2 / 491
1
1.お茶会
しおりを挟む
「君みたいな魔力0令嬢が、かの誉れ高い侯爵家の息女とは嘆かわしい」
「とはいえお情けの貰われ子。
仕方ありませんわ」
明らかな蔑みに僕は····振り返らず無視して歩調を早める。
反動で首元の色違いの3連石のネックレスがしゃらしゃらと揺れる。
「ちょっと、聞こえておりますの!」
「下等な人間が何様だ!」
(えー、子供の相手?
めんどくさい)
もうじき夏に移行する頃の麗らかな陽気、少し先にはガーデンパーティーに集う10~15才くらいの男女が談笑している。
ちらほらとケモミミ、ケモ尻尾の獣人ちゃんもいる。
モフりたいが、侯爵令嬢として招待を受けたので我慢だ。
薔薇の庭園というだけあって、庭まであと少しのこの距離でも薔薇のほのかな香りが鼻をくすぐる。
声から察するに、後ろの2人も庭の子供達と同じ年頃だろう。
大人は主催者であるこの国の王と王妃の両陛下、給仕中の使用人以外ほとんどいない。
トイレから戻ろうとして物陰でからまれた僕への助けは絶望的か。
そのまま会場へと続く庭に一歩踏み出そうとした所で、手首を掴まれた。
「聴力まで0か!」
「生意気でしてよ!」
仕方なく振り返る。
随分身長差を感じるから年上だろうし、男女差もあってか掴まれた手首がちょっと痛い。
「どちらさま?」
今気づきました的な、とぼけた顔してコテリと首を傾ける。
「くっ····ちょっと顔がこましな方だからって調子にのらないで!」
「君みたいな後ろ楯と顔だけの者がこの国の王子主催のパーティーに参加するなど、恥をしれ!」
うん、とりあえず顔を褒められたようだ。
「お褒めいただいてありがとうございます。
それでは失礼致します」
ニコリと笑って捕まれたままの手を引いてみるが、離す気配がない。
更に力をこめてくる。
これ、魔力で筋力増強したよね····まぁまぁ痛くなってきてるんだけど。
「このまますぐに帰るなら、手を離してやる」
「殿下にお声かけする方が不敬でしてよ!」
金髪青目の男の子がニヤリと笑う。
同じ色見の女の子は敵意むき出しだ。
「主催される殿下へお声かけせず帰る事は許されませんし、手を離されたくないのであれば、このままあちらまでお付き合いいただけますか?」
あくまで無邪気にニコニコと話す。
つうかそろそろ指先痺れてきてるんだけどなぁ。
「お前ごときがふざけるな!
ブルグル公爵家令息の僕に下等な女をエスコートしろと言うのか!」
「将来有望なレイヤード様の義妹とはいえ、顔だけのあなたが家格も上の公爵家令息であるお兄様に何て物言いなの!」
(えー、顔も名前も知らない上にそっちからからんできといてそれ言うの?)
「そういえば、突然の事態に自己紹介を忘れておりました。
グレインビル侯爵家令嬢、アリアチェリーナ=グレインビルと申します。
社交界デビューもしておらず、自領より出ることもない為どなたか存じ上げず失礼致しました」
右手は捕まれているため左手だけドレスの裾をもって略式挨拶だ。
頭を下げた時に両サイドの銀髪が顔にかかるのがうざったい。
「よろしいですわ。
私はブルグル公爵家令嬢、レイチェル=ブルグルでしてよ」
「····」
「····お兄様?」
「····はっ!
お、俺はアルノルド=ブルグルだ!」
顔を上げる時にやや上目使いにふわりと微笑めば、思ったようにバカがひっかかる。
紫暗の瞳が光に反射してアメジストのように光ったことだろう。
僕は自分の顔を過大評価はしないが、過小評価もしない主義だ。
魔力0でこうした実力行使の愚か者への遭遇率が高い分、使える武器は使うに限る。
前世享年40オーバー、中身を合わせれば300才を軽くオーバーだ。
(あざとさは武器!)
