131 / 491
5
130.牢を出る~sideルドルフ
しおりを挟む
危うく飛び起きるところだったぞ。
アリーの言う通り、あの騒がしいピューマ女は俺を認識していないらしい。
妹との約束通り反応せずに見守る。
だが本当に危険が迫った時は····。
2人の様子を静かにうかがう。
あちらからは死角になっているが、シルの尻尾あたりはもぞもぞ動いているから妹もシルも流石に起きているんだろう。
反応はしないようだが。
ガン!!
「起きろっつってんだよ!!」
今度は鉄格子を蹴り上げるが、それでも無視を決め込んでいる。
ジルコは随分感情的になっているが、まだ近衛騎士団にいた頃の彼女を知る俺としてはかなりの豹変ぶりに驚くばかりだ。
昔はもっと落ち着きがあったはずだが····。
2人は依然として無視し続けて静かにしている。
それとは反対にジルコは更に騒ぎ立てる。
とうとう痺れをきらしたんだろう。
憎々しげに舌打ちすると騒がしく音を立てて鍵を開けて入ってきた。
当然のように俺のすぐ近くを通ったが、全く気づいていなかった。
多分レイが妹の為に作った魔具だろうが、なかなかの性能だ。
妹仕様だからサイズがまあまあきついのは仕方ない。
『鍵が開いたら私が開けた人を引きつけます』
アリーの言葉を思い出す。
しかしあそこまで殺気立っているのを目にしてこのまま大人しく出て行く事も難しい。
俺は覚悟を決める。
もしもの時はジルコを背後から襲おう。
幸いこの手枷が武器になる。
まあ結局は杞憂に終わったんだが。
「起きろ、このクソガキ!」
毛布が乱暴に取り払われ、細腕に手を伸ばしたところでシルが動いた。
あんな酷い刺し傷を負わせたんだ。
かろうじて息をするくらいはあり得たかもしれないが、普通に動けて自分の首に肘鉄を食らわす事ができるとまでは考えもしなかったんだろう。
実際、声をかけたのは妹にだけだった。
完全に不意を突いた攻撃だ
「ガッ」
「ぐっ」
くぐもった声を出してジルコは倒れ、シルも小さく呻いて片膝をつく。
駆け寄りそうになったが、一瞬紫暗の目と目が合った気がして踏み留まった。
一度大きく息を吐いて気持ちを切り換える。
妹の顔色は暗がりの中でも悪いとわかったしシルの気づかう声も聞こえたが、また躊躇しない為にも振り返らないと決めて開いた牢の扉から静かに出ていき、言われた通りに目立たない隅で腰を下ろした。
結局それからジルコが起き上がる事は無く····いや、それにしても····いくらあの睡眠薬を使う為とはいえ、ドレスの裾をバサッと勢い良く顔にかけるのは同じ女性同士とはいえ····どうかと思うぞ?
下手をしたら····いや、止めておこう。
まだ11才になったばかりだったはずだ。
どうせあの色気のない太もものあたりを絞ったパン····いやいや、何を考えてるんだ、俺。
「何しやがる、このクソガキ!」
「アリー嬢!」
自嘲して俯いていたが、ジルコとシルの声にはっとして顔を上げる。
カシャーン。
硝子の砕ける音が聞こえ、シルが華奢な腰に手を回して後ろから抱きついている。
おい、俺の妹に何してくれてる?!
思わず腰を浮かせて睨みそうになったが、ふと人の気配を感じて横を向いた。
もう真っ暗にはなっているが、いつの間にかそこに立っているのはシルエットからしてベルヌだろう。
やはり俺には気づいていないようだ。
あのベルヌすらも欺くこの魔具は素晴らしい出来映えだな。
「え、まだ何の獣人さんか聞いてないのに····」
「アリー嬢、それ大事なのか」
「それ以外に彼女に何の魅力も感じません····」
「····ピューマ属だ」
2人はベルヌに気づかないままに、呑気な会話をしている。
その後ジルコの横にしゃがんで多分あの三角耳を揉み始めたようだが、まだ気づかない。
「もちろんシル様のお耳と尻尾の方が好ましいですよ」
「····それは····ありがとう」
何の気遣いかわからない気遣いでシルを困惑させていても気づかない。
しまいには追い剥ぎのようにジルコの外套を脱がし始めたみたいに見えるが、やはり気づいていない。
だがベルヌはジルコのように怒る素振りは見せない。
というよりも多分普通に呆れてるよな?
めちゃくちゃ小さくだがため息吐いてるぞ。
「おい、これはどういう事だ?」
大きくため息を吐くと顔をわざと険しくしてとうとう声をかけた。
一瞬ピタリと動きが止まったが、再び動き出す。
「おい、無視するな」
不機嫌そうな声にシルが妹を背に庇うと、やはり追い剥ぎを続行させている。
「いや、何してんのかそれとなく見えてるぞ。
神経図太すぎるだろう」
あれで隠れきったと思ってたのか?
やっぱり年相応なところは可愛らしいな。
この後セーフとアウトのどうしようもない攻防が始まったが、シルは困惑し、ベルヌは恐らく声からして呆れっぱなしだったと思う。
その後は俺が妹のケープを取り上げて具合の悪い2人を見捨てて逃げた最低野郎だと思ったらしいベルヌが怒りをちらつかせる。
けれど結果だけ見ればそうなってしまう。
俺だってこの状況には憤りを感じているくらいだ。
かつて自分の護衛を務めた剣の師匠とも言える彼の言葉を甘んじて受けるしかない。
アリーの言う通り、あの騒がしいピューマ女は俺を認識していないらしい。
妹との約束通り反応せずに見守る。
だが本当に危険が迫った時は····。
2人の様子を静かにうかがう。
あちらからは死角になっているが、シルの尻尾あたりはもぞもぞ動いているから妹もシルも流石に起きているんだろう。
反応はしないようだが。
ガン!!
