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8 新しい街と新しい仲間

8ー11 クルトゥ神

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 8ー11 クルトゥ神

 まだもとの世界に戻るまでには少し時間があったので俺と黒江とミミアスは、街を見物することにした。
 クロイツェルの街からわざわざもってきた自転車に乗って街を走っていくと通行人たちが俺たちのことを珍しげに振り向いて眺めていた。
 このクルクスの街は、クロイツェルに比べると王都に近いだけあって都会だた。
 広いレンガで舗装された道路には馬車が行き交い、人々の往来も激しかった。
 俺は、たぶんこの街でも貸本屋はうまくいくだろうと予感していた。
 俺たちが自転車で街の中央にある大通りを下っていくと正面に大きな石造りの建物が見えてきた。
 この街の聖堂である。
 「このクルクスの街で信仰されている神は、クルトゥ神だ」
 ミミアスが説明してくれた。
 「クルトゥ神は、光を司る神だ。その名の通り、この街では、光の魔法が盛んだときいている」
 「光の魔法?」
 俺がきくとミミアスが答えた。
 「ようするに治癒魔法だな。それに伴う薬学なども発達しているときいている」
 「へぇー」
 俺は、気のない返事をした。
 どんな街かとかたいして俺には興味はなかった。
 「で?肝心のクルトゥさんは、どんな人なわけ?」
 俺は、自転車にまたがったまま聖堂を見据えてきいた。
 ミミアスがため息をつく。
 「クルトゥ姉様は」
 ミミアスがいいかけた時、遠くから俺たちの方へと向かってくる何かを俺は感知した。
 降り仰ぐと天から何かが降ってきた。
 それは、美しいストロベリーブロンドの少女だった。
 少女は、ミミアスに抱きつく。
 「ミミアス、無事だったのですね」
 「クルトゥ姉様」
 ミミアスは、クルトゥに押し倒されて歩道へと座り込んでいた。
 クルトゥは、人目も憚ることなくミミアスを抱き締めて頬擦りしていた。
 「あなたがこの世界から消えてしまったから、私は、生きた心地がしなかたのですよ、ミミアス」
 「それは、この者のせいです」
 ミミアスは、俺を指した。
 「今の私は、この者の奴隷ですから」
 「奴隷?」
 クルトゥが俺をゆっくりと振り返った。
 「神を隷属させているというのか?」
 離れていても十分に伝わってくるクルトゥの怒りを感じて俺は、焦っていた。
 これって、結構ヤバイんじゃね?
 
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