「あの····お力が強くて····」
へにゃりと八の字眉で目を附せる。
「····くっ!
下等な者は弱いから嫌いだ!
····あ、後で冷やしておけ」
「え?!お兄様?!」
やっと離したか。
手首にはくっきり指の跡。
それを見てそそくさと脇をすり抜け会場に行く兄を妹が追いかける。
「いやいや、せめて冷却か治癒魔法かけろ~。
ん?
····できないとか?
···うっわ、あり得る」
ついついそれを目で追いかけながらため息混じりに自己完結。
「ぶはっ!」
後ろから吹き出す声にびくりと視線を移す。
黒髪に金目の将来ワイルド系に進みそうな美少年が護衛らしき騎士達と共に忽然と姿を現した。
認知阻害の魔法使ってたのかな。
気配がなかったから、透明化じゃないよね。
「初めまして。
アリアチェリーナ=グレインビルと申します、殿下」
今度は正式なカーテシーを取る。
昨日2番目の義兄に見せてもらった姿絵で確認したから間違いない。
ルドルフ=アドライド第二王子、13才だ。
高貴な身分の彼はお腹をよじらせ絶賛大爆笑中だが、認識させたって事はこっちから挨拶しても良いよね。
涙目で残念になってるお顔は見なかった事にしよう。
「ふっ、くっ····よ、よい。
楽にせ、よ····くくっ····」
許可が出て顔を上げるがなかなか笑いのツボから抜け出せないご様子。
僕はもちろんポーカーフェイスのニッコリ顔を張り付かせたままだ。
何がそんなにツボにはまったのかはわからないが、これがその後この王子にからまれ続ける引き金になったと思い知るのは、まだ少し先の話。
「とはいえお情けの貰われ子。
仕方ありませんわ」
明らかな蔑みに僕は····振り返らず無視して歩調を早める。
反動で首元の色違いの3連石のネックレスがしゃらしゃらと揺れる。
「ちょっと、聞こえておりますの!」
「下等な人間が何様だ!」
(えー、子供の相手?
めんどくさい)
もうじき夏に移行する頃の麗らかな陽気、少し先にはガーデンパーティーに集う10~15才くらいの男女が談笑している。
ちらほらとケモミミ、ケモ尻尾の獣人ちゃんもいる。
モフりたいが、侯爵令嬢として招待を受けたので我慢だ。
薔薇の庭園というだけあって、庭まであと少しのこの距離でも薔薇のほのかな香りが鼻をくすぐる。
声から察するに、後ろの2人も庭の子供達と同じ年頃だろう。
大人は主催者であるこの国の王と王妃の両陛下、給仕中の使用人以外ほとんどいない。
トイレから戻ろうとして物陰でからまれた僕への助けは絶望的か。
そのまま会場へと続く庭に一歩踏み出そうとした所で、手首を掴まれた。
「聴力まで0か!」
「生意気でしてよ!」
仕方なく振り返る。
随分身長差を感じるから年上だろうし、男女差もあってか掴まれた手首がちょっと痛い。
「どちらさま?」
今気づきました的な、とぼけた顔してコテリと首を傾ける。
「くっ····ちょっと顔がこましな方だからって調子にのらないで!」
「君みたいな後ろ楯と顔だけの者がこの国の王子主催のパーティーに参加するなど、恥をしれ!」
うん、とりあえず顔を褒められたようだ。
「お褒めいただいてありがとうございます。
それでは失礼致します」
ニコリと笑って捕まれたままの手を引いてみるが、離す気配がない。
更に力をこめてくる。
これ、魔力で筋力増強したよね····まぁまぁ痛くなってきてるんだけど。
「このまますぐに帰るなら、手を離してやる」
「殿下にお声かけする方が不敬でしてよ!」
金髪青目の男の子がニヤリと笑う。
同じ色見の女の子は敵意むき出しだ。
「主催される殿下へお声かけせず帰る事は許されませんし、手を離されたくないのであれば、このままあちらまでお付き合いいただけますか?」
あくまで無邪気にニコニコと話す。
つうかそろそろ指先痺れてきてるんだけどなぁ。
「お前ごときがふざけるな!
