョコブラウニー、食べたいわ……。
ロックも日曜の拳闘を観にこいと誘ってきた。
たくましい男たちの闘い、観たいわ……。
これら、三人の男子からの溺愛を総合的に判断すると、わたしは……。
逆ハーレム状態になっているんだけどぉぉぉぉ!
え? ちょっと待って……モブのわたしがモテる乙女ゲームなんてありえない……。
こんなシナリオは公式ファンブックには載っていなかった。わたしは予期せぬ展開に、不安を感じずにはいられない。吹く風が心なしか不穏な空気を運んできたような、そんな錯覚があった。
ん? その瞬間だった。何者かの視線を感じる!
花壇のなかに得体の知れない、何かがいる?
わたしをこの乙女ゲームに入れた存在かしら?
そのとたん、ルナが花壇のほうでなにか物陰を発見したようで、さっと指をさして叫んだ。
ガサササ、と葉音が跳ねている。ん? やはり、なにかいる?
「きゃああ! なんかいま変なのいたっ! ねえ、見た? マリ」
「いえ、正確には見えてないわ……ルナは見えたの?」
「うん、小人っぽいような……羽もあったような……」
「それ妖精では?」
「そうそう、そんな感じ!」
「ルナ……嘘つきは泥棒の始まりよ」
「え? 嘘つきはサキュバスのささやきだよぉ」
「……そうでしたわね」
おっと、いけない。
ここは乙女ゲーの世界。
日本の格言や名言などは少しファンタジーふうにアレンジされてある。そういうユーモラスな部分があることもこの乙女ゲーの売りだけど、設定では魔法やらのファンタジーの要素は無かったはず。それなのに、妖精がいるなんて……そんなことありえるのかしら?
「どうしたの? マリ?」
「あ、ごめん、なんでもない。さあ、女子寮を案内するわね」
「うん、お願い」
いくら考えても答はでない。
ここで呆然と立っていても、わたしが乙女ゲームに入ったプロセスが明確になっていなければ、いくら考えても時間は不毛に過ぎて行くだけ。そして、もしわたしを乙女ゲームに入れた存在がいるとしても、そちらからわたしにコンタクトを取ってくる可能性は十分にある。それまで慌てず、待ってみるのも良きだろう。果報は寝て待て、そもそも乙女ゲーに入ってるこの現象は、人智の域を超えている。
よし、ここはとりあえず、まえに進もう!
わたしはルナに笑顔を振りまくと歩きだした。
「あ、マリ~、ちょっと手を洗わせて~」
「おっとと、そうでしたわね」
この乙女ゲーム、ちょっと細かい。
わたしは蛇口をひねって水をだしてあげた。
きゃ、冷たい、なんて女の子っぽい声をあげるルナは片目をつむった。か、かわいい……。女子から見てもかわいい。
そんな彼女に、これから物語が進むといろいろなイベントが待ち受けている。果たして、彼女はラストどうするのかしら? だれか愛する一人の男性を選ぶのかしら?
それとも……。
わたしは首を横に振った。ダメよ、マリ。
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