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第7章 恋する騎士

7ー7 ライファの花

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 7ー7 ライファの花

 ほんとは、まだルシーは、工房に入って間がないから手伝いしかできないのだけれど、なんでも職人が一人急な病に倒れたとかで急遽、ルシーも魔法回路を造ることになったらしい。
 ルシーは、わたしに届けた連絡用の魔方陣で約束を守れなくてすまない、といっていた。
 だけど、これは、ルシーにとっては、すごいチャンスなのだ。
 レイナは、わたしの話をきいてふぅっとため息をついた。
 「やっぱり仕事となると厳しいのね」
 「そりゃそうだよ、レイナ」
 ライナスがレイナにいった。
 「職人にとっては、生活がかかっているんだからね」
 生活、か。
 わたしは、ちょっと遠い目をしてしまった。
 ルシーは、庶民の生活になれるためにここでの費用は、すべて工房の親方からもらった賃金で遣り繰りしていると言っていた。
 大国の王太子様が働いて稼いだお金でわたしにお菓子をごちそうしてくれたのだ。
 ほんとにおそれおおい。
 セツ様たちがきけば、どんなにか驚かれることだろう。
 わたしは、そっと胸元につけた飾りを握りしめていた。
 この花の形をした飾りは、連絡用魔方陣と共にわたしのもとへとルシーが届けてくれたものだった。
 『僕が造ったお守りの飾りだ。君を災いから守ってくれるだろう』
 そう、ルシーは、言った。
 なんでも毒やら薬やらによる状態異常を治癒する魔法が付与されているらしい。
 赤い小さな魔石が組み込まれたかわいらしいライファの花を象った飾り。
 それを胸につけているわたしを見てアギタスさんがにっこりと微笑んだ。
 「赤いライファの花をつけているのは、恋人がいるという表明ですね」
 マジですか?
 いやいやいや!
 たぶん、ルシーは、そんなこと考えてないとわたしは思う。
 だって、ルシーには、婚約者がいるし!
 確か、サリタニア王立魔法学園で同級生の侯爵家のお嬢様だった筈。
 わたしは、心の中で自分を忌ましめていた。
 ルシーは、身分を捨てて魔道具師になるといっているけれど、そんな簡単なことじゃない。
 ルシーの夢は、叶わないかもしれないのだ。
 わたしは、胸元の飾りを握りしめてため息を漏らした。
 わたしは、ルシーの夢が叶うことを願っている。
 だけど。
 メルロープ王国の将来が安泰であることも望んでいるのだ。
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