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20 罠に落ちた野良

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    「それで?結局、先輩は、彼のこと、どう思ってるんですか?」
     ファインダー越しに俺を見つめている生島に聞かれて、俺は、どきん、と心臓が跳ねるのを感じていた。頬が熱くなるのをごまかせない。生島は、シャッターを切りながら、言った。
   「答えて貰うまでもないですね。そんな風に、頬を上気させて。先輩は、その人のことを恋してるんですね」
   「それは・・」
    口ごもる俺を生島の視線が暴いていく。生島は、俺を白い壁の前に立たせて、両手を翼のように広げさせた。
   「もう、その彼に抱かれましたか?」
   「えっ?」
    俺は、生島に聞かれて、かぁっと頬だけでなく、上半身裸になっている胸の辺りまで赤く染めてしまった。胸の頂がきゅっと固くなるのが感じられて、俺は、恥ずかしくて手を下ろして隠そうとした。
   「動かないで!」
    俺は、生島の気迫に押されて動きを止めた。どんなことも見逃さない生島の視線が俺の肌を掠め、舐めるように見つめているのがわかった。俺は、顔を背け、吐息を漏らした。
       ここは、貸しスタジオで、俺と生島は、二人っきりで写真の撮影をしていた。
   今は、放課後で、俺は、学校の帰りに生島と待ち合わせて市内にあるこのスタジオで、奴の写真のモデルをしていた。
    生島から電話があったのは、クリスマス前のある日のことだった。
   なんでも、生島の学校の卒業製作のモデルをして欲しいとの事だった。
   俺は、悩んだが、受けることにした。
   以前にも、生島の作品のモデルをしたことがあったということ、モデル料がけっこういいので、それで、刈谷に何か、クリスマスプレゼントを送りたいと思いついたこともあった。
   それに、俺は、知りたかったのだ。
   今の俺を見て、生島が、どう思うのかを。
   刈谷に愛され、愛してしまった俺を見て、生島が、どう思うのかを俺は、知りたかった。
       俺は、刈谷家の人々には、内緒でモデルを引き受けることにした。
   刈谷家は、今、とても微妙な時期で、俺は、刈谷の心を乱したくはなかった。
   じいさんが死んで空白になった貴王堂グループの当主の座に座るのが誰かということで彼らは、揉めていた。
   じいさんの遺言によれば、貴王堂グループの当主は、刈谷を立て、その補佐を啓介始め、刈谷の兄弟たちがつとめていくということだったが、それが、うまくいってないらしい。
   どうやら、グループ内に刈谷が当主になることを反対している勢力があるようだった。
  啓介と悠人は、以外にもあっさりと刈谷のことを認めていた。
   どちらかというと、刈谷の方がいまいち乗り気でないみたいだった。
   というのは、刈谷は、一度は、貴王堂グループの当主の継承者の座を捨てていたからだった。
      それは、俺のためだった。
   俺に啓介たちが手出しをしないということと引き換えに、刈谷は、当主の座を二人に譲ったのだった。
   そのことは、刈谷の口から生前のじいさんに伝えられていた。
   だが。
  それでも、じいさんは、刈谷を跡目に指名したのだった。
   「俺は、末っ子だし、やっぱり、当主には、啓介兄さんがふさわしいんじゃ」
   刈谷は言ったが、他の兄弟たちは、みな、刈谷を当主にすることに同意していた。
   いわく。
   「じいさんの目は確かだし、誰も、駿には、かなわない」
    あっさりと丸く跡目問題は、解決するかのように思われたのだったが、これに待ったをかけた者がいた。
   刈谷四兄弟の父親である刈谷  修造その人だった。
   じいさんの生前には、徹底的に疎まれていた彼は、自分こそが貴王堂グループの時期当主になるべきだと主張した。
      そういうわけで、今、刈谷家を二分する争いが親子間で起きていた。
   刈谷たちは、連日、会議やら何やらで家を開けていて、俺は、しばらく佑と二人で過ごすことが多くなっていた。
   じいさんは、信子のことも刈谷を支える人材の内に数えていた。
   そのため、信子も、最近は、忙しく動き回っていた。
   佑は、刈谷や俺たちの通う学校の付属幼稚園に通うようになっていた。
   佑の問題は、貴王堂グループの主任弁護士である松村  司弁護士が西条組と話をつけていた。
   松村弁護士は、執事の松村さんの実の兄だった。
   二人は、影から貴王堂グループを支えていた。
   俺は、彼らが羨ましかった。
   俺も、刈谷の力になれたら。
   だが、俺には、彼らみたいには、刈谷の役には立てそうにはなかった。
       でも、俺にも、ちょっとした目標ができていた。
   俺は、そのために、必要なことを学ぶために懸命に努力していた。
   真面目に授業を受けていたし、勉強もするようになった。
   「雅人さんも、執事になられてはいかがですか?」
   というのは、松村さんの言だったが、それは、きっと、俺には、無理だと思った。
   俺にできることは、みんなが帰ってこれる暖かい場所を作って守ってることだけだった。
   そんなこんなで、俺は、生島のモデルをみんなに内緒ですることにした。
   生島とは、学校の帰りに会う約束をして、待ち合わせて奴の借りたスタジオに行った。
  そこで、俺は、生島のモデルを小一時間ほどつとめた。
   撮影の後で、生島は、俺に5千円のモデル料を渡してきた。
   俺は、今、刈谷家の家政夫をしていたので、金には困っていなかった。それに、生島は、大事な友達だ。
   だから、俺は、やっぱり、この金は、受け取らないことにした。
   刈谷へのクリスマスプレゼントは、小遣いを貯めて買うことにした。
       だが、生島は、なぜか、ムキになって俺の手に金を押し付けてきた。
   「受け取って。じゃないと、僕の気がすまない」
   仕方なく、俺は、それを受け取った。
   生島は、ほっとした表情になると、俺にペットボトルに入った水を差し出してきた。
   俺は、それを受けとると飲んだ。
   けど、今思えば、なんか変だった。
   生島は、俺が水を飲んでいるのを、妙に、じっと見つめていた。
   「なんだよ、じろじろ見て」
    俺は、言った。
   「照れるじゃないか。そんなに見られたら」
   「ああ、すみません」
    そのとき、生島は、俺に謝ったんだ。
   「ごめんなさい、先輩」
   「えっ?」
   泣きそうな顔をしている生島を見て、俺は、なんで、謝るのだろうか、と不思議に思っていた。
   あれ?
