高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

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第一部 春

79 民よ! わたしに協力してくれない?

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「フローレンスさんって拳闘が好きだったのね」

 そう言ったニコル先生は、ぬっとわたしの顔をのぞきこむと、また笑った。
 ち、違います……と恥ずかしがるわたしは立ち上がる。「それでは、失礼します」
 
「待ちなさい、お姉ちゃん」

 え? 
 
 わたしの腕を引いた老子と呼ばれた人物は不敵に笑っている。何を考えているかわからない。おそらく彼は拳闘部の顧問だろう。つまり、ロックとシエルの師匠にあたるわけ。しかし、わたしの師匠じゃないし、なんの関係もないから、わたしは思い切って腕を振り払った。かなり、乱暴に。
 
「なんですか? いちいち触らないでください」
「ふぉ、さっきはハイタッチしてきたくせにのぉ」
「あ、あれは……ロックが勝ったから特別です」

 赤くなったわたしは、ぷいっと踵を返すと歩きだした。
 すると、ニコル先生もわたしに向かって声をかけてきた。
 
「フローレンスさん、気をつけなさいよ!」

 顔だけ振り向いたわたしは、何をですか? と訊いた。
 
「なにやら殺気を感じるから……」

 ふーん、やはりニコル先生は只者じゃない。悪い男たちの鋭い目線に気づているのだろう。しかしながら、わたしはそれら男たちの欲望を都合よく利用するつもり。だからおかまいないなく、ニコル先生。それと、老子。

 わたしは歩きだし、受付に向かった。
 
 引換券を金貨に交換する。「お願いします」
 受付のお姉さんに券を渡すと、券の内容を見た瞬間、お姉さんはびっくり仰天。大儲けをしたわたしに羨望の眼差しを向けた。「おめでとうございます」
 
 わたしの賭けた額は百万。オッズが五十倍なので、五千万になった。金貨としては、一千万金貨を五枚もらった。わたしはそれらを財布にしまうとポーチに入れた。
 
「やったね、真理絵」フェイがつぶやく。

 まあね、わたしは相槌を打った。
 さて帰るか、と思ったわたしは闘技場の出入り口の門に向かった。わざと下層部のほうから出ることにする。革命を起こそうとする者たちを誘うためだ。
 雑踏のなか、一人で歩く貴族の娘、それがわたしだった。上空を飛ぶ鳥の目から見ると、かなり目立っていることだろう。
 
 上層部をにらみつける。きな臭い男たちのただらなぬ叫び声があがっている。
 
「もうこの国にはうんざりだ!」
「貴族の連中なんてぶっ殺してやる!」
「王様もいらない!」
「あいつらが使っている金は、もともとはおれたちの金だ!」
「そうだそうだ! 税金が高すぎる!」
「奪い返してやろうぜ!」
「もう、貴族のために働くなんて……」
 
 わたしも彼らの言葉をまねするように叫んだ。

「やめたほうがいい!」

 わたしの叫びに便乗して、周りの男たちが叫び始めた。
 
「そうだ! やめだ!」

 その瞬間だった。
 わたしの背後に男たちの影が忍び寄る。ニヤニヤと笑い、舐めるようにわたしの身体を見てくる。そのなかの一人の男が、おい、と声をかけてきた。おそらくリーダーなのだろう。
 
「貴族の姉ちゃん、こんなところで何やってる?」

 リーダーに会いにきた、と断言したわたしは、鋭い目線を男に移した。ニヒルに笑う男はさらに訊いた「おれだが?」

「あなたたちは革命を起こそうとしているわね……」
「ほう……革命のことに気づいているとは貴族にしては勘が冴えているな……」

 どうも、と返答したわたしはポーチから財布を抜き、金貨を一枚だけ取り出した。きらりと光る黄金の輝きに都民たちの目の色が暴徒に変わる。喉から手がでるほどの欲望が伝わる。じりじりとわたしに近づいているのがわかる。間合いを詰めて、一気に襲いかかるつもりだろう。

 緊迫した空気が張りつめる。

 そのとたん、わたしは暴徒と化した男たちに囲まれた。
 逃げる場所もなく。息がつまる。やがて、わたしは暴徒のなかにいた大男の肩に羽交締めにされた。押しつぶされる胸が痛い。大男が、ぐへへ、と安っぽく笑う。「貴族のお姉ちゃんはいい匂いがするなぁ、このまま犯してやる」
 
 ぐ……力が強い。わたしは眉根をよせた。
 
 かなり無理やり抱きつかれたわたしは、なんの抵抗もなく強く抱きしめられていた。このままいけば押しつぶされて気絶してしまうだろう。すると、胸の谷間でフェイが叫んだ。「真理絵! 何を考えてる?」
 
 わたしはニヤッと不敵な笑みを浮かべると、大男の首筋に恐ろしいほど速い手刀を打ち込んだ。その瞬間に、わたしはふわりと飛んで地面に着地した。それと同時に大男は、ドシンと膝から崩れ落ちる。それを見据えたわたしは、にやりと笑ってから大きな声で言った。
 
「民よ! わたしに協力してくれない? 報酬はこれよ」
  
 わたしは手に取っていた金貨を掲げた。民のみんなは、ははあ、と言って土下座した。
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