異世界で絵本作家になったのだが、ファン層がちょっと変なんですけど(泣)

トモモト ヨシユキ

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31 終わっていない恋の件

    俺は、魔王城の離宮へと通された。
   俺は、広くて立派なだけど、飾りけのない部屋がわりと気に入った。それに、この離宮には、男は、あまり来ないということも気に入っていた。
    テレビスとセレビスは、王城の方に部屋を与えられていたので、俺は、久しぶりに一人になってくつろぐことができた。
     俺は、落ち着くと、すぐに、レイモンドに龍仙国と連絡をとりたいということを伝えようとしたのだが、レイモンドのいる王城からは、少し離れている上に、離宮には、厳しい警備がしかれていたので、なかなか、レイモンドに取り次いでもらうことができなかった。
    「ここは、魔王様のお妃様たちの住んでおられる墓所でございますから」
   俺の世話係であるミナさんという耳の長いエルフ族出身だというメイドさんは、俺にお茶を入れながら話してくれた。
    「本来なら、神妃様とはいえ、男の方の入れるところではないのですが、この度は、特例でこの離宮にお泊まりいただくことになったのです。なにしろ、神妃様は、身重とのことでしたから」
    「魔王の妃たちって」
     俺は、いろいろ突っ込みたいこともあったが、スルーしてそのメイドさんにきいた。
    「妃は、一人じゃないのか?」
     「はい。レイモンド様には、三人のお妃様がおられます」
        マジか。
   三人も嫁がいるのか。レイモンドのくせに。
   俺は、前にテレビスたちが言っていたことを思い出してきいてみた。
   「確か、子供の産まれる人がいるって?」
   「ああ」
     栗色の髪に、茶色い目をした、その可愛らしいメイドさんは、一瞬、すごく嫌そうな顔をしたが、すぐに、笑顔で取り繕った。
   「第3夫人のフローラ様のことですね」
    メイドのミナさんが言うには、フローラさんは、3人の妃の中で1番若くって、元魔法騎士だったという異色の経歴の持ち主だという。
    なんでも、この魔界にある3家の古い一族の内の一つである、メイナム家の出身だとかで、かつて、龍仙国に留学していたこともある才女なのだそうだ。
    「マジで?」
    俺は、フローラさんがシエナの元カノだと確信した。
   どんな女性なのだろう。
    あのシエナが、恋い焦がれた相手だ。
    さぞかし、すばらしい人に違いない。
    「ただ」
    ミナさんが少し、表情を曇らせた。
   「フローラ様は、最近、ちょっと、妊娠のせいか、気が立っておられる様でして。本当なら、神妃様にご挨拶に来られるべきなのですが、来られる状態じゃなくって」
        「そうなんだ」
    「はい、そうなんでございます」
    ミナさんは、俺に言った。
    「フローラ様は、もともと無口で、少し、変わったところのある方だったのですが、この秋頃に妊娠したことがわかってからは、部屋に閉じ籠られることが多くなり、ほとんど誰ともお会いにならなくなっているのです。」
    マジか。
   俺は、心の底から彼女に同情していた。
   わかる。
   わかるよ、フローラさん。
   俺は、心の中で激しく、フローラさんに同意していた。
    無理矢理結婚させられて、望みもしないのに子供ができて。
   さぞかし、辛いよな。
  「レイモンドは?」
   俺は、ミナさんにきいた。
   「奴は、どうしてるんだよ?」
    「魔王様でございますか?」
    ミナさんが溜め息をついた。
   「魔王様にとっては、フローラ様は、決して寵姫というわけではございません。ただ、国内の政治的な問題から娶られただけの方ですし、正直、魔王様は、フローラ様のことをもて余しておられる様子でございますね」
   「でも、子供が産まれるんだよな?」
    俺は問うた。ミナさんは、俺に頷いた。
   「ええ。でも、レイモンド様には、すでに第一夫人のリリア様との間に2人の王子がおられますし、第二夫人のタリア様との間にも、1人姫君がおられますから」
       なんですと?
   俺は、シエナの元カノの現状にふつふつと怒りを覚えていた。
   ただでさえも愛する人と引き裂かれたというのに、さらにこの状態じゃ、ブルー入るって!
   俺は、ミナさんに無理を言ってフローラさんに会わせてもらうことにした。
   最初、ミナさんは、妙に、俺とフローラさんを会わせることを渋っていた。だが、俺がどうしてもと頼み込むと、断りきれずに承諾した。
    「何があっても、驚かないでくださいね、神妃様」
   そう言いながら、ミナさんは、俺をフローラさんの部屋へと案内してくれた。
   フローラさんの居室は、俺の部屋のすぐ側にあった。
    「魔王様が、お二人とも、お子さまができるので、話もあうこともあるだろうと仰って」
    ミナさんが忌々しそうな表情を浮かべたのを俺は、見逃さなかった。
   どれだけ、冷遇されてるんだよ、フローラさん。
    ミナさんは、俺をフローラさんの部屋の前まで案内すると、ドアをノックした。
   中から、低いハスキーな声がきこえた。
   「何?」
