かくしおに

嵐華子

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「でも、もう時間が····」


 確信を持って告げる。そんな私に、当然だけどヨハンは戸惑いの表情を浮かべた。

「実はね、さっき五歳くらいの時の夢を見たの。ママが……」

 そんなヨハンに、私は夢の内容をかいつまんで話す。話が進むにつれて、ヨハンの顔には安堵が生まれていく。

 ちなみに日本語で話している時もママって呼んでしまうのは、海外生活が長かったから。

蓮歌れんかさんがそう言ったのなら、信じるよ」

 全て話せば、ヨハンが覚悟した顔で頷く。

「相変わらず、ママを崇拝してるのね」
「僕は初恋の女性に助けられたんだよ? 当然、未だに尊敬してるし惚れてる。それよりシーカがこんなふざけた茶番を全部終わらせて、次に僕達が無事に顔を合わせたら詳しく教えてよ」

 いつものヨハンに戻り、茶目っ気たっぷりのウインクを飛ばしてくる。それが嫌味に感じないんだから、やっぱりイケメンよね。

 なんて思うくらいには、私もヨハンに話しながら記憶を整理できて、肩の力が抜けたみたい。

 当時七歳で母と出会ったヨハンは、持ち前の乙女を辞さない勢いで母に一目惚れ。その想いは母が生きていた頃から、亡くなって何年も経った今も通算して、想いを深めていってる。

 だからかな。ヨハンの初恋は恋や愛なんて感情から崇拝レベルへと昇華して、拗らせ残念イケメンに変貌を遂げた。

 年々、母に似てくる私のはヨハンの崇拝の対象らしい。それはそれで、何だか私に失礼じゃない?

 でもヨハンがそうなるのもわからなくはない。

 だって私のママは、一度決めた事がどれだけ困難を極めても、意志を貫く芯の強さとキュートな魅力を持った人なんだもの!

 私達の難病は医師だった母が約十年かけ、研究開発した薬で完治した。私が母のお腹に宿った頃には、既に研究を初めていたらしい。

 そんな母は昔から結婚願望はおろか、自分が子供を持つつもりもなかったの。母自身がそう言ってた。

 なのに私を生む事にも、私が難病に侵される事にも、ある日突然気づいた。日本語で言えば、天啓ってやつ。母は何の確証もないまま、確信だけ持って治療薬の開発を始めて完遂したんだから、意志が強すぎよ。

 母は多分、シャーマン体質だったんじゃないかな。これは私の父から聞いた話だけど、母が幼少期に色々あって、腹黒いキレッキレの性格を顕著にぶつけて縁を切ったらしい母の父方の家系。母の死の手がかりが欲しくてそっちの家系も調べてたら、代々そういう力を継いでた一族だった。

 ちなみに今の私の苗字は、母が亡くなった後に引き取ってくれた父の姓。母は母方の姓である鬼逆を名乗っていたけど、その前は父方の姓である神継だった。

「シーカ、絶対戻ってきてね。あと顔に傷は、何があってもつけないで!」
「こういう時もブレないのね。私もママを信じてるわ。ママは私に出来ない事は、そもそも教えたりしなかったもの。だって周りがドン引きするくらい娘を溺愛した、腹黒冷血漢な大天才なんだから! 絶対、大丈夫!」

 目を合わせてエア腕相撲みたいにガシッとお互いの右手を目の前で握り合う。そして健闘を祈る、と頷き合った。

 ヨハンはさっき私達が空けた用具入れの後ろのスペースに入る。用具入れの扉は、ほんの少しだけ隙間を開けてダミーを装い、私は別の場所に隠れた。

 予想通りなら、あの鬼はここに来て、ヨハンが最初に食べられる。

 ……ズルッ……ビチャ……ズルッ……ビチャ……。

(来た! ママ、見守ってて!)

 腰にぶら下がるママの手作りの飾りをギュッと握って、最初の戦いに挑んだ。
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