   俺は、不意に、欠伸をした。
   なんだか、すごく、眠い。
   「大丈夫ですか?」
    生島の心配そうな顔。
   俺は、うとうとしながら、言った。
   「大丈夫・・ちょっと、ねむ、い、だけ・・」
   そして。
   俺の意識は、途絶えた。
   
      「ぅん・・」
   俺は、ゆっくりと目を開いた。
   頭が痛い。
   俺は、呻いて、顔をしかめた。
  ここ、は?
  白い見覚えのない天井を見つめて、俺は、体を起こそうとした。が、俺は、身動きがとれなかった。
   あれ?
   俺は、自分の体がどうなっているのかを見ようとした。
   両手両足が、それぞれ枷で繋がれていた。
  しかも。
  俺は、裸だった。
  「ええっ?」
   俺は、素っ裸で拘束されていた。
  慌てて中心を隠そうと両足を閉じようとしたが、無駄だった。
   なん、で?
   俺は、どうしてこんなことになっているのかを思い出そうとしていた。
    確か、俺は、学校が終わってから、生島に頼まれた写真のモデルをするために一緒に貸しスタジオにいって。
    そして、撮影がすんで。
   その後、眠ってしまったのか?
   俺は、辺りを見回した。
   そこは、さっきの貸しスタジオの中のようだった。
   俺は、スタジオの中央に置かれた大きなベッドの上に拘束され寝かされていた。
   「気がついたのか?コグ」
    俺は、悪い予感に襲われていた。
   声のする方を見ると、そこには、西条の姿があった。
   「さ・・西条?」
       「久しぶりだな、コグ」
    西条は、酷薄そうな笑みを浮かべて俺の体を舐め回すように見つめていた。俺は、なんとか、両ひざをあわせて体をかくそうとしたが、開かれた体を隠すことはできなかった。その様子を見て、西条は、にやっと笑って言った。
   「ずいぶんと、刈谷の連中に可愛がられてたみたいじゃないか?コグ」
   「うるせ・・」
    俺は、奴を睨み付けた。
   「なんのつもりだ?こんなこと、して」
    「ああ?」
    西条は、手にしていたローションを俺の体に上から垂らしてきた。冷たい液体に、俺の体がびくん、と反応した。西条は、かまわず、俺の全身をローションで濡らすと、それを塗り込めていった。
   ぬるりとした感触に、全身が総毛立つ。
   西条にくまなく全身を撫で回されて、俺は、その感触に身を震わせていた。
      なんだ?
   体が、熱い・・
  「どうだ?特製のローションは」
   「あっ!」
    西条の手が俺の下半身へと伸びて、そこにローションを塗り始めた。じんじんとした疼きが俺の体を犯し始めていた。俺は、西条に敏感な部分を擦られ、呻いた。
   西条は、そのは虫類のような目で俺を冷たく見つめ、俺のものを擦りながら言った。
   「ほら、もう、こんなに固くして」
    蜜口をぐりぐりと弄られて、俺は、その快感に背をそらせ、歯を食いしばって堪えていた。
   「どんなに抗っても、体は、嘘をつかないな、コグ。ここは、ほら、もう、ヌメヌメしていきそういなってるぞ」
   「んぅっ・・」
    西条に先端に爪を立てられ、俺は、達してしまった。
   西条は、己の手を汚した俺の精を指にすくい取るとそれを俺の口許へと持ってきて、言った。
   「舐めろ」
   「い、やだ」
    西条は、有無を言わさずに俺の口中へと指を入れてきてた。俺は、奴の指先に思いっきり噛みついた。
   「っ!」
    奴が手をひいた。
   俺の口の中に奴の血の味が拡がった。俺は、顔を背けてぺっと唾を吐いた。
  西条は、血の流れる指先をぺろりっと舐めるとにやっと笑って言った。
   「安心したよ、コグ。刈谷の連中に可愛がられて、お前が骨抜きにされてるんじゃないかと心配してたんだが、お前は、何も、変わってない」
   西条は、俺の膝に手をかけ、足を大きく開かせると、その間に体を入れてきた。
   「獣みたいなお前を、この手で屈服させたいとずっと思っていた」
   「誰を、屈服させるって?」
    俺は言った。
   「お前なんかに、何をされても、俺は、お前のものなんかにはならないよ」
   「言ったな、コグ」
    西条は、ゾッとするような笑顔を浮かべて言った。
   「なら、試してみるか?」
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