ブルグル公爵家令息の僕に下等な女をエスコートしろと言うのか!」
「将来有望なレイヤード様の義妹とはいえ、顔だけのあなたが家格も上の公爵家令息であるお兄様に何て物言いなの!」
(えー、顔も名前も知らない上にそっちからからんできといてそれ言うの?)
「そういえば、突然の事態に自己紹介を忘れておりました。
グレインビル侯爵家令嬢、アリアチェリーナ=グレインビルと申します。
社交界デビューもしておらず、自領より出ることもない為どなたか存じ上げず失礼致しました」
右手は捕まれているため左手だけドレスの裾をもって略式挨拶だ。
頭を下げた時に両サイドの銀髪が顔にかかるのがうざったい。
「よろしいですわ。
私はブルグル公爵家令嬢、レイチェル=ブルグルでしてよ」
「····」
「····お兄様?」
「····はっ!
お、俺はアルノルド=ブルグルだ!」
顔を上げる時にやや上目使いにふわりと微笑めば、思ったようにバカがひっかかる。
紫暗の瞳が光に反射してアメジストのように光ったことだろう。
僕は自分の顔を過大評価はしないが、過小評価もしない主義だ。
魔力0でこうした実力行使の愚か者への遭遇率が高い分、使える武器は使うに限る。
前世享年40オーバー、中身を合わせれば300才を軽くオーバーだ。
(あざとさは武器!)
「あの····お力が強くて····」
へにゃりと八の字眉で目を附せる。
「····くっ!
下等な者は弱いから嫌いだ!
····あ、後で冷やしておけ」
「え?!お兄様?!」
やっと離したか。
手首にはくっきり指の跡。
それを見てそそくさと脇をすり抜け会場に行く兄を妹が追いかける。
「いやいや、せめて冷却か治癒魔法かけろ~。
ん?
····できないとか?
···うっわ、あり得る」
ついついそれを目で追いかけながらため息混じりに自己完結。
「ぶはっ!」
後ろから吹き出す声にびくりと視線を移す。
黒髪に金目の将来ワイルド系に進みそうな美少年が護衛らしき騎士達と共に忽然と姿を現した。
認知阻害の魔法使ってたのかな。
気配がなかったから、透明化じゃないよね。
「初めまして。
アリアチェリーナ=グレインビルと申します、殿下」
今度は正式なカーテシーを取る。
昨日2番目の義兄に見せてもらった姿絵で確認したから間違いない。
ルドルフ=アドライド第二王子、13才だ。
高貴な身分の彼はお腹をよじらせ絶賛大爆笑中だが、認識させたって事はこっちから挨拶しても良いよね。
涙目で残念になってるお顔は見なかった事にしよう。
「ふっ、くっ····よ、よい。
楽にせ、よ····くくっ····」
許可が出て顔を上げるがなかなか笑いのツボから抜け出せないご様子。
僕はもちろんポーカーフェイスのニッコリ顔を張り付かせたままだ。
何がそんなにツボにはまったのかはわからないが、これがその後この王子にからまれ続ける引き金になったと思い知るのは、まだ少し先の話。
11
あなたにおすすめの小説
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
強制力が無茶するせいで乙女ゲームから退場できない。こうなったら好きに生きて国外追放エンドを狙おう!処刑エンドだけは、ホント勘弁して下さい
リコピン
ファンタジー
某乙女ゲームの悪役令嬢に転生したナディア。子どもの頃に思い出した前世知識を生かして悪役令嬢回避を狙うが、強制力が無茶するせいで上手くいかない。ナディアの専属執事であるジェイクは、そんなナディアの奇行に振り回されることになる。
※短編(10万字はいかない)予定です
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!!
隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!?
何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる