70 / 124
4.
70.指紋〜静雲side
しおりを挟む
「呉静雲、自分が何をしたか解っておるか」
「……許せなかったのです。
陛下はお姉様以降、誰を後宮に入宮させても決して初夜など共に迎えませんでした。
なのに初夜を共にしたばかりか、翌日にはお姉様と共にあの貴妃の元へ……」
私が闘茶の場から半強制的に退出させられてから1週間程が経った。
皇貴妃であるお姉様付きの女官達によって見張られながら、元々の私付きの女官と1度も顔を合わせる事なく宮の自室で謹慎を強いられる私の元に気難しい顔をしたおじ様がいらっしゃった。
私がしでかした事があの性悪のせいで公にされたのだと悟り、正直に話す。
もちろん四公の1つ、司空という権威と権力を持つおじ様に庇っていただく為。
「それで陛下の正妻の1人となる滴雫貴妃に毒を送ったと?」
「毒などと!
ただその日1日腹痛や下すだけで……」
「それが毒と言わずして何とする。
事が公になれば反逆罪と見なされ、一族郎党が打ち首となっていたとの考えに、何故至らん。
周りがどう考えようとあの貴妃は既に皇族の一員たる夫人の1人。
事はウー侯家だけに留まらなんだぞ」
しかし今の話からまだ内々の話に留まっているのだと気づく。
ならばおじ様が全て無かった事にしてくれるつもりだと、おじ様はやはり娘と長年実の姉妹のように懇意にしている私の味方なのだと安堵し、喜び勇んで性悪を貶める。
「お待ち下さい!
実際に口にしたあの悪妃は何も起こっていないと聞きました!
やはりあの者が私を……」
「胡家秘伝の百年六堡茶だ」
何故か眼光を鋭く尖らせたおじ様に言葉を遮られた。
まるで怒りを蓄積していくように見えて正直戸惑う。
「……あの高級茶とやらが何なのです?」
「あの貴妃は茶に毒が入っていても、いなくとも、どちらでも良いようにあらゆる毒を解毒すると言われる生家秘伝のその茶を態々出したのだ。
闘茶でお前達が先に無毒の茶から口をつけるのも見越してその茶を出したのだろう」
「そんな……ならば騙されたのは……」
「騙すだと?
どちらでも、どうとでもなるようにしただけの事でお前が浅はかだったのだ!
そして最初から見逃すつもりで、しかし今後邪魔だと感じればいつでも排除できるようにしていたのだと何故わからん!」
ガシャンと卓に拳を叩きつけたおじ様に驚き、思わず身を固くする。
これまででおじ様が私への怒りを噴出させたのは初めてだ。
「あの貴妃はあの場でこそ美味い茶を受け取ったと申したが、既に証拠を押さえておったわ!」
「しかし私が送った物だとしても、私が入れたかまでは……」
「その後内々に茶の場を設けて指紋という紋を私に見せてきた」
「シモン、とは?」
初めて耳にする言葉に思わず聞き返せば、懐から紙を1枚取って広げて見せた。
形は左右の指が5本ずつ描かれているように見える。
けれど何故波紋のような線や小さな皺が描かれてあるのか、意味がわからない。
「これは……指の跡?」
「左様。
人の指にある紋や皺は各々違うらしい」
その言葉に絶句する。
初めて聞いた事象だけれど、だとすればそこに描かれた絵は……。
「かの貴妃は紛失した貴金属全て、詫びとして送られた金品全ての指紋を取り、全てを模写しておったのだ!
当然にあの壷もな!」
絶句する。
貴金属全てと言ったの?
お姉様からは直接に、今なら不問にするから必ず女官達全員を直接問い質し、金塊を上乗せしてあの性悪に差し出すようにと聞かされていた。
けれど私は軽く受け取って筆頭女官に丸投げして女官達の自主性に任せた。
恐らく全ては返せていない。
いくらかはお姉様の顔を立てたつもりで馬蹄銀を数個出したけれど……間違いなく弁済には足りなかったはず……。
「もし未だにあの貴妃の装飾品やその他をこの宮の女官達が持っておるなら何かしらを上乗せして返させよ。
お前も責任者として相応しい額を出すのだな。
でなければあの貴妃の気持ち1つで、毒の件が無くともお前を連座で罰する事はできよう。
軽はずみな盗みがそれぞれの家々を没落させ、そのような者の舵取り1つできぬお前は破滅するのだ」
そう言って紙はそのままに立ち上がり、上から睨みつけながら圧をかけてくる。
私は初めて感じた恐ろしさに顔を上げられなくなってしまった。
「……許せなかったのです。
陛下はお姉様以降、誰を後宮に入宮させても決して初夜など共に迎えませんでした。
なのに初夜を共にしたばかりか、翌日にはお姉様と共にあの貴妃の元へ……」
私が闘茶の場から半強制的に退出させられてから1週間程が経った。
皇貴妃であるお姉様付きの女官達によって見張られながら、元々の私付きの女官と1度も顔を合わせる事なく宮の自室で謹慎を強いられる私の元に気難しい顔をしたおじ様がいらっしゃった。
私がしでかした事があの性悪のせいで公にされたのだと悟り、正直に話す。
もちろん四公の1つ、司空という権威と権力を持つおじ様に庇っていただく為。
「それで陛下の正妻の1人となる滴雫貴妃に毒を送ったと?」
「毒などと!
ただその日1日腹痛や下すだけで……」
「それが毒と言わずして何とする。
事が公になれば反逆罪と見なされ、一族郎党が打ち首となっていたとの考えに、何故至らん。
周りがどう考えようとあの貴妃は既に皇族の一員たる夫人の1人。
事はウー侯家だけに留まらなんだぞ」
しかし今の話からまだ内々の話に留まっているのだと気づく。
ならばおじ様が全て無かった事にしてくれるつもりだと、おじ様はやはり娘と長年実の姉妹のように懇意にしている私の味方なのだと安堵し、喜び勇んで性悪を貶める。
「お待ち下さい!
実際に口にしたあの悪妃は何も起こっていないと聞きました!
やはりあの者が私を……」
「胡家秘伝の百年六堡茶だ」
何故か眼光を鋭く尖らせたおじ様に言葉を遮られた。
まるで怒りを蓄積していくように見えて正直戸惑う。
「……あの高級茶とやらが何なのです?」
「あの貴妃は茶に毒が入っていても、いなくとも、どちらでも良いようにあらゆる毒を解毒すると言われる生家秘伝のその茶を態々出したのだ。
闘茶でお前達が先に無毒の茶から口をつけるのも見越してその茶を出したのだろう」
「そんな……ならば騙されたのは……」
「騙すだと?
どちらでも、どうとでもなるようにしただけの事でお前が浅はかだったのだ!
そして最初から見逃すつもりで、しかし今後邪魔だと感じればいつでも排除できるようにしていたのだと何故わからん!」
ガシャンと卓に拳を叩きつけたおじ様に驚き、思わず身を固くする。
これまででおじ様が私への怒りを噴出させたのは初めてだ。
「あの貴妃はあの場でこそ美味い茶を受け取ったと申したが、既に証拠を押さえておったわ!」
「しかし私が送った物だとしても、私が入れたかまでは……」
「その後内々に茶の場を設けて指紋という紋を私に見せてきた」
「シモン、とは?」
初めて耳にする言葉に思わず聞き返せば、懐から紙を1枚取って広げて見せた。
形は左右の指が5本ずつ描かれているように見える。
けれど何故波紋のような線や小さな皺が描かれてあるのか、意味がわからない。
「これは……指の跡?」
「左様。
人の指にある紋や皺は各々違うらしい」
その言葉に絶句する。
初めて聞いた事象だけれど、だとすればそこに描かれた絵は……。
「かの貴妃は紛失した貴金属全て、詫びとして送られた金品全ての指紋を取り、全てを模写しておったのだ!
当然にあの壷もな!」
絶句する。
貴金属全てと言ったの?
お姉様からは直接に、今なら不問にするから必ず女官達全員を直接問い質し、金塊を上乗せしてあの性悪に差し出すようにと聞かされていた。
けれど私は軽く受け取って筆頭女官に丸投げして女官達の自主性に任せた。
恐らく全ては返せていない。
いくらかはお姉様の顔を立てたつもりで馬蹄銀を数個出したけれど……間違いなく弁済には足りなかったはず……。
「もし未だにあの貴妃の装飾品やその他をこの宮の女官達が持っておるなら何かしらを上乗せして返させよ。
お前も責任者として相応しい額を出すのだな。
でなければあの貴妃の気持ち1つで、毒の件が無くともお前を連座で罰する事はできよう。
軽はずみな盗みがそれぞれの家々を没落させ、そのような者の舵取り1つできぬお前は破滅するのだ」
そう言って紙はそのままに立ち上がり、上から睨みつけながら圧をかけてくる。
私は初めて感じた恐ろしさに顔を上げられなくなってしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる