129 / 491
5
128.妹~sideルドルフ
しおりを挟む
「これは?」
「氷熊の毛皮で作ったケープです」
シルの低体温が少し落ち着いた頃、うとうとしていた俺はアリーに起こされてケープを手渡された。
彼女の手は冷えていて、毛布を巻きつけていても日が落ちていく程気温が下がっているのだ。
こんな薄手の毛布1枚では寒いに決まっている。
多少はマシになったとはいえ、顔色がまだ悪いのだから自分こそが使うべきだろう。
上着を取り上げられさえしなければ今すぐこの子に着せてやりたいし、魔法が使えるなら火でもおこしてやりたいが、それもできないのが悔しい。
「····何故?」
「レイヤード義兄様の素敵魔石具だからです」
物凄くどや顔なところ申し訳ないが、物凄く説明不足だぞ。
今までの付き合いで中身はとても大人びているのは間違いない。
驚きしかない程に胆が据わってるし、領で引きこもってるくせに何処から仕入れるのかその知識は膨大だ。
今ならわかるがグレインビル領の発展には間違いなくまだ小さなこの少女が絡んでいると確信している。
義理とはいえ流石レイの妹だと素直に感心してしまう。
だけど時々抜けてたり菓子に目がなかったり、こんな顔をしたりと素は愛嬌があるし、何より兄達を斜め方向に慕うところがいじらしい。
年々凛々しくも頼もしく、悪魔な側面に拍車をかけるレイを羨ましく思う。
やっぱり妹良いよなあ。
「魔石は付いてないようだが、何をする物なんだ?」
「ふふふ、魔石にはからくりがあるんですけど、それは秘密です」
口許に人差し指を近づけて、やっぱり相変わらずのどや顔だ。
「そのケープをつけて右肩を5回なでると自分の気配や匂い、音を遮断してくれて、光の屈折を歪めて目眩ましの効果を発揮してくれるんです」
光の屈折を歪めるっていうのがいまいちピンとこない。
「姿を消すという事か?」
「いえ、あくまで目眩ましの効果を持つだけです。
だから気配や匂いに敏感な獣人さんの側で目立つ動きをすると気づかれやすくなります」
「なるほど。
ならばこの状況ではこれを被っていてもあまり意味はないのではないか?」
どのみちここからは出られない。
この牢にかかる錠前は魔法錠だから専用の鍵がないと開かないのだ。
「いえ。
多分私達はどこかのタイミングでここから移動するはずです。
日は落ちてますから、あと少しすればこの牢は必然的に開きます」
「どうしてそう思う?」
「あの熊さんは王子を捕虜だと言いました。
王子の人質としての価値は現状では最も低い。
王妃様ならすぐにでも人質にして何らかの交渉や逃げる為の盾にはできるでしょう。
元々殺める事は前提のようでしたし、殺めてこそ無能な王に仕立て上げて他国の国王陛下の価値を下げられます。
もしそうなれば次期王妃として他国から娶らせようと圧力をかける事もできるかもしれません。
同盟を結んでも友好国とまでは言えない国はいくつかありますよね。
けど彼らの言うところのスペアの王子は国王陛下が切り捨てる可能性も考える必要がありますし、殺す価値と等しく生かす価値も低いはず」
····スペア発言に少なからず傷ついたぞ。
まあアリーが言ったわけじゃないし、多分そこは気にして話してくれてるのはわかるけどな。
「だがこれだけ時間と手間をかけた計画を無駄にするとは思えないぞ?
事実無根だが、彼らの目的が王家の隠蔽した何らかの事実の公表なら私の命を簡単に奪うよりも生かす可能性の方が高くないか?」
そうなんだ。
300年前の国同士の紛争が絶えない時代だったとしても当時の王家が他国の民を捕虜にするか?
小国でもそこそこの人数がいるのに管理できるか甚だ疑問だ。
それに獣人は場合によっては群れを形成し仲間意識をより強固にしやすい。
争い合った違う国同士だったとしても彼らの本能に引かかるような共通の敵がいれば手を取り合う可能性もある。
もちろんこの場合の共通の敵は当時のアドライド国になるんだが。
そんな危険をわざわざ冒してまで捕虜にした獣人、それも民である彼らを嬲り殺す?
