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第一部 春

19 イケメン料理長リオン・オセアン

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 夕飯は食堂でビュフェスタイルだった。
 みんな好きな食材を取って食べている。わたしとルナもずらりと並べられた料理から好きなものを取ってトレーに盛っていた。よし、こんなもんかな。あんまり食べると太るから気をつけなきゃ。
 
 わたしは首を振って空いている席を探した。すると、ぶんぶん手を振るベニーがいた。
 
「こっちだぞ」と催促してくる。
 
 目立ちすぎよ、まったく。モブの風上にもおけない振る舞いだ。
 
 ベニーの隣では黙々と食事をするメルの姿があった。
 きゃああ、小動物みたいでかわいい、メルちゃん。
 わたしたちの席を取ってくれてたみたい。ベニーは大雑把な性格だけど、人情には熱いタイプ。人見知りのメルが孤立しないようにいつも気を配っていることが、わたしにはわかる。ありがとうね、べニース・ヴィルタン。
 
 わたしは席に着くと、「いただきます」と言ってパチンと合掌した。その行動があまりにも場違いだったので、周りにいる女子たちは唖然としていた。
 
 あ! やっちゃった……。

 ここは乙女ゲーの世界であり、ガッツリ中世ヨーロッパ風の世界観だから日本の習慣を出すと目立つ。

 気をつけなきゃ。
 
 わたしは合唱していた指先を絡めて、静かに祈りを捧げた。

 アーメン。
 
 料理は美味しかった。
 ポテトサラダはちょうどいい塩加減で、ぶつ切りに入ったベーコンが肉厚で良きだった。主食はライスにした。普通に米の味がした。旨味で言ったら新潟産コシヒカリとほぼ同等レベル。ヤバ、めっちゃうまい。主菜は魚料理にした。焼き目のついた魚はサバのように脂がのっていて、これがまたご飯がすすむすすむ。ああん、よかったあ、乙女ゲーのご飯がおいしくて~!
 
 まあ、それも当たり前か、だって料理長が攻略対象者だから。
 ふと、厨房を見ると……いたいた。
 燃えるフライパンを振るうイケメン料理長、リオン・オセアンの姿が。
 か、かっこいい……。
 彼は二十七歳で学生でもなんでもない料理人のアラサーのお兄さん? おじさん? だけど、年上好きの女子には人気キャラだった。前世、高嶺真理絵のここだけの話だけど、実は一番狙ってたりする。きゃっ、だって、童貞くさい男子生徒にはない大人の余裕っぽいセクシーさがあるし、十歳以上離れた火傷しそうな危険な恋の香りがぷんぷん匂ってきて……ああん、たまらない。抱きついてしまいたいわぁぁ……。

 どうせここは乙女ゲーの世界。

 現実ではないのだから、むちゃくちゃな恋愛したっていいでしょぉぉぉ! おっと、心の声が危うく漏れそうになった……。まあ、そんな感じで、リオンさんを見ているとわたしは余計に食欲をそそられて、もぐもぐ、残さず完食できた。ごちそうさまです。
 
 それでも、デザートは別腹よね。

 みんなが食べ終わったころを見計って、メイドさんたちが甘い香りを運んでくれている。どれどれ、のぞいてみると、なんてことだ。綺麗に並べられたシュークリームがあった。コロッと感のある一口サイズかっわいい。
 その瞬間だった。
 すぐ食べたくなったベニーは、よっしゃってな感じで立ち上がって唇を舐めて並ぼうとした。でも、わたしは秒でそれを制する。
 
「待ちさない、ベニー!」
「え? なんで?」
 
 わたしが説明しようとすると、ナプキンで口をふいてたメルが、ぽつりとつぶやいた。

「残り物には福がある……人と争わず、遠慮深い人にこそ幸運があるのです。ベニー先輩」
「え~、ホントに? なくなったらヤダなあ」

 そのときだった。ルナが腕をのばして指さした。その先は厨房だった。
 
「あれを見て! みんなっ」

 厨房では料理長のリオンさんが、シュークリームに雪のようなシュガーパウダーを振りかけていた。わお、焼きたてがあるじゃない!
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