秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

文字の大きさ
280 / 491
7―2

279.医療のデリケートな歴史と健康体

しおりを挟む
「根本的な疑問を尋ねても良いか?」

 え、僕は残り時間までに目の前のデザート達を平らげる責務を全うしたいいんだけど?

「いや、半分はぼやきみたいな物だ。
食べながらでいいし、答えたくないなら別にいい。
グレインビル嬢からは詮索するなと言われているし、手術については答えてくれたのもわかっている。
感謝もしている」

 そろそろ面倒になってきた僕の不穏な気配を感じたのか、国王はすぐさまそう続けた。

 今度はバルトス義兄様がタルトを差し出すから、無意識的にパクリ。

 フルーツの酸味とカスタードクリーム、タルト台のなんと素晴らしきハーモニーよ。

 機嫌の良い僕はコクリと頭を振って了承してあげる。

「何故そなたはそこまでの知識や技術を持っている?
そなたが医術を学んだ国なら薬学ももっと発達しているし、あの心臓の発作を抑える薬もあるのだろう?」

 モグモグ····ゴクン。

 ふむ、当然の疑問ではあるか。
でも話すの面倒臭いから無視かな。

 今度は紅茶のストレートをゴクンと飲む。
この組み合わせも好きなんだよね。

 ああ、でも釘を刺すのも大事かと思い直す。

「そうだけど、僕のいた国の知識は門外不出だし、それについて答えるつもりはないよ。
手術の内容をさらっと話したけどさ、アリアチェリーナから手術をしたから命を落とす場合もあるって聞いた時、君はすぐに受け入れられたのかな?」
「いや····すぐには····」
「だよね?
逆にそうなった時、同意を得て行っても異端だ人殺しだとこちらが罪に問われる可能性だってある。
君達患者となる側のそういう危険についての受け入れって、出来ないでしょ?」

 僕の世界でだって、そういうので迫害を受けた歴史はあるんだよ。
僕の生きた時代にだって、医療裁判てのがあるくらいにデリケートな問題でもある。

 諸々が遅れているこの世界でこんな手術をしたなんて大々的に言えば、アリアチェリーナである僕はあちらの世界で起きた、ほぼ有罪確定の魔女裁判やら異端審問みたいな拷問でも受けて死刑一直線じゃないかな。

「その、通りだ」

 苦い顔でそう答えたのはもちろん国王。
手術の話をした時にムササビの僕に食ってかかったの君なんだからね。

「例えば発作を抑える薬。
その薬は人を殺せる道具から生まれたと言っても、躊躇なく手を出せる?
その薬を1つ作るにしても、爆発しちゃう類いの物なんだけど、作れと言えば進んで作る人がどれくらいいる?」
「ば、爆発?!」

 王子はギョッとした顔になる。
うん、普通はそうだよね。

 狭心症のあの薬はダイナマイトの粉塵を吸った人の実体験が起源だったんじゃなかったかな?

「もちろん安全に作る方法もあるかもしれないけど、そういうのに対応した器具を作る技術や概念すら君達にはないよ?
僕の国は魔法には頼らず、人の本来の力だけで発展する方法を知恵を出し合って考えてきた」

 そもそもあっちは魔法の無い世界なんだけどね。
向こうの世界ではもちろん安全に作られてるよ。

 とか思いつつ、バルトス義兄様の無駄のないデザート運びに再びモグモグタイムへと集中する。

 テンポよくパクパクとチョコレートとタルトを交互に食べ進めれば····タルトが目の前からいなくなっちゃった?!

 これは事件?!
タルト誘拐事件ですか?!

「その、話を続けてもらえないだろうか?」

 どことなく王子が遠慮がちに声をかけてきてハッとする。

「「チッ」」
「あ、いや、すまない」

 義兄様達の舌打ちに王子が慌てたところで完全に我に返った。

 何の話してたっけ?
あ、そうだそうだ。

「もちろんそこにはたくさんの犠牲や危険がつきまとったよ。
それでも諦めず、時には自らの危険を承知で医療の発展に貢献した人達がいた。
そんな人達のたゆまぬ努力が何十年、何百年と受け継がれて常に続いてきたから、医療を施す側も受け入れる側も魔法に頼ってきた君達の国よりも様々な面で発展している。
門外不出なのは、現状では受け入れる側と相容れないからだ」
「だが····」
「君達はアリアチェリーナを知っているから僕の話をいくらか受け入れられている。
特に君は身内が亡くなるかもしれない切羽詰まる状況だった。
けれど治癒や回復の魔法に頼り切ったその他大勢の人々はどうかな?」
「····っ」
「それが僕とアリアチェリーナの答えだ。
僕の国にだって、迫害された先駆者達はたくさんいるよ?
君達がアリアチェリーナを真の意味で守れる補償はどこにもないよね」
「「····」」

 2人の王族はとうとう押し黙った。

「それに僕は今後アリアチェリーナに呼び出される事は2度とない。
僕達との繋がりは今日を限りに断たれるからね」
「そんな!
アリー嬢は師匠を失うのか?!」

 王子は何を心配してるのかな?

「うーん····君の思ってるのとは多分違うんだけど。
まあ元々どうやっても僕を呼び出すのは不可能だったのが、たまたまうっかり可能になって、それが本来の形に戻るだけだよ。
アリアチェリーナも納得しているし、特に悲しんでもない」

 そもそも今の中年男性も僕なんだし。
あ、健康体なのは心残りかな。
生きてるってこんなに体が楽な事だったのかって改めて感じてるもの。

 アリアチェリーナの体は本当に頑張って生きてるんだよね。
何だかしみじみしちゃうよ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

強制力が無茶するせいで乙女ゲームから退場できない。こうなったら好きに生きて国外追放エンドを狙おう!処刑エンドだけは、ホント勘弁して下さい

リコピン
ファンタジー
某乙女ゲームの悪役令嬢に転生したナディア。子どもの頃に思い出した前世知識を生かして悪役令嬢回避を狙うが、強制力が無茶するせいで上手くいかない。ナディアの専属執事であるジェイクは、そんなナディアの奇行に振り回されることになる。 ※短編(10万字はいかない)予定です

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界立志伝

小狐丸
ファンタジー
 ごく普通の独身アラフォーサラリーマンが、目覚めると知らない場所へ来ていた。しかも身体が縮んで子供に戻っている。  さらにその場は、陸の孤島。そこで出逢った親切なアンデッドに鍛えられ、人の居る場所への脱出を目指す。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです

卯崎瑛珠
ファンタジー
【後半からダークファンタジー要素が増します(残酷な表現も有り)のでご注意ください】現代日本から剣と魔法の異世界に転生した、公爵令嬢のレオナ。  四歳で元地味喪女平凡OLであった前世の記憶を思い出した彼女は、絶大な魔力で世界を恐怖に陥れた『薔薇魔女』と同じ、この世界唯一の深紅の瞳を持っていた。  14歳で王立学院に入学し、普通に恋愛がしたい!と奮闘するも、他国の陰謀、皇帝や王子からの求婚、神々をも巻き込んだバトル、世界滅亡の危機など、とてもじゃないけど恋愛なんてできっこない!な状況で……果たしてレオナは『普通の恋』ができるのか!?  仲間たちとの絆を作りながら数々の困難を乗り越えていく、『薔薇魔女』の歴史を塗り替えた彼女の生きる道。どうぞ一緒に応援してください! ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 【第3回 一二三書房WEB小説大賞1次選考通過】  初執筆&初投稿作品です。 ★総集編は160話の後の書き下ろしです  ブクマ、感想頂きありがとうございます!執筆の糧です。大変嬉しいです!  小説家になろう様、カクヨム様にも掲載中。  HOTランキング3位ありがとうございましたm(_ _)m

処理中です...