「起きろっつってんだよ!!」
今度は鉄格子を蹴り上げるが、それでも無視を決め込んでいる。
ジルコは随分感情的になっているが、まだ近衛騎士団にいた頃の彼女を知る俺としてはかなりの豹変ぶりに驚くばかりだ。
昔はもっと落ち着きがあったはずだが····。
2人は依然として無視し続けて静かにしている。
それとは反対にジルコは更に騒ぎ立てる。
とうとう痺れをきらしたんだろう。
憎々しげに舌打ちすると騒がしく音を立てて鍵を開けて入ってきた。
当然のように俺のすぐ近くを通ったが、全く気づいていなかった。
多分レイが妹の為に作った魔具だろうが、なかなかの性能だ。
妹仕様だからサイズがまあまあきついのは仕方ない。
『鍵が開いたら私が開けた人を引きつけます』
アリーの言葉を思い出す。
しかしあそこまで殺気立っているのを目にしてこのまま大人しく出て行く事も難しい。
俺は覚悟を決める。
もしもの時はジルコを背後から襲おう。
幸いこの手枷が武器になる。
まあ結局は杞憂に終わったんだが。
「起きろ、このクソガキ!」
毛布が乱暴に取り払われ、細腕に手を伸ばしたところでシルが動いた。
あんな酷い刺し傷を負わせたんだ。
かろうじて息をするくらいはあり得たかもしれないが、普通に動けて自分の首に肘鉄を食らわす事ができるとまでは考えもしなかったんだろう。
実際、声をかけたのは妹にだけだった。
完全に不意を突いた攻撃だ
「ガッ」
「ぐっ」
くぐもった声を出してジルコは倒れ、シルも小さく呻いて片膝をつく。
駆け寄りそうになったが、一瞬紫暗の目と目が合った気がして踏み留まった。
一度大きく息を吐いて気持ちを切り換える。
妹の顔色は暗がりの中でも悪いとわかったしシルの気づかう声も聞こえたが、また躊躇しない為にも振り返らないと決めて開いた牢の扉から静かに出ていき、言われた通りに目立たない隅で腰を下ろした。
結局それからジルコが起き上がる事は無く····いや、それにしても····いくらあの睡眠薬を使う為とはいえ、ドレスの裾をバサッと勢い良く顔にかけるのは同じ女性同士とはいえ····どうかと思うぞ?
下手をしたら····いや、止めておこう。
まだ11才になったばかりだったはずだ。
どうせあの色気のない太もものあたりを絞ったパン····いやいや、何を考えてるんだ、俺。
「何しやがる、このクソガキ!」
「アリー嬢!」
自嘲して俯いていたが、ジルコとシルの声にはっとして顔を上げる。
カシャーン。
硝子の砕ける音が聞こえ、シルが華奢な腰に手を回して後ろから抱きついている。
おい、俺の妹に何してくれてる?!
思わず腰を浮かせて睨みそうになったが、ふと人の気配を感じて横を向いた。
もう真っ暗にはなっているが、いつの間にかそこに立っているのはシルエットからしてベルヌだろう。
やはり俺には気づいていないようだ。
あのベルヌすらも欺くこの魔具は素晴らしい出来映えだな。
「え、まだ何の獣人さんか聞いてないのに····」
「アリー嬢、それ大事なのか」
「それ以外に彼女に何の魅力も感じません····」
「····ピューマ属だ」
2人はベルヌに気づかないままに、呑気な会話をしている。
その後ジルコの横にしゃがんで多分あの三角耳を揉み始めたようだが、まだ気づかない。
「もちろんシル様のお耳と尻尾の方が好ましいですよ」
「····それは····ありがとう」
何の気遣いかわからない気遣いでシルを困惑させていても気づかない。
しまいには追い剥ぎのようにジルコの外套を脱がし始めたみたいに見えるが、やはり気づいていない。
だがベルヌはジルコのように怒る素振りは見せない。
というよりも多分普通に呆れてるよな?
めちゃくちゃ小さくだがため息吐いてるぞ。
「おい、これはどういう事だ?」
大きくため息を吐くと顔をわざと険しくしてとうとう声をかけた。
一瞬ピタリと動きが止まったが、再び動き出す。
「おい、無視するな」
不機嫌そうな声にシルが妹を背に庇うと、やはり追い剥ぎを続行させている。
「いや、何してんのかそれとなく見えてるぞ。
神経図太すぎるだろう」
あれで隠れきったと思ってたのか?
やっぱり年相応なところは可愛らしいな。
この後セーフとアウトのどうしようもない攻防が始まったが、シルは困惑し、ベルヌは恐らく声からして呆れっぱなしだったと思う。
その後は俺が妹のケープを取り上げて具合の悪い2人を見捨てて逃げた最低野郎だと思ったらしいベルヌが怒りをちらつかせる。
けれど結果だけ見ればそうなってしまう。
俺だってこの状況には憤りを感じているくらいだ。
かつて自分の護衛を務めた剣の師匠とも言える彼の言葉を甘んじて受けるしかない。
19
あなたにおすすめの小説
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる