ピアニストの転生〜コンクールで優勝した美人女子大生はおじいちゃんの転生体でした〜

花野りら

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第1章 ピアノレッスン編

6 JKクロエは追われるより追いかけるタイプです

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  次の日の夜、クロエはトレーニングルームに設置されている鉄棒に両膝をかけて逆さまになっていた。
   
  悩める美少女は腕を組んで思考する。
  
  クロエはサラリと垂れ下がったポニーテールを揺らしながら、スッキリしない表情を浮かべた。
  
  両膝をかけている鉄棒の高さは、クロエの背丈の倍くらいありそうな3メートルほど。
  
  ふと、上体を反らし、反動をつけ始める。
  
  上体が地面と平行なくらい反り上がると、両膝を鉄棒から解き放った。
  
  ダン!
  
  綺麗に両足を着地させる。
  
  クッションのように曲がっていた両膝を伸ばすと、何事もなかったように立ち上がって歩き出した。
  
  クロエの運動神経は抜群であった。
  
  小さいころから楽器を演奏するよりも、その楽器から奏でられた音楽に合わせて踊ることが得意であった。
  
  なので当然として耳もいい。物音に敏感である。
  
  スラッと長い手。
  
  健康的な美脚。
  
  短パンから伸びる太ももがムッチリとした丸いお尻との境界線を際立たせる。
  
  猫耳フードの上着は、もうすでにマットの上に脱ぎ捨ててあった。
  
  ピンク色のブラトップはおっぱいの形を強調させている。
  
  背中と肩は露出され、セクシーなバッククロスがかけられている。
  
  スラリと長い足でウォーキングする。
  
  壁一面に貼られた鏡の前に立った。
  
  腰に手を当てて艶めかしくポージングを始める。
  
  背中を反らし、ウエストのくびれを強調させると、自分の両手を胸に持ってくる。
  
  若く美しい完璧なスタイルがそこにはあった。
  
  クロエはファッション雑誌のモデル事務所と契約をしている。
  
  先月も入ってきた給料で友達にご飯を奢ったり、自分の好きな服や雑貨を買ったりと、女子高生でありながら大人のような社会感覚を持ち合わせていた。
  
  当然のようにクロエは男子生徒からモテた。
  
  彼女に憧れる女子生徒もいっぱいいた。
  
  それなのに。
  
  それなのにだ……。
  
  ミサオはまったくクロエに興味がない様子だ。
  
  こんな経験は今までにない。
  
  だいたいの男は食い入るような目つきで見てくるし、簡単に手玉に転がせた。
  
  なぜだかわからない……。
  
  ミサオは女に興味がないのだろうか? 
  
  クロエは目を閉じて、う~ん、と考える。
  
  と、その時、防音された重厚な扉がゆっくり開かれていく。
  
  来たか……。
  
  扉の隙間からミサオが入ってくる。
  
  ミサオはチラッとクロエの方を向いたが、特に気にすることもなくランニングマシンで汗を流し始める。
  
  え!  なんなのなんよ、この男!  
  
  私のポージングに見向きもしないなんて……。
  
  驚愕の念を覚えるクロエは、ありえないといった表情で肩を落とす。
  
  両腕はぶらーんと垂れ下がり脱力しきっている。
  
  そして、マットに寝転がるとヨガを始めた。
  
  ミサオはピアノの練習はケリーがいないため休みだった。
  
  筋トレも軽く流す程度にするつもりだろう。
  
  ランニングマシンを終えると、マットの隅で座禅を始めた。
  
  なんで?  そんなに隅っこなのよ?  マジでわからない!?
  
  クロエは横に寝るとコロコロと転がってミサオに接近した。
  
  勢いあまって座禅を組んでいたミサオに激突する。
  
「うお!」

  ミサオは驚いて声をあげる。
  
  クロエは、まるでアニメキャラの頭から水滴の汗が飛び散ったように、あたふたしながら座り込む。
  
「あはは、失敗したわ~」

  てへへっとウインクするクロエは可愛いらしく、ミサオは怒るとこができない。
  
「どうしたの?  クロエが失敗なんて、何してたの?」

「え!  ああ!  横に転がる練習よ!」

「ふ~ん、チアも色々あるんだね」

「ええ、色々あるのよ~」

  クロエは参ったなぁという表情を浮かべながら続けて言った。
  
「肩もこってるのよね~」

  こいこい!  食いついてこい!  マッサージしてほしいのわかるでしょ?
  
  ミサオは座禅の足を組み替えすと言った。
  
「ふ~ん、若くても肩こるんだねぇ」

「えー、そうだよぉ、あはは」

  クロエの内心は笑っていない。

  おーい!  なんなんだこの男は!  
  
  こんな可愛い女子が肩こってるのよね~って言ったら、じゃあマッサージしてあげよっかって言うべきでしょう!?
  
  あれれ?  おかしい!
  
  こうなったらこっちからおねだりしてやる!
  
「ねぇ、ミサオ~。ちょっとだけ肩ほぐしてよ~」

  クロエはたっぷりと甘い声をだしておねだりする。大抵の男はこれで落ちる。
  
「えー、無理だよ。マッサージなんかしたこともないし、今日は指休めの日だし」

  クロエの頭の中は、はあ?  という怒りともいえるような特大のクエッションマークで埋め尽くされた。

「もう!  知らない!」

  クロエは怒ってトレーニングルームを出て行った。
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