民を捕虜にした時点で他国には知れ渡るだろう。
隣国との争いが激化する中でそれを完全に隠蔽して歴史を歪ませるとか、当時の時代背景的にそこまでの時間と労力を捻出できるとは思えないぞ。
「はい、ですからここは王子を連れた速やかな撤退が彼らにとって望ましいかなと。
王子という身分には後々の交渉材料としてなら価値があります。
もちろん暴れたり撤退の邪魔になるなら殺すかもしれませんが。
陛下が見捨てられない状況を作ってそれらしい証拠と共に他国に交渉させるのが王子の1番有効な利用方法ではありませんか」
「なるほど。
それなら既に他国に何らかの繋がりがあるかもしれんな」
「はい。
撤退するなら本格的な捜索が始まる前か、始まってすぐの夜に闇に紛れて他国に移動するのがベストです」
「だとしたら、もうそろそろか」
私の言葉に小さな銀髪がこくりと頷く。
「恐らくはもしもの時の為に陽動となる何かを仕掛けてはいるかもしれません。
せっかく王族や高位の貴族が集まっていますし、1番可能性が高いのは狩場である山でこの事に気づかずに全員が油断している時ですね。
転移用の魔石具も使えなくなるでしょうし」
「そうだな。
だとすれば捜索や救出を期待するのは無駄という事か」
「はい。
ただし今回の狩猟祭には私の家族が全員参加しています。
それにリュドガミド公爵とその血を引くご令息方もいらっしゃいます。
少なくとも王族の方々だけは無傷で守られるはずです」
「ん?
何故リュドガミド公爵なのだ?」
三大筆頭公爵というならわかるが、何故あの公爵限定なのだろう?
ふと嫌な予感がして、アリーを見つめる。
この子の察しの良さは····危険かもしれない。
「氷熊の毛皮で作ったケープです」
シルの低体温が少し落ち着いた頃、うとうとしていた俺はアリーに起こされてケープを手渡された。
彼女の手は冷えていて、毛布を巻きつけていても日が落ちていく程気温が下がっているのだ。
こんな薄手の毛布1枚では寒いに決まっている。
多少はマシになったとはいえ、顔色がまだ悪いのだから自分こそが使うべきだろう。
上着を取り上げられさえしなければ今すぐこの子に着せてやりたいし、魔法が使えるなら火でもおこしてやりたいが、それもできないのが悔しい。
「····何故?」
「レイヤード義兄様の素敵魔石具だからです」
物凄くどや顔なところ申し訳ないが、物凄く説明不足だぞ。
今までの付き合いで中身はとても大人びているのは間違いない。
驚きしかない程に胆が据わってるし、領で引きこもってるくせに何処から仕入れるのかその知識は膨大だ。
今ならわかるがグレインビル領の発展には間違いなくまだ小さなこの少女が絡んでいると確信している。
義理とはいえ流石レイの妹だと素直に感心してしまう。
だけど時々抜けてたり菓子に目がなかったり、こんな顔をしたりと素は愛嬌があるし、何より兄達を斜め方向に慕うところがいじらしい。
年々凛々しくも頼もしく、悪魔な側面に拍車をかけるレイを羨ましく思う。
やっぱり妹良いよなあ。
「魔石は付いてないようだが、何をする物なんだ?」
「ふふふ、魔石にはからくりがあるんですけど、それは秘密です」
口許に人差し指を近づけて、やっぱり相変わらずのどや顔だ。
「そのケープをつけて右肩を5回なでると自分の気配や匂い、音を遮断してくれて、光の屈折を歪めて目眩ましの効果を発揮してくれるんです」
光の屈折を歪めるっていうのがいまいちピンとこない。
「姿を消すという事か?」
「いえ、あくまで目眩ましの効果を持つだけです。
だから気配や匂いに敏感な獣人さんの側で目立つ動きをすると気づかれやすくなります」
「なるほど。
ならばこの状況ではこれを被っていてもあまり意味はないのではないか?」
どのみちここからは出られない。
この牢にかかる錠前は魔法錠だから専用の鍵がないと開かないのだ。
「いえ。
多分私達はどこかのタイミングでここから移動するはずです。
日は落ちてますから、あと少しすればこの牢は必然的に開きます」
「どうしてそう思う?」
「あの熊さんは王子を捕虜だと言いました。
王子の人質としての価値は現状では最も低い。
王妃様ならすぐにでも人質にして何らかの交渉や逃げる為の盾にはできるでしょう。
元々殺める事は前提のようでしたし、殺めてこそ無能な王に仕立て上げて他国の国王陛下の価値を下げられます。
もしそうなれば次期王妃として他国から娶らせようと圧力をかける事もできるかもしれません。
同盟を結んでも友好国とまでは言えない国はいくつかありますよね。
けど彼らの言うところのスペアの王子は国王陛下が切り捨てる可能性も考える必要がありますし、殺す価値と等しく生かす価値も低いはず」
····スペア発言に少なからず傷ついたぞ。
まあアリーが言ったわけじゃないし、多分そこは気にして話してくれてるのはわかるけどな。
「だがこれだけ時間と手間をかけた計画を無駄にするとは思えないぞ?
事実無根だが、彼らの目的が王家の隠蔽した何らかの事実の公表なら私の命を簡単に奪うよりも生かす可能性の方が高くないか?」
そうなんだ。
300年前の国同士の紛争が絶えない時代だったとしても当時の王家が他国の民を捕虜にするか?
小国でもそこそこの人数がいるのに管理できるか甚だ疑問だ。
それに獣人は場合によっては群れを形成し仲間意識をより強固にしやすい。
争い合った違う国同士だったとしても彼らの本能に引かかるような共通の敵がいれば手を取り合う可能性もある。
もちろんこの場合の共通の敵は当時のアドライド国になるんだが。
そんな危険をわざわざ冒してまで捕虜にした獣人、それも民である彼らを嬲り殺す?
民を捕虜にした時点で他国には知れ渡るだろう。
隣国との争いが激化する中でそれを完全に隠蔽して歴史を歪ませるとか、当時の時代背景的にそこまでの時間と労力を捻出できるとは思えないぞ。
「はい、ですからここは王子を連れた速やかな撤退が彼らにとって望ましいかなと。
王子という身分には後々の交渉材料としてなら価値があります。
もちろん暴れたり撤退の邪魔になるなら殺すかもしれませんが。
陛下が見捨てられない状況を作ってそれらしい証拠と共に他国に交渉させるのが王子の1番有効な利用方法ではありませんか」
「なるほど。
それなら既に他国に何らかの繋がりがあるかもしれんな」
「はい。
撤退するなら本格的な捜索が始まる前か、始まってすぐの夜に闇に紛れて他国に移動するのがベストです」
「だとしたら、もうそろそろか」
私の言葉に小さな銀髪がこくりと頷く。
「恐らくはもしもの時の為に陽動となる何かを仕掛けてはいるかもしれません。
せっかく王族や高位の貴族が集まっていますし、1番可能性が高いのは狩場である山でこの事に気づかずに全員が油断している時ですね。
転移用の魔石具も使えなくなるでしょうし」
「そうだな。
だとすれば捜索や救出を期待するのは無駄という事か」
「はい。
ただし今回の狩猟祭には私の家族が全員参加しています。
それにリュドガミド公爵とその血を引くご令息方もいらっしゃいます。
少なくとも王族の方々だけは無傷で守られるはずです」
「ん?
何故リュドガミド公爵なのだ?」
三大筆頭公爵というならわかるが、何故あの公爵限定なのだろう?
ふと嫌な予感がして、アリーを見つめる。
この子の察しの良さは····危険かもしれない。
18
あなたにおすすめの小説
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~
季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」
建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。
しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった!
(激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!)
理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造!
隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。
辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。
さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。
「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」
冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!?
現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる!
爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる