異世界転生者は、花嫁の夢を見るか~僕が種付されそうです~

トモモト ヨシユキ

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11 引越しそばとお祝いのプレゼント

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  理事長と征一郎の休戦締結から1ヶ月が過ぎた頃、僕は、征一郎と一緒に暮らすために、新しい家に引っ越すことになった。
   僕らの新しい家は、学園都市外苑の、ゲートの近くにある古いマンションの一室で、2LDKのいわゆる新婚さん用とかいわれる部屋だった。築20年だったが、小綺麗で、広いキッチンもあるし、僕からしたら夢のような部屋だった。
   引っ越しといっても、征一郎は、先に、業者に頼んで引っ越しを済ませていたから、僕の荷物を寮から運ぶだけのことだった。僕の荷物は、ごく少なく、ほとんどは、本だった。ダンボール箱に、僕が荷物をいれているのを天音と奏が理事長が用意してくれた軽トラに積み込んでくれた。
   ダンボール箱に5~6個の荷物を軽トラに積んで寮をあとにするとき、僕は、ふと、寮を見上げて立ち止まった。
   第3学園の寮は、もともとは、学園都市で働く人たちの寮だった。それが古くなって、移転した後、空いた建物を生徒たちの寮に使用していた。だから、とても、味わいのある建物で、周囲は、緑の鮮やかな蔦に覆われていた。
         今は、夏休みだったから、僕が寮を出ていくのをたくさんの寮生たちが見送ってくれた。
  僕は、理事長の運転する軽トラに乗り込むと、15才で成人してから半分以上の時を過ごしてきたその場所を後にした。僕の引っ越しを手伝うことを強く希望した天音と奏を荷台に乗せて、僕たちは、新居へと向かった。理事長は、運転しながら、僕に、笑顔で言った。
   「このまま、私の家へ行ってもいいんだぞ、真弓くん」
  「はぁ」
   僕は、理事長の冗談とは思えない申し出に愛想笑いを浮かべていた。彼も、征一郎と同じで、すでに、パートナーと死に別れていた。きっと、一人で寂しいのに違いなかった。だが、僕は、言った。
  「遠慮しときます」
    「本当に?」
   理事長は、運転中にもかまわず、助手席の僕を真剣に見つめた。
  「あいつのことが嫌になったら、すぐに、連絡してくれ。5秒で迎えに行く」
   「前」
   僕は、慌てて言った。
  「前見て運転してください!理事長」
   新居へは、車で15分ぐらいで到着した。
  僕たちを笑顔で、だが、目が笑っていない征一郎が迎えてくれた。征一郎は、僕が軽トラから降りようとするのを抱き上げて下ろしてくれた。
   「ありがとう、征一郎」
   僕は、征一郎を見上げて言った。征一郎は、優しい眼差しで僕を見つめて微笑んだ。
      「ああ?」
    荷台から見ていた天音と奏が、面白くなさそうに言った。
   「何、早速、淫らな雰囲気漂わせてるんだよ、あんたたち」
   「どうせ、今日から、やり放題だとか考えてるんでしょ、この淫乱教師が」
   「二人とも、もう、帰っていいよ」
   僕が言うと、二人が抗議の声を上げた。僕と征一郎は、二人を無視して荷物を部屋へと運び始めた。ずしりと重い本と書かれた段ボール箱を持って僕がふらつくのを見て、理事長がすっと、僕の荷物を持ってくれた。
   「これは、私が運ぼう」
    「わ、悪いです。理事長に、こんなことまでさせたら」
   僕が言うと理事長が笑っていった。
  「何、君は、将来、私の子供を産む人じゃないか、こんなこと、当然だよ」
   「年寄りが無理してると、腰にくるぞ」
   天音が荷物を運びながら言うのをきいて、理事長の笑みが凍りついた。理事長は、ぼそっと呟いた。
   「重力変動、10倍」
   「うわっ!なんだ、これ!」
    荷物を持ったまま天音の足元が地面にめり込んでいった。理事長がダンボールを抱えて、天音の横を通るときににやっと笑った。
   「さすがに、若者は、違うな。重力10倍でも立っていられるなんて、なかなか、やるじゃないか。剣の王よ」
   「なにしてくれてる、早く、術を解け!このエロじじい!」
   「さらに、倍、だ」
   「ぐあぁっ!」
    天音が地面に潰れた蛙みたいに張り付くのを横目で冷たく見て、奏が、段ボールを腕に抱えて、僕にきいた。
   「これは、割れ物ですよね、真弓先生」
   「あ、ああ」
   頷いて、建物の中へと入っていく奏に、天音が叫んだ。
   「裏切り者めぇっ!」
   「自業自得でしょ」
   奏がぼそっと言った。
  「あんな、化け物に喧嘩を売るなんて、バカか」
      「くそぉっ!」
   地面の上から奏を睨み付けている天音に、僕は、歩み寄ると、その場にしゃがみこんでそっと触れた。
  「解放する」
    「おわっ!」
   天音の体がふっと軽くなり、勢いよく起き上がった。泥だらけになった天音の服をはらってやりながら、僕は、きいた。
  「大丈夫?天音くん」
   「すげぇ、術が解けてる。マジか」
   「ほら、遊んでないで、さっさと片付けよう」
   僕が天音の持っていた荷物を持ち上げて歩き出すのを見ていた天音は、立ち上がると僕に言った。
   「真弓先生の力、本当に、すごいな。女神の祝福、か」
   「僕には、よくわからないよ」
   僕は、荷物を持って歩いていった。僕の背中に向かって天音が呟くのが聞こえた。
   「絶対、俺のものにするからな、先生」
   僕は、きかない振りをして、笑った。
      荷物が片付くと、征一郎は、言い放った。
  「皆、ご苦労だったな。解散」
   一瞬、ぴりっとした沈黙が流れた。
 理事長、天音、奏が、征一郎と睨み合う。
  一触即発。
  「はい、皆さん」
   僕は、ニッコリと笑って、言った。
  「引っ越しそばを作りますよ」
   「引っ越しそば?」
   奏がきいた。
   「何です、それは。新しい技かなんかですか?」
   「技では、ありません。奏くん」
    僕は、エプロンを出して身に付けて言った。
   「食べ物です」
   「手伝うよ」
    ほぼ同時に全員が言ったので、僕は、一人で作ることにしてキッチンへと向かった。
   残された人々は、リビングのソファやら椅子やらに各々腰かけて、僕が調理するのを待っていた。
    嫌な感じの沈黙が流れている。
   僕は、そばをゆでながら、リビングの方を気にしていた。
   考えてみれば、このメンバーは、すごい。
  元魔王と、現魔王。
  そして、二人の剣の王。
  彼らが戦闘以外で一同に会することがあるなんて、誰が、想像することがあっただろうか。
   なぜ。
   女神セナは、こんな状況を作ったのか。
   僕は、茹でたそばを水で洗って、皿に盛っていった。
       「できたよ」
   僕が声をかけると、あきらかに、全員がホッと息をついた。
   僕がキッチンのテーブルにそばを盛った皿を並べるのを見て、奏がさっと近寄ってきて言った。
  「手伝うよ、真弓先生」
   「あ、ありがとう」
    ちっと舌打ちする音が複数聞こえたが、気にしない。そんなのいちいち気にしていたら、とても、身が持たない。
   僕たちは、キッチンのテーブルに置かれたそばを囲んで、其々の手につゆの入ったマグカップと箸を持って、輪になっていた。
   「これが、伝説の引っ越しそば」
   天音が、そばを食べながら言った。
  「なんて、ワイルドな儀式なんだ」
  「んなわけねぇだろ!」
    奏が言う。
   「ただ単に、ここが新婚さんを気取った連中の家で、狭いテーブルと、二脚しかない椅子や、揃ってない食器とかのせいでこんなことになってるだけだ」
   「こんな経済力のない男で、本当に、いいのか?真弓くん」
   理事長が言った。
  「私なら、50人くらいのそばパーティを自宅で開かせてあげれるよ。考え直さないか?」
     「50人も、知り合いがいませんから」
   僕は、笑って言った。
  「そば、もっと茹でましょううか?」
   「もう、いい」
   征一郎が言った。
   「さっさと黙って食って、とっとと消え失せろ」
   「なんだよ、小さい男だな」
    天音がそばを食べながら言った。
   「どうせ、もう、エロいことしか、考えてねぇんだろ?この変態が」
   「悪いか?ガキ」
   征一郎が、天音の言葉を肯定したので、僕は、赤面してしまった。征一郎は、きっぱりと言った。
   「ここは、新婚さんの家で、私たちは、今日が初夜だ。それ以外の何を考えることがあるんだ?」
   「わっ、ちょっと、ききました?理事長」
   天音が、理事長に言った。
  「こんなこと、言ってますよ。この変態教師が」
   「うむ」
    理事長が、頷いた。
   「これは、由々しき事態だな。聖職者とは、思えない発言だ」
   「だから」
    征一郎が叫んだ。
   「とっとと帰れ!」
       征一郎に追い出されて、彼らは、玄関から出ていった。出ていく間際に、振り向いた理事長がそっと僕に茶色の紙袋を渡して言った。
   「これ、引っ越しのお祝いだ。受け取ってくれ、真弓くん」
   「ありがとうございます、理事長」
   「とっとと出ていけ!」
    征一郎に言われて、全員が慌ただしく去っていった。
    二人っきりになった部屋の中は、なんだか、静かで、僕は、少し、緊張していた。
   今日から、二人きりで、暮らすんだ。
   征一郎と。
   パートナーとして。
   「真弓」
    征一郎が、僕の方を抱いて、僕を見つめて言った。
   「やっと、二人っきりになれたな。真弓」
   「征一郎」
    征一郎は、僕の持っている紙袋に目をやった。
   「何だ?それ」
    「うん。理事長が引っ越し祝いだって」
    僕は、紙袋を開いて中身を見た。
   中には、スキンと瓶入りの謎の薬が入っていた。僕は、中に入っていたカードを発見して取り出すと、読み上げた。
   「えっと、『くれぐれも、妊娠には、気を付けて』」
    「余計なお世話だ!あの、くそじじぃが!」
   荒れる征一郎を静めながら、僕は、薬を取り出してみた。
   「これ、何?排卵抑制剤?」
    「捨てろ」
    征一郎が紙袋を僕から取り上げて、ゴミ箱に放り込んだ。そして、僕をぐいっと抱き寄せて、囁いた。
   「真弓、愛している」
    「征一郎」
    僕たちは、キスをした。征一郎が言った。
   「ずっと、こうしたかった。もう、本当に、離さない。真弓」
   そのとき、玄関の呼び鈴が、鳴った。
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