太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する

嵐華子

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1.

3.初代、花魁と太夫は違います

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「毎朝しっかり飲んでくれるなんて、うちのディーは偉いわ」

 さてさて無精髭の脅威が遠のいた今、やっと安心して朝食でございます。

 数時間毎に同じ飲み物を食し続けてよく飽きませんよね。
でも飽きると死活問題に発展しますもの。
本能に感謝です。

 ちなみに父親は朝の身支度にどこぞへ行かれました。

 とはいえわたくしのお食事は母乳ですもの。
母子共にとってもお手軽に摂取させ、摂取するのが朝の日課でございます。

 母親も起き抜けは胸が張って痛むようですし、お乳が詰まるとそれはもう大変。

 痛みに加えて腫れてしまうと詰まりを取る按摩あんまもまた激痛を伴うようです。
下手をすると発熱も起こりますから妊娠中のみならず、授乳中も母は大変な試練を与えられているのです。

 詰まれば母乳の質も変化しますし、お互いの為にもしっかり飲む事にしておりま……ふわぁ。

「あらあら、おねむちゃんかしら?
でももう少し飲んで、ディー、ほらほら」
「んぶぼっ」

 は、母よ……つっこみ過ぎです!
胸肉に鼻がめりこむくらい突っ込まないで下さいまし!

 今世の母親はなかなか雑……豪胆な性格でございますね。

「んぶぁっ……んくっ、んくっ」
「あら、飲み始めてくれたのね、えらいわ」

 何とか気道確保して再開します。
色々な意味で死活問題でしたね。

 さてさて、このまままた飲み疲れて寝入る前に、私のこれまでの人生をお話ししておきましょう。

 私には今の滴雫ディーシャとしての生を受ける前に、2度の人生を歩んだ記憶がございます。

 まずは1度目。

 それはこことは違う世界。
大和やまとと呼ばれた国の、そこそこ裕福な武家に産まれました。

 しかし物心つく頃には両親が相次いでぽっくりと。
随分と可愛がり、様々なる遊びを根気強く教えて下さったような、薄ぼんやりとした記憶がございます。

 といってもこちらより文明が劣り、魔法もない世界でしたもの。
娯楽などしれておりますのは悪しからず。

 そうですね、和歌や連歌のような教養めいたものに始まり、囲碁や双六、貝覆いもございましたが、おわかりになられるしら?
時代が古すぎると指摘されそうで気後れしてしまいますね。

 ですが今思えば、私にとってこれらがその後のいしずえとなったのやもしれません。

 両親が私を遺してぽっくり逝ってしまった後は、幼子の、それも女子おなごとして産まれた身の上です。
進む道など決まっているようなもの。

 遊女と呼ばれる者達が住まうくるわに初めは禿かむろとして引き取られました。

 そこで琴、琵琶、少し変わり種として細い笛を束にしたような雅な楽器のしょうたしなみます。

 楽器を扱うのは好きで、いつの頃からか名手と呼ばれるほどに上達しましたのは、ちょっとした自慢です。

 もちろん書道、茶道、香道、華道も遊女の嗜みとして学びました。

 やれば出来る子だったようで、なかなかの腕前と面倒を見て下さった姐さんにもよく褒められたものです。

 芸は身を助けるとはよく言ったもの。
その後、新造を経て1人立ちした私は芸事を極めた事でのし上がり、太夫たゆうとなって贔屓のお客様すらも選べるほどの芸を売る遊女となったのです。

 そういえば、時折花魁おいらんと混同なさる方がいらっしゃいましたね。

 花魁は遠い異国であれば、パトロンのいる上級娼婦全般を指します。

 吉原ならパトロンご贔屓さんがついて、禿や新造と呼ばれる小間使いや次代の遊女候補を養うあねとなった、稼げる遊女がそう呼ばれるでしょう。

 対して太夫は芸事や教養に、特に秀でた最上格と認められた、主に芸を売る遊女、芸鼓とも呼ばれる者に与えられる名称です。
異国語でナンバーワンですね。

 少なくとも初代だった私が没するまでは、そのような違いがございました。

 それにしても、初代の私はつくづく運も良かったのでしょう。
禿の時にどのような姐さんにつき、後に新造となってどのような教養を授けていただけるかで大方の道が変わってしまいますもの。

 そうして太夫に登りつめた私は、とある豪商の殿方に身請けされました。
それも、とある身分の高い御方と身請け争いをされた末に。

 うふふ、なかなかのモテ具合でしたでしょう?

 まあ元は遊女です。
夫共々彼のお家からは勘当されてみたり、病を患ったりと、わりかし波乱万丈な人生でしたが。

 それでも最期まで仲睦まじく暮らせましたから、幸せな一生でございました。
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