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  第二章    ラノベとは

  3   少年の名前はガイルー②

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「わたしが、お姉ちゃん!?」

 わたしの問いに、ガイルくんは満面の笑みで、こくりとうなずく。
 そうだった……。
 わたしは愛に飢えており、家族が欲しい願望があったのだ。
 特に……弟とか欲しいなぁ、なんて、ずっと思っていた。
 
 ああ、見れば見るほど弟みたいなガイルきゅん♡
 ああん、めちゃかわいいよぉぉ、尊い♡
 
 うん、決めた!
 この可愛い少年ガイルくんを飼うことにしよう! 
 人間と魔族のハーフであるわたしは、人間と境界線を引き、恋愛するのを諦めたけど、異性のペットを飼うくらいなら……。

 いいよね?
 
 どうせ、勇者パーティーだって戦力外である“最弱ガイルくん”のことを、哀れな子犬くらいにしか思っていないだろうから。
 
「おーい! そこにいる騎士! 鍵を持ってこ~い、釈放で~す」

 わたしはそう叫んだ。口に手を添えメガホンみたいにして。
 えっ? 騎士はびっくりしてこちらを向いた。

「いいのですか?」

 ああ、わたしは大仰にうなずいた。
 
「騎士団長からは、わたし、魔道士リノの一存に任せると仰せつかっていますっ!」
「はっ! それでは、すぐに開けます!」
 
 ガチャリ、と開いた牢屋からガイルくんが、まるで子犬のように這い出して来た。わたしは、ハア、ハア、と息が荒くなる。
 
「ありがとう! お姉ちゃん」

 ヤバイ……近距離での満面笑みでの、

「お姉ちゃん」

 は、破壊力がすごすぎて、ああん、ヤバイ……萌えきゅん♡
 
 そこからわたしは、思い切った行動するするのだった。
 自分でもヤバイと思うが……。
 わたしは、ガイルくんの手を繋いだ。ぎゅっと。そして、歩きだす。
 
「ちょっ、ちょっ、どこに行くの? お姉ちゃん」
 
 うふふ、とわたしは不敵な笑みを浮かべた。

「私のお家よ♡」

 ふぇ? と漏らしたガイルくんは、きょとんとしていた。
 わたしも異性と手を繋ぐチャンスなんてこれまでになかったから、ちょっと強引だけど男の子をお持ち帰り、レッツゴー! すたすたと歩き、騎士団長に向かってにっこり敬礼! 

「ご苦労様です」ビシッ!

 しばらく、ながーい廊下を通過して、いよいよ騎士館をでた。外はすっかり日が落ちて、夏の短い夜がわたしたちを歓迎している。
 
 すると、遠くから声をかけられた。
 
「ガイルくーん! よかったぁ、釈放されて……」
 
 ん? あれは僧侶モモではないか、なんで騎士館に?
 その声を聞いた瞬間、ガイルくんが駆けだした。わたしの手を離して……あっ!
 
「ガイル……おまえってやつは本当にクビだ。これからは家で大人しくしろ」

 そう言っているのは勇者ナルニア。
 やっぱり、かっこいいなこの人。
 サラサラと流れるマッシュヘアが美しすぎる。
 
「まあ、これで騎士館を襲撃しなくて済んだな。ガイル、心配したぜ」

 襲撃ですって? 筋肉ムキムキの戦士ハリーがそんなことを言った。
 
 ひぇぇ、マジで怖い。
 
 あれ? 

 もしかしたら……ガイルくんって……。
 勇者パーティーからめっちゃ溺愛されまくってるのかな? 
 ガイルくんは、僧侶モモから、この、この、なんて言われて抱きつかれ、ぷるんとしたおっぱいを押しつけられて、頭をグリグリされている。うわぁぁ、あざとくてエロいわぁ……あの僧侶ちゃん。
 そんなガイルくんを見ていると……うーん、なんだかわたしがガイルくんを飼ってやろうなんて考えていたことが、バカみたいに思えてきた。
 
 ガイルくんは、勇者パーティーの一員なんだ。
 戦力外かもしれないけど、そんなの関係ないんだ。きっと……。
 すると、勇者ナルニアが私に向かって言った。
 
「さようなら。魔道士のお嬢さん」
 
 ウィンクした勇者ナルニアは、いくぞ~、と声をあげると、すたすた歩いていった。
 はーい、なんて返事をした僧侶モモ、微笑む戦士ハリーも去っていく。
 そして、くしゃくしゃになった髪の毛を手ぐしで直していたガイルくんが、わたしのほうを向いて言った。
 
「リノさん、またね~」

 にっこり笑いながら手を振って歩きだすガイルくんの背中を、わたしはいつまでも、いつまでも手を振って眺めていた。
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