秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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75.偽物令嬢~クラウディアside4

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「あなたは自分のした事を理解できない、公爵家を名乗る資格のない愚か者ですね。
此度のレイヤードに人伝に渡した手紙を私達が把握しなかったとでも?
そして私達が把握している事をあのグレインビル家が把握しないとでも思いましたか。
嘆かわしく、傲慢であさましい。
これは決定事項です。
すぐに伯爵家へ嫁ぐか、一縷の希望にすがるか、どちらにしますかクラウディア=イビナ=フォンデアス」

 お母様が普段決して呼ばれない祝福名を含めた真名を口にします。
真名を使った隷属魔法がある為に本来なら家族や伴侶となる者以外には知らせない、その真名で私を呼んだのです。

「····機会を····下さいませ」

 震えて掠れる声でやっと言葉をひねり出します。
お母様は本気で私を····。
頭の中では家族なのに何故、とか、どうしてこんな事に、と堂々巡りしながら足元が崩れ落ちるような感覚に陥ります。

 気付いた時にはお兄様と執務室に2人きりとなっていました。

「クラウディア、アリアチェリーナに礼を尽くせ。
思い込みを捨ててお前が思うような偽物令嬢なのかちゃんとあの子を見るんだ。
約束するなら今すぐ叔父上とレイヤードの所へ連れてってやるからとにかく謝罪しろ。
そしてこの事だけは必ず約束して守ってくれ。
だけど母上は本気だし、父上も母上に同調してる。
俺がお前にしてやれるのは本当にこれが最後だ」

 いつになく真剣なお兄様に、格下も甚だしい伯爵家のよりにもよって後妻にされる恐怖が体を駆け巡る。

 私はとにかく頷くしかありませんでしたわ。
謝罪をすると固く心に誓ったのです。

 お兄様はすぐに私を馬車に押し込み、グレインビル家が保有する別荘へ連れて行きました。
馬車の中でもとにかくあの偽物をちゃんと見ろと口酸っぱく約束させられましたが、見たところで偽物に変わりありませんのに、お兄様も騙されておりますのね。

 昼過ぎには着きましたが、別荘を管理する使用人は公爵家である事を話せば中に入れてくれました。

 お兄様ったら、叔父様達にも無断でしたのね。
流石に非礼だったのか叔父様もレイヤード様も冷たいお顔をされていましたわ。
でもには必ず謝罪すると約束しましたもの。
ちゃんと守りますわ。

「叔父上、家族水入らずをお邪魔して申し訳ありません。
2人共久しぶりだね」
「叔父様、レイヤード様、申し訳ありませんわ。
お2人共お久しぶりですわ」

 お兄様に引き続き、淑女の礼と共に謝罪致しました。
ひとまず約束でしたから悟らせぬように偽物をチラリと見ておきます。
相変わらず人を誑かす顔つきで憎らしい事この上ありませんわ。

「久しぶりだね、ガウディード。
明日会うのだからと断りを入れたはずだけど、お父上に聞かなかったのかい。
今日は私の娘のアリーを出来るだけ休ませたくてね。
知っての通りこの子は体が弱いし見知らぬ催しに出るのもほとんど初めてだ。
羽虫のような些細な精神的負荷すら今は与えたくはないんだよ」

 謝罪したにも関わらず叔父様には私の存在を無視された上に羽虫扱い。
格上の公爵家令嬢の私に失礼すぎて思わず面喰らって絶句してしまいます。

 お優しいレイヤード様なら私の謝罪で許してくれるはずですわ。
期待してチラリと見たけれど、偽物の頭を撫でているだけで無反応でした。
相変わらずその偽物に洗脳されていますのね。
冷たい態度に目に涙が浮かんでしまいます。

「おや、そうだったんですか。
見切り発車してしまったので入れ違いになったんでしょう。
それから最初に言っておいた通り、クラウディア。
アリアチェリーナとまともに話すのは今日がほとんど初めてだっただろう。
まだ小さい従妹にはお前の方から歩み寄るよう言い含めていたんだけど、淑女教育や学園での学びが役に立たないほど緊張したのかい?」
「お、叔父様、お兄様····」

 どうしてですの?!
お兄様だけは私の味方ではなかったのですか?!
血の気が引く思いで立ち尽くしてしまいました。

「クラウディア従姉様おねえさま、お久しぶりです。
お母様のお葬式の時はあまりお話しできなかったので、明日お会いするのを楽しみにしておりました。
社交界デビューをなされている従姉様と違って領からほとんど出る事が無いので明日のようなお茶会は初めてでとても緊張しておりました。
立場のある公爵家のお2人とご一緒出来る事をとても心強く思っております。
至らない事も多々あるでしょうが、お手柔らかに教えて下さると信じております」

 ····従姉様····お姉様ですって?!

 偽物の言葉に怒りが瞬時に沸いてしまいます。
私をそう呼んで良いのは本物の侯爵令嬢であったルナチェリアだけですわ!!

 一瞬、怒りが顔に出てしまったけれど、とにかく今はで分が悪すぎますわ。
そう言い聞かせて表情を取り繕いました。

「父様、今日はもう暗いからグレインビル領で兄様達と馬で駆け回ってた従兄様はともかく、従姉様に夜道は危ないと思うの。
特に狩猟祭でこの辺りの別荘を持つ貴族が集まる分、それを狙う夜盗だっているかもしれないし。
他に宿を取っていないようなら久々にお会いした従姉様が心配で私も気が気でなくなるかもしれないから今夜は私の為にもここで泊まって貰いたいな」
「わあ、さすがアリー。
もちろん俺も夜道は危ないと思うから、アリーの言葉に甘えさせてもらうよ。
いいでしょう、叔父上」

 私を気遣うふりをしてこの屋敷に留めた事に対してだけは褒めて差し上げてよ。
お兄様は今も目で偽物に謝れと命令しているようでむしろ邪魔ですけど、今回だけは仕方ありませんわね。

「叔父様、レイヤード様、それからアリアチェリーナ、ごめんなさい。
お気遣いをありがとう」

 もちろん最後の一言は叔父様とレイヤード様へのものですから、勘違いしないで欲しいものですが、大方頭の悪い偽物は勘違いするのでしょうね。

 その後の事は思い出したくもありませんわね。
私の実の兄でありながらあの偽物に媚を売ったり、早々に偽物を寝かしつけて退散してきたレイヤード様を追いかければお部屋に鍵をかけて拒絶されたり。
もちろんあの偽物に気を遣ったからだと分かってはいても、鍵をピンで開けようとした時の鍵にかけた保護魔法には傷ついてしまいましたの。
叔父様とお兄様のいるあの部屋に戻る気力もなく、私に宛てられた部屋でしばし涙を流してしまいましたわ。

 けれど負けませんわ!
あの偽物は害悪でしかありませんもの!
必ず私の手で悪の証拠を掴んで排除してやりますわ!

※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
全2話の短編小説を昨日から投稿しています。
<【花護哀淡恋】ある初代皇帝の手記>

ハロウィン→墓→ホラー→ミステリー?あれ?みたいな感じでハロウィンからかけ離れた内容の小説が出来上がりました。
よろしければご覧下さい。
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