秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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110.袋の鼠

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「うぐっ」

 一瞬の浮遊感があったかと思えば、次の瞬間には視界が真っ暗闇に飲み込まれた。
そして何の前触れもなく重力の歪みの波に翻弄される。
僕の小さな体は四方からの形容し難い大小の圧迫感に苛まれる。

 時空の歪みに挟まれた?!

 やばい、魔力耐性が低能ポンコツな僕にこれはきつい!
肺が押されて意図せずくぐもった声が洩れ出る。

 けれどすぐに腕を引かれて誰かに抱き込まれた感覚がした。
状況的には王子だろうけど何せ本当に真っ暗闇だ。
特に今は平行感覚が狂って目が回ってる上に耳鳴りも酷い。
エスコートされてた手を触れていたのかすら完全にわからなくなってた。

 抱き込まれるとすぐにほわりと空気が温かくなって圧迫感もいくぶん楽になった。
もしかして王子の服に仕込まれてる護身用の何かが発動したのかな。

 言うなれば方向転換しまくるジェットコースター×かける10Gから、✕2Gになった感じだよ。
ただし何度でも言うけれど、僕は低能ポンコツな魔力耐性しか持ち合わせていない。
骨粗鬆症の老婆が人間の限界に挑戦した流行りのジェットコースター✕2Gに乗るようなものなのだ。

 結局きつい!

 思わず抱き込む相手の服を鷲掴みにして体内で内臓がシャッフルされる感覚に耐える。

 けれど突然視界が開け、Gからの解放感と共に固い地面の感覚がやって来て僕は膝からへたりこみそうになった。
抱き込まれてなければ間違いなくそうなっていたと思う。

「アリー、平気····」
「王子、アリー嬢!」

 王子の気遣う声かけをシル様が遮る。

 突如襲いかかる無数のかまいたちに僕達を背に庇って血を流すシル様。
防壁を張れるほどの時間はなかったみたいだね。

 今度は何なのさ?!

 シル様は血飛沫ちしぶきをあげてあちこちに切り傷ができる。
特に右腕と左の太ももの傷が深そうだけど、呻き声1つ上げる事もなく、いつの間にか腰の剣を抜刀して構えていた。

 更に炎の鞭が四方から僕達を襲うけど、それは王子が水壁を作ってジュワッと蒸発させて防ぐ。

 と、誰かが間髪入れずにシル様に突っ込んで来たと思ったら鈍い金属音が響いた。
剣と剣がぶつかった音だ。

「あなたは····」
「よお、久しぶりだなシルヴァイト=ルーベンス」
「なぜ····」

 ギチギチと剣と剣で押し合う音と、どこか好戦的な低い男の声が背後から聞こえる。
王子が驚きに半ば呆然と呟き、僕を抱き込んでいた腕が弛んでやっと僕は周囲を見渡せた。

 相手の男は厳つい顔に焦茶の熊耳で体格はシル様より一回り大きい。
薄手の黒い半袖シャツに胸当てと軽装備だから筋骨隆々なのが見てとれる。

 剣で押し合いをしているけど、先ほどのかまいたちで利き腕と踏み込む方の足を負傷したせいかシル様が少しずつ押し負けている。
滴る血の量からしても、長期戦は不利だね。

 それにここは洞窟?
足場もだいぶ悪いし、薄暗がりで視界も悪い。
同じような景色に岩影もいくつか見てとれるから、誰がどれだけ隠れているのか、どっちに行けば出口なのかもわからない。

 耳をすましてみると微かに波の音がするからあの魔具の魔力残量からいっても辺境城とはそう遠く離れてはいない海の近くかな。

「なあ、ルーベンス。
どんな気分だ?
状況は明らかにお前が不利だ。
俺はお前もそこの2人も用が済んだら殺すつもりしかねぇぞ?」
「····させません」

 シル様はそう言うと押し合っていた力をわざと抜いて相手の剣先と力を横にかわす。
それと同時に男の胴を蹴り飛ばした。

「ガッ」

 男がそのまま近くの壁に激突したのを確認する事もなく、シル様はこちらの脇をすり抜ける。
王子もすぐに僕を抱えてシル様の後を追う。
向かうは風の流れてくる方向だろうか。
日頃のお忍びでこういう時の2人は阿吽の呼吸みたいだね。

 けれど前方からとんでもない数の火球が次々飛んできてシル様は剣で弾くけど、弾き損ねたのを王子が水壁を展開してジュワッと蒸発させる。
おかげで走るスピードは一気に落ちた。
火球自体は当たっても火傷するけど死にはしない初期レベルの威力だ。
でもこの数にやられればさすがに焼死しちゃうよね。

 予想通り追いついたらしい背後からの殺気にシル様は後方に戻るとすぐに後ろから再び金属音が響き始めた。

「そう慌てて出て行こうとするなよ。
お楽しみはこれからだ」

 王子の肩ごしに様子をうかがえば、お互い斬撃を打ち合いながら男は余裕の表情だ。

 その表情が僕達を見てニヤリと笑った。

 火球が止まり、前方から熱気を感じる。
王子はすぐさま僕を下ろし、すぐ横の岩壁に魔法で砲撃をぶつけて荷物のように僕を脇に抱えると出来上がった空洞に飛び込んだ。

 直後にシル様も飛び込んで来たと思ったら、間髪入れずに火炎放射が入口を通りすぎる。
こちらに火の手が来ないよう、シル様が入口に防壁を張る。

 これはこれで袋の鼠の出来上がり。
さすがにこの状況、やばくないかな?!
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