秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

文字の大きさ
310 / 491

309.炭酸ジュース風

しおりを挟む
「お嬢様、よろしいのですか?」

 僕の後ろをついてくる、できる専属侍女ニーアの魔法によってまたしても温風が僕に纏う。
歩き始めて少し遠ざかっていた眠気がまた近づいてきそうだ。

 ニーアは僕の従兄に向けた淑女らしからぬニマニマ笑いよりも、別の事が気になったのかな?
もちろん何の事かわかってるよ。

「うん、いいの。
あのジュースはそこまで長く日持ちしないし、せっかくなら状態保存の魔法を使った物じゃなく、ちゃんと飲み頃になったのを飲んで欲しいんだ」

 そう言いながらニーアと厨房に足を踏み入れた。

 今はちょうどお昼休憩で、うちの料理人さん達は休憩室で賄いを食べてるみたいだ。
誰もいないね。

「兄様達用に揃えてたけど、バルトス兄様はデビュタント式でのお城の警備に続いて、そろそろ学園の卒業式の警備の打ち合わせが入ってるでしょう?
レイヤード兄様も保留にしてた指名依頼が溜まってたんじゃないかな?
2人共この冬は父様のお仕事中に僕の体調管理をしてくれてた分、自分達のお仕事をセーブしてたせいでお仕事が立てこんでて忙しいんだもの。
寂しいけど、なかなか帰って来られないのは僕のせいだから仕方ないよ」

 そう、冬の間は義兄様達はできるだけ僕に付き添ってくれていたんだ。
それだけ体の状態も悪かったし、心も何だかずっと不安定だった。

 それにあまり帰って来なくなったとは言っても、ここ2週間くらいの話だよ。

 寂しいけど、もう成人したんだから子供っぽい駄々をこねたりしないもん。
····寂しいけどさ。

「僕の体にもいいから、酵素ジュースはいつでも新鮮な物を飲めるようにまた新しいのを揃えておくよ。
古くなるとカビなんかが発生しちゃうしね」

 そう言って厨房の一角に並ぶ瓶を抱えようとすれば、ニーアが片手でさっと持って作業台の上に置いてくれた。

「少々お待ちを」

 そう言うと、もう片方の手にしていた僕が使っていた食器やらを片づけてから、他の瓶も置いてくれる。

 この瓶の中でじっくりと美味しく発酵したのが、酵素ジュースという名の炭酸風飲料だよ。

 従兄様の前では定番の果実水呼びにしたけど、あちらの世界の酵素ジュースなんだ。
この世界に炭酸飲料はまだないみたいだから、カフェも営む従兄様は贈ったジュースを飲んですぐにグレインビル領へ来ちゃったんだろうね。

 自領の利益に貪欲な従兄様だ。

 この酵素ジュースはパンを発酵させたりする時にも使ってるよ。
というか飲めるのすっかり忘れてて、思い出したのこの冬だったんだけどね。
邸でパンを作る時にしか使ってなかったなんて、もったいない事をしてきたもんだ。

 今ではうちの邸の料理人達は自分達で酵母を作ってるけど、始めて教えた時には皆びっくりしてたのを思い出す。

 料理長は当初、腐った水を入れるなんて食材への冒涜だって怒っちゃうしさ。

 それまでは酵母の概念の無い、パンが固くて当たり前の世界だったから仕方ないよね。

 それに僕は元々通常形態のパンはあまり食べない方だったし、皆固いパンが好きなんだと思ってたんだ。
体が小さい頃は生きるのに精一杯で、パン粥ばっかりの生活だったのもあるかな。

 少し大きくなってからは義母様の心臓病を治したくて食材そのものには興味を持ったんだけど、調理の方にまで興味を回さなかったのも影響したんだと思う。

「んふふふ、こっちの酵素ジュースは特別仕様でより発泡力が高くなったはずなんだ。
うまくできたかな」

 そう言いながらできる専属侍女にタイミング良く差し出されたお玉ですくって、これまたタイミング良く差し出されたコップに少し注ぐ。

「んー、美味しい!
ニーアも飲んでみて!」

 満面の笑みでそう言えば、ニーアもコップに注いで一口。

「これは····癖になる感覚と美味しさですね」
「でしょう!」
 
 コリンと干したアリリアの実で漬けた酵素ジュースを、更に向こうの世界で言えばブドウに当たる果物の100%果汁を加えて発酵させたら本当に炭酸みたいになっちゃった!

 この発見はたまたまだよ。

 残り少なくなった酵素ジュースに果汁を足して飲もうとしてたんだけど、ちょうど来客があって忘れて放置しちゃったら微炭酸が炭酸になったんだ。

 厨房で作って忘れちゃったから、料理人の誰かが気を利かせてちゃんと蓋して保存してくれたのも良かったんだろうね。

 これに関してはあっちの世界でも同じ現象が起こるのかは知らない。
でもこっちでも化学的な現象は同じように起こるから、あっちでも起こるんじゃないかとは思ってる。

 もちろんあちらの世界の炭酸水とは違うけど、もう炭酸ジュースでいいと思う!

「では本日はそれを出しましょうか?」
「うん。
せっかくだから、こっちの普通のコリンの酵素ジュースも出して飲み比べできるようにしてあげて。
従兄様だけ蜂蜜も添えてね」
「畏まりました」
「それじゃ、先に行くね」

 後はニーアにお任せして、僕は客間に向かい、ノックする。

 すぐに執事長のセバスチャンがドアを開けてくれた。
僕を見た瞬間に、今度はセバスチャンが温風を纏わせてくれる。

「ありがとう」
「とんでもない」

 いつも優しく見守ってくれているお顔を見合わせてにこりと微笑み合う。

「父様、従兄様、すぐにニーアが持って来てくれるから、もう少し待ってね」
「もちろん。
それよりこの新作ケーキ、食べてみて」

 ソファに座っていたらしき従兄様はさすが公爵家の嫡男だね。
さっと立ち上がって入って来た僕を義父様のお隣までエスコートしてくれたよ。



※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
新章昨日から始まりました。
お休み中もお気に入り登録をいただき大変喜んでおりますm(_ _)m
本日までは午前と午後に1日2話更新しようと思っています。
お休み中も応援いただいたささやかなお礼の気持ちです。
よろしければご覧下さい。

同時進行中の下の作品が最近よく読まれていますので、こちらもよろしければ。
これまでは毎朝投稿していましたが、これからはお昼過ぎくらいの投稿が増えるかもしれません。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】


あとこちらも以前に完結した作品ですが、最近読んでいただく方が増えたような?
【ダーリン(仮)闇堕ち防止計画】前世:聖女&聖竜の飼い主、今世:こっ恥ずかしい二つ名(鮮血の魔女)冒険者&魔竜と古竜の飼い主&一途な悪女です
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...