秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

文字の大きさ
195 / 491

194.本日の目玉商品

しおりを挟む
「レイチェル様!」
「アリー。
来てくれましたのね」

 教えてもらっていたお部屋をノックすれば、支度を手伝っていただろう侍女さんに招き入れられる。

 僕をアリーと愛称で呼び捨てる仲に発展した金髪青目のレイチェル様は、夜会やお茶会で身につけるきらびやかなドレスとは違う、ワンピーススタイルだ。
貴族の淑女が学園の式で身につけるのに相応しい、露出度の少ない青を基調にした生地と薄紫色のレース生地を合わせた装いだ。
嫌みにならない程度に銀糸が刺繍されていて、今日という日の主役だと一目でわかる。

 僕の姿を確認すると目だけで侍女に指示を出し、侍女さん達も使用済みだろう小道具を持って心得たと奥へ引っ込む。

「ご卒業、おめでとうございます」
「ありがとう。
花束は昨夜受け取ったわ。
とても良い香りで良く眠れましてよ」

 そう、今日は卒業式だ。
僕のお家で栽培してる、安眠作用のあるお花で花束作って送っておいたんだ。
あっちに生けられてるのがそうだね。
嬉しそうに微笑むレイチェル様は本日主役の卒業生だよ。

 定期的に会ってるけど、大人の色香?ていうのが出てて、どこから見ても立派な淑女へと成長してる。
お顔はどこぞの小説から出演依頼が来そうな、少しきつめの美人系悪役令嬢かな。
あのレースの一件以来、社交界でも領の広告塔になってお茶会や夜会に双子のお兄さんと出席したり、取り引きや職人の育成に直接関わっているからか年齢よりずっと大人っぽい。

 初対面で食ってかかってきたあのお子ちゃま令嬢がこんなに立派な淑女になっちゃうなんて、と思わず親目線で感慨深く見つめちゃうよ。
ほら、僕って中身は四捨五入して400才だし。

「あなた····何故保護者のような生温かい目で私を見ていますの?」
「レイチェル様がお綺麗だなって感動してましたの」
「····紫銀しぎんの宝玉姫に言われると複雑でしてよ。
そういえばどなたに送っていただいたの?」

 ····何それ?!
また呼び名増えた?!
僕何もしてないよね?!

「····レイヤード兄様でしてよ。
どこかで時間を潰してると思いますわ」

 数年前まで学生だった勝手知ったるレイヤード義兄様には女子寮の前まで送ってもらったんだ。
今日は卒業生の保護者だけじゃなく子息令嬢達の侍女や侍従も出入りするから、どこかで時間を潰してても目立ちにくいみたい。

 防犯の面から保護者や関係者の手には事前に手に魔法のスタンプを押されてるんだ。
色はついてないけど、それを押してないと寮なんかのプライベートスペースに弾かれて立ち入れない仕組み。

 音を立てずに侍女さん達が再びやって来る。
お湯の入った手桶やタオルを近くの小さなテーブルに置いていく。

「そうですの。
体の方はいかが?」
「冬は体調を崩す事もありましたけど、今は問題ありませんわ」
「そう。
それじゃあ用意もできたようですし、早速していただけるかしら?」
「もちろんでしてよ」

 早速2人で向かい合って座り、ポーチから必要な物を取り出して並べていく。
レイチェル様の後ろに立つ侍女さんには僕の渾身のブラシを渡して金髪をブラッシングしてもらう。

 僕は白魚のような彼女の手を手桶に浸け、石鹸を泡立てて手を包み込むように洗う。

「この櫛、気持ちいいわ。
それにハーブの良い香りね」
「お嬢様、お髪がさらさらで艶々してきましたわ」
「特製ブラシですわ。
ハーブオイルを毛に染み込ませつつ、数種類の毛を混ぜて弾力性をもたせましたの」

 感嘆の声をあげる侍女さんに気分は高揚する。
ふふふ、元は獣人さん用のブラシだったんだけどね。
一部柔らかくなったバリーフェのお髭を使っております。
当初はそのまま使えるかと思ったんだけど、弾力性のない固くて太いお髭だったから断念したんだ。
柔らかくなると太い1本のお髭が実は何十本も束になってた事が判明。
嬉々として櫛に使っちゃった。
量産してないし、人属用だし、調子のいい時にしか作ってないからセーフだよね、義兄様達。

「この石鹸も甘くて良い香りがしましてよ。
これは既に販売されていますの?」
「いいえ。
ブラシも石鹸も非売品ですの。
石鹸には南国産のヤッツ油脂を使いましたわ。
保湿性に優れておりましてよ」
「ヤッツ。
そういえば前にお兄様がヤッツミルクを大絶賛してましたわね」
「あの風味は好まれる方も多いと思いますわ」

 ヘラを取り出してふやけた甘皮を軽く浮かせ、優しく水気と泡を拭き取る。
指に専用の白い皮布を巻きつけて爪を磨きつつ甘皮も巻き取っていく。
この皮布は柔らかくなったバリーフェのお腹の皮を加工したんだ。

 侍女さんも僕と同時進行で髪を結い始めるけど、視線が主の手先と頭を行ったり来たりで忙しいね。

「すごい、爪が光っているわ」
「これだけでも綺麗になりますけど、今日は更にこれを使いますの」

 そう、それこそが僕の本日の目玉商品!

 じゃじゃーん!

「ネイルシールですわ!」

 ネイルチップじゃないよ。
シールだよ!

「えっと····ネイルシール?」

 レイチェル様の頭の上にハテナマークが見えるね。
この世界にはネイル関連のお洒落はまだないんだ。

「はい!
爪に直接貼りつけますが、お湯にふやかせば取れますわ」
「まあ。
そんな便利な物が?」
「はい。
最後にコーティングをすればもっともちますけど、どうせならお式の後の夜会でドレスに合わせた物に貼り変えてもよろしいかもしれません。
一応あらかじめお聞きしたドレスの色やデザインに合わせた物を用意しましたの」

 そう言って式用の肌色を混ぜた薄ピンクとドレス用に黒、青、金で柄を模した薄ピンク基調と薄青基調のシールを見せる。

「綺麗····」
「ドレス用の物は更に2つの色基調で用意しましたわ。
本日の夜会でどちらかを使っても、もしくは両方を交互に使ってもよろしいかと思います。
余った物は後日別の機会に使って下さっても、お気に召さなければ捨ててしまってもかまいませんことよ」
「実際に使ってみてから考えますわ」

 もちろん、と頷いて着けていく。
シールだから時間にして5分くらい。
僕はこの後レイチェル様に是非って言われた式を義兄様と見てから帰る。
だから簡単な注意点を侍女さんにも説明して、侍女さんにも練習がてら1つ貼ってもらったよ。

 ていってもあちらの世界のネイルシールとやり方は同じで超簡単。
僕がまだあちらの世界で生きてた時に、幼馴染みの子供に言われて着けてあげた記憶があるんだ。
僕がやると綺麗に貼れて剥がれにくいってよくせがまれたんだよね。

「凄いわ。
簡単なのに、綺麗····」

 レイチェル様が爪をうっとり眺めて呟けば、侍女さんもきらきらした目で頷く。

「どうやったらこんな素敵な物を作れましたの?」
「バリーフェを使いましたわ」
「え····あの、使えない魚の?」

 侍女さんの質問に答えれば、レイチェル様が驚きに目を見開く。
だよね。
使えないので有名だもの。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...