殺意強めの悪虐嬢は、今日も綱渡りで正道を歩む ※ただし本人にその気はない

嵐華子

文字の大きさ
1 / 8

1.殺意衝動には忠実に①

しおりを挟む
__ドドドドドドドドド。

 密閉性を高めた地下室に、水が満たされていく。水は壁に描いた魔法陣から、滝のような勢いで流れていた。

「た、助けて、ゴルレフ嬢……」

 部屋の中央に設置した、人が数人入れそうな檻。その檻の中には、助けを求めて震える令嬢が1人。

 ピンク頭に緑眼の令嬢が助けを求めるのは、これから自分の起こす殺人に心を躍らせている……私。

「ふふふ、チムニア嬢。このままだと死んでしまうわね?」
「お、お願い! 私が関わっていたわけではないけど、もう私と仲良くしている令嬢達には、あなたを貶めたりしないようきつく言い含めるから!」

 そう。チムニア嬢は随分と長い間、私を蔑み、貶めてきた。

 と言っても、これまでに彼女が自分の手を直接的に汚す事はなかった。せいぜい取り巻き令嬢達を、言葉巧みに誘導した程度。

 私の物を隠すのも、歩く私の足を引っかけようとするのも、私を校舎裏に呼び出して集団で罵るのも、ありもしない下世話な噂をでっち上げて流すのも、全て取り巻き令嬢達が自主的に行っていた。

 もちろん私に実害を与えられた令嬢は、いなかったけれど。

 自分の手を汚さないやり口には、むしろ感心していたのに……。

 結局、最後は自分から私に危害を加える事を選んだ。残念ね。

「そうなの?」
「ええ! だから……」
「じゃあ、死んで証明してちょうだい?」
「……は?」

 せっかくの可愛らしいお顔が、呆けたような間抜け面になってしまう。

 これも残念。チムニア嬢の可愛らしい、物語に出てくる正ヒロインのようなお顔は気に入っていた。

 返り討ちに合えば自分が死ぬかもしれない覚悟まではしなかったのね。他人に死か、それに近い暴行を与えようとしておきながら。

 浅はかなところもまた、可愛らしい。

 自分達の膝下まで満ちた水に、ツイと視線をやる。

 私は動きやすいズボン。けれど貴族令嬢らしい出で立ちのチムニア嬢は、水を吸った裾が絡んで、動く事もままならないはず。

 檻から離れ、扉近くの机に鍵を置く。

「檻の鍵は、ここに置いておくわ。もちろん固定もしない」
「自分ごと閉じこめるつもり!? わかったわ、やっぱり脅しなのね! お望み通り、もう何もしないであげる! だから早く水を止めなさい!」
「ふふふ。勝算ありと踏んだ途端に強気になって。お茶目な人ね」

 鍵を開けたとしても、既に扉は水圧で開かない。それこそ魔法でも使って穴を開けるか、水で満たされた後でなければ。

 魔法が使えないなら、水で満たされた後でも開かない可能性もある。気密性を高めるのに、かなり重厚な扉にしたもの。

 そんな恐怖の中で、冷静に呼吸を止めて対処できるかしら? きっと無理ね。

 想像するだけで……笑いがこみ上げそう。


※※後書き※※
ご覧いただき、ありがとうございます。
全8話、短編完結保証です。
カクヨムに投稿したものを移しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

処理中です...