    「この冬、魔王城に滞在される神妃様が、ぜひ、ご挨拶をしたいとおっしゃいまして、ご案内しました」
    「ちっ!」
    中から低い舌打ちがきこえた。
    あれ?
    俺は、なんか、違和感を感じていた。
   舌打ち?
      「失礼いたします、フローラ様」
    ミナさんは、フローラさんが返事をする前にドアを開けて中へと入っていった。
   「ちょっ!勝手に入ってこないでよ、ミナ」
   部屋の中からどさどさっと何かが崩れる様な物音がした。
   俺は、驚いて、中をそっと覗き込んだ。
   そこには。
   床一面に崩れ落ちている本の山と、その中に仁王立ちになっている見事な金髪の、眼鏡の美女の姿があった。
   「また、こんなに散らかして」
    溜め息をつくミナさんに、フローラさんは、プンスカ怒っていた。
   「だめよ、勝手に動かさないで!これでも、私には、どこに何があるか、わかってるんだから」
    「しかし、これでは、神妃様がお座りになるところもないではありませんか」
    「ええ、わかってるわよ」
   フローラさんは、言い放った。
    「だから、誰にも会いたくないって言ってるじゃないの!」
    「また、そんなことを仰って!」
    フローラさんに向かって声を荒らげるミナさんに、俺は、そっと言った。
  「俺は、別に、立ち話でもいいから」
   「あら」
    フローラさんが俺の存在に気づいて俺の方を見た。
   「もしかして、あなたが、神妃様?」
   「たぶん。そういうことになるかな」
   俺が嫌そうに認めると、フローラさんは、急に態度を豹変させた。
   「ミナ!すぐに、お茶を入れてくれる?最近、実家から送ってきた美味しいお菓子があったことを思い出したわ」
    はい」
    ミナさんがきいた。
    「ですが、いったいどちらでお召し上がりにになられるのですか?」
   「決まってじゃない」
    フローラさんは、部屋の隅の空いている床の上にどかっと座り込むと、俺に手招きした。
   「さあ、神妃様、こちらへどうぞ」
        俺たちは、本の山に囲まれた床の上に座り込んで黙々とお茶を飲んでいた。
   なんか。
   俺は、お茶を飲みながら思っていた。
   フローラさんって、俺の想像してたのと、ちょっと違う?
   「神妃様?」
    「はい?」
     俺は、フローラさんに呼ばれて顔をあげた。フローラさんは、俺にきいてきた。
   「神妃様も妊娠中なんですって?」
    「あー、まあ、そうみたいだな」
    俺がほんとに嫌そうな顔をして頷いたのを見て、フローラさんは、嬉しそうに笑い声をあげた。
   「ああ、ほっとしたわ」
   ひとしきり笑った後、涙を拭っているフローラさんに、俺は、きいた。
   「なんで?」
  「うん?」  
  フローラさんは、真面目な顔で俺を見つめた。
    「なんでって?それは、子供を産むのが嫌な者が私の他にもいるんだなって思ったらうれしくなって」
       「ええっ?」
    俺は、フローラさんを見つめた。
   「フローラさんも、子供を産むのが嫌なわけ?」
   「ええ」
    フローラさんは、頷いた。
   「だって、この私が、いい母親になんてなれるわけがないし」
   フローラさんは、あっけらかんと言った。
   「だって、私が愛しているのは、この子の父親なんかじゃないんですもの」
   「はい?」
    彼女は、驚いている俺に続けた。
   「私が、レイモンドに嫁いだのは、あの人が、自分のことを愛せなくってもいいって言ったからだもの」
    「それは、もしかして」
    俺は、声を潜めた。
    「昔、好きだった人のことが忘れられなくて?」
    「そうよ」
    彼女は、俺に微かに微笑んだ。
    「私には、それだけで一生、生きていけるような恋の思い出があるのよ」
       なんですと?
    俺は、話すかどうかを思い悩んだ。
   だが、俺は、彼女に話さずにはいられなかった。
   「彼も、あなたのことを忘れられなかった」
   「ええっ?」
    フローラさんが何か、問いかけるような瞳を俺に向けた。俺は、続けた。
   「俺は、一年ほど前にキナの国から帰ってきたんだ」
    「キナの国、ですって?」
    フローラさんが目を見開いた。
   「本当に?」
   「ああ」
    俺は、彼女を見つめて言った。
   「あの人は、彼の国の王となったよ」
    「そう、なの・・」
     フローラさんの瞳に涙が盛り上がってきた。
   「あなたは、彼に会ったのね?」
   フローラさんは、何も言わずに、ただ、泣いていた。俺は、彼女が泣き止むまでそっと彼女を抱き締めていた。
   どのぐらいの時を、彼女は、こうして泣いて過ごしたのか。
   それでも。
   いまだに、彼女の彼への愛は、つきはしなかったのだ。
   俺は、そっと優しく彼女を抱いて、その背を撫でた。
   俺は、俺が2人の恋の物語をきいて『人魚姫』を描きあげたときに2人の恋は、終わったのだと思っていた。
   だけど。
   この恋は、いまだ、終わってはいなかったのだということを俺は、知った。
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