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8.種
しおりを挟む「で? 何をしに来たんだ?」
喧嘩しに来たんじゃないだろう、とばかりに聞くと。
「そうよ、忘れるところだったわ。
私、種を買いにきたの。蒔いて、って書いてあるんだけど、持ってなかったから」
農家をしに来たと言いながら、種も持たずに始めるとは、これ如何に。
まあ、いい。
それを教えるのも、ドルクの仕事と言えなくはないのだから。
「何を植えるつもりなんだ?」
「んー、何も決めていないの。何が良いと思う?」
「始めは麦がいいんじゃないか? 麦農家は一番多い、『普通』な農家だぞ」
「じゃあそうしましょう」
「麦農家、と言っても他のものも一緒に育てるのも普通だな。
麦をメインに、他の野菜も色々と植えるんだ」
「そうなのね。じゃあ、その種も貰おうかしら」
「あいよ。まいどあり」
ちゃらちゃらと小銭を支払って種を受け取る。
《組織》は金払いは良かったから、貯金は沢山あるのだ。
今までの仕事の報酬は、使い道が特に無かったからきちんと貯めてあるし。
ギルドの入っている建物は結構大きくて、この村の全てがある。
武器や防具を売る鍛冶屋、回復薬などを売る薬屋などなど。
素材の買い取りも、ギルドがしてくれるらしい。
外に出ると屋台も並んでいて、昼過ぎの微妙な時間でもやっている店もあった。
「あら、美味しそうなサンドイッチね。ひとつ貰おうかしら」
「お嬢ちゃん、別嬪さんだねぇ! オマケにこれもやるよ!」
サンドイッチと小さめの蜜柑を受け取り、テンションが上がる。
毒も何も警戒せずに、呑気に屋台で食べ物が買えるなんて! 今までの暮らしでは考えられない『普通』だ。
「ここで食べるかい? 椅子を貸してやるよ!」
かわいいティーファに気に入って欲しいようで、屋台の店主はめちゃくちゃに愛想がいい。
「あら、いいの? じゃあ、お言葉に甘えて」
椅子というか、何かが入っていた木箱だが、それに座ってのんびり食べる。穏やかな風が心地よい。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「私、ティーファっていうの! おじさんは?」
「俺はガッツだ。よろしく」
平穏に名乗り合うなんて、とっても普通だわ! と嬉しくなると同時に、気づいた。
あれだけ世話になっているサブマスの名前を知らない気がする、と。
まあ、それは今度でいい。
「ティーファは、どこから来たんだ?」
「んー、遠い所よ」
「そうか、そうか。今はどこに住んでる?」
「どこって言えばいいのかしら。あの道をずっと向こうに行った辺りよ」
「向こうは魔ノ森の方だぜ? 大丈夫か?」
「森のすぐ近くだけれど、きっと大丈夫よ」
「何かあったらすぐ逃げて来いよ? 皆で守ってやるからな!」
「ありがとう。だけど、自分で狩れるから、大丈夫よ」
「こんなとこへ来るんだから、それもそうか」
「そうだ、ガッツさん。私は農家になるんだけれど、何か欲しいものってある?」
「農家になるのか! それはありがてぇ!
俺はサンドイッチ屋だからな、新鮮な野菜はいくらでも欲しいんだ。
肉は魔獣のものが手に入るが、野菜がなくてな。
塩漬けや酢漬けで作っているが、やっぱり新鮮な野菜の方が美味いんだ」
たしかに、今食べているサンドイッチの具は肉とピクルスだ。
「そうなのね。じゃあ、収穫出来たら持ってくるわ!」
「気長に待ってるぜ」
魔農家の収穫が早いとはいえ、半年かかるのが一ヶ月程度で採れる、というくらいが普通だ。
魔力の多い者だと一週間くらいになるらしいが、それだけ魔法が使えるならもっと違う仕事に就くだろう。
それでも、この村に農家が来てくれただけで嬉しいガッツであった。
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