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  第一章    異世界ファンタジーとは

  10  流星が隕石になる

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 椅子に並んで座るのは、天文学者ウラノスと魔道士リノ。

 肩書きがなければ、イケオジの父親と娘の美少女が、仲良く座っているようにしか見えない。二人の目の前には、白い布がかけられたテーブルの上に、水入りのコップ、それに数枚の書類と、大きな瓶に活けられた色鮮やかな花束が置かれている。花の甘い香りが観衆のところまで、ふわふわとただよっていた。

 そんな光景を見ている観衆は、水を打ったように静かだった。

 都民、猫耳や犬耳、爬虫類の顔をした亜種たち。そして、僕たち勇者パーティの面々。みんな固唾を飲んで二人の会談に耳を傾けていた。二人は自己紹介を手短に済ませると、さっそく議論に入った。その内容は、こんなふうだった。

「リノさんは今回の隕石をどう思いますか?」
「……正直に申し上げます。まず、改めていただきたいのが、今回の天体が流星となり隕石になるかどうかは、まだ判断しかねます」
「ほう、つまり流星となって消える? とでも言うのですか?」
「はい。天体のサイズは私の腕ほどです。したがって大気圏で燃え尽きる可能性のほうが高い。つまり、隕石になって大規模な災害が発生することは杞憂だと申し上げます。落ちたとしても、せいぜい微量な塵でしょう」

 そこで、観衆から安堵の声が漏れた。な~んだ、隕石じゃないのか……と。
 しかし、天文学者は納得がいかない様子だった。魔道士に食ってかかる。
 
「だが、私のみならず学者たちは宇宙から禍々しい魔力の数値を計測することに成功しました。隕石とならなくとも、何かしら影響がこのアステールの大地にあるのでは? もしかすると、驚異的な災いをもたらすのでは?」
「……たとえば、どんな?」
「結界に影響を与えて……王都エルドラドに魔族が侵入するとか?」

 魔道士は、ふっと鼻で笑った。
 
「ありえません。ウラノスさんは落下地点を御存じですよね」
「はい。王都エルドラドから北西部にあるタムノス平原だと予測できましたが……違いましたか? 魔道士リノ」
「いいえ、御名答です。ですから安心してください、王都に影響はでません。もともと、結界は半円形の二段構えになっているのですから」
「……たしか、王都の半径一〇キロは雑魚も強力なモンスターも侵入できない頑丈なバリアで、その向こう側から半径二〇キロの範囲は強力なモンスターは侵入できないが、雑魚なら侵入できるという非常に曖昧な構造をしている……のですよね?」
「はい」
「あの、魔道士リノさんに一度、訊きたかったのですが、なぜそのような曖昧な結界が張られてるのですか? 私たち学者連中は、長年そのことについて議論し、頭を悩ませています。いっそ、結界であれば、モンスターを根こそぎすべて弾き飛ばせばいいものを……と」

 魔道士は大きく開いた口を手で隠していた。どうやら、あくび、していたようだ。呑気なものだ。
 
「んああ、冒険者を育てるためにわざと雑魚だけを入れていると、わたしは推測しています。まあ、本人に直接聞いたわけではありませんが……」
「本人?」
「あの女神像、つまり、結界の発生源を創造したのは“私の母”なのです」

 え! 騒然となった観衆から、まじか? そうだったのか? という驚愕の声が走った。僕らも目を合わせた。ナルニアは薄っすらと笑みを浮かべ、ささやくように言った。
 
「こいつは本格的な異世界ファンタジーになってきたな……楽しめそうだ……」


 第一章 異世界ファンタジーとは
     
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 ここまで読んでくれてありがとうございます。
 ども、花野りらです。
 よかったら感想を聞かせてもらえるとありがたいので、よかったらよろしくお願いします。
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