魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます

トモモト ヨシユキ

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3 生き物は、気安く拾っちゃいけません。

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   モーグの町を出ようとしている俺たちに町の門番が言った。
    「この先の街道で、最近、フェンリルが出てるからあんたらも気を付けな」
    「ありがとう」
    ヴィスコンティが礼を言って、魔導車を発進させた。
   イオルグがやる気満々で言った。
   「ちょっと旅費、稼いどこうぜ!」
    「そんな暇はありませんが」
     ヴィスコンティが応じた。
    「ああいう安宿に、もう魔王様を泊まらせるわけにはいかないのでしょうがないですね」
     そう。
    俺は、胸元をはだけてポリポリと掻きながら頷いた。
    昨夜は、酷かった。
   なんか、わけのわからないダニだかノミだかにやられて全身が痒くて仕方がない。
   朝起きてすぐにヴィスコンティがヒールをかけてくれたけど、なんか、まだ痒いような気がする。
     「魔王様が虫けらに噛まれるか、情けないな」
    イオルグが助手席から言った。
    「気が足りねえんだよ!気が」
     まったく、勝手なことを言いやがって。
    俺は、ムッとしていた。
   普通の人間である俺には、気で虫を追い払うなんて芸当はできねぇよ。
    「しかし、異世界から来たなら、なんらかのギフトを持っていそうだけどな」
    イオルグが助手席から俺を振り向いた。
    「ビザークの奴、何かわかってるんだろうけど、あいつ、ケチだから、何も教えてくれねぇんだよな」
    「次の町には、ギルドの支部がありますから、ついでによって冒険者登録してみましょうか」
    ヴィスコンティが言うと、イオルグが応じた。
   「そうだな。フェンリルの毛皮とかも売らなきゃいけないしな」
    「そういうの」
    俺は、言いかけて止めた。すると、イオルグが言った。
   「なんだよ、言えよ!」
    「いや、その」
    「言え!言わなきゃ殺す!」
      「うぅ・・とらぬ狸の皮算用って言うんじゃ・・って思っただけだよ」
   俺が言うと、ヴィスコンティが笑った。
   「確かにね」
その時、前方に馬車が転倒しているのが目に入った。
        「なんだ?」
    ヴィスコンティが車を停めた。
  辺りには、血の臭いが立ち込め、俺は、気分が悪くなった。
    あれ?
    俺は、何か、聞こえるような気がして、はっと顔をあげた。
    泣き声?
   「ちょっと待っててください」
    ヴィスコンティが車から降りて馬車へと近付いていって中を覗き込んでいるのを見て、イオルグが不満げに言った。
    「あいつは、物好きだからな。ほっとけばいいのに」
    しばらくしてヴィスコンティが赤ん坊を抱いて戻ってきた。
   「どうやらフェンリルに襲われたようですね。その時、母親が産気づいたんでしょう。産まれたはいいものの、他に生き残りもいないようですし」
     「えっ?お母さんも?」
     俺がきくとヴィスコンティが頷いた。
    「母親も事切れていました」
    「どうするんだよ、そんなお荷物拾って。もとのとこに戻してこいよ、ヴィス」
    イオルグに言われて、ヴィスコンティは、自分の着ていた上着で包み込んだ赤ん坊を俺に渡しながら言った。
    「そういわけには、いきません。この子にも生きる権利はあるので」
    俺は、腕の中で泣いている赤ん坊をなんとかあやそうとした。イオルグがそんな俺を見て、言った。
   「無理だって。そいつは、腹が減ってるんだよ」
  腹が。
   俺は、思った。
   ミルクが入った瓶。
   哺乳瓶、か?
   たしか、前に猫の子を育てた時に、使ったよな。
   ああいうのがあれば。
   俺が考えたとき、空間から急に、パッとミルクの入った哺乳瓶が現れた。
    マジで?
    俺は、それをそっと赤ん坊の口に含ませた。
   ンクッンクッと元気よく赤ん坊は、ミルクを飲み干すと、げふっとゲップをした。
      「・・すげえな、お前」
    「はい?」
    「本当に」
    ヴィスコンティとイオルグが俺の方を目を丸くして凝視していた。俺は、赤ん坊を抱いたまま、2人にじっと見つめられて、困っていた。
    イオルグが感嘆したように言った。
   「何?創造の能力かなんか、か?」
     「わからないよ」
     俺は、答えた。
   「ただ、こういうのがあればいいなって思ったら出てきたんだ」
    「なるほど」
     ヴィスコンティが少し考えていたが、すぐに、車を出そうとした。
     その時のことだった。
     獣の臭いが辺りに漂い、低い唸り声がきこえた。
    「フェンリルだ!」
     イオルグが叫んだ。ヴィスコンティが外に出ながら俺に言った。
    「ハジメは、ここにいて」
    俺は、ぎゅっと赤ん坊を抱いて車の中に身を潜めて、外を窺っていた。
   銀色の毛並みの美しい、巨大な狼が魔導車の行く手に立ちふさがっていた。
    「できるだけ傷つけるなよ、ヴィス」
    「わかってます」
     ヴィスコンティが答えると、何もない筈の空間から大きな一振りの剣を取り出した。そして、飛びかかってくるフェンリルのことをなぎ払った。
    身を捩ってかわしたフェンリルが地響きするような咆哮を放ったかと思うと、再び、ヴィスコンティに飛びかかった。
    今度は、ヴィスコンティの剣がフェンリルを捕らえた。
   勝敗は、一瞬で決まった。
   「やったな!今夜の宿代だ!」
    イオルグは、嬉々としてフェンリルを解体していった。
   そして、解体したものをヴィスコンティがストレージへと収納していった。
   「すごい便利だな、それ」
    俺が感心して言うと、ヴィスコンティは、にっこり笑って言った。
    「何でも収納できますよ。赤ん坊もね」
   「いや。この子は、いいよ」
   俺は、慌てて言った。
      遠くで何か、物音が聞こえたような気がして俺は、車から降りた。
   赤ん坊の泣く声のような、小さな声。
   「どうしたんだ?ハジメ」
    「こっちから何かの声がきこえて」
    「街道を逸れてはいけない。危険ですよ」
    「でも」
    俺は、街道脇の林の中へとわけいった。
   茂みの中に、子犬がいた。
   よたよたと歩いていくるその子犬は、美しい銀色の毛並みをしていた。
   「あー、フェンリルの子だな」
     俺の隣から顔を出したイオルグが言った。
   「どうせ、このままだと死んじまうし、殺しとくか」
   「待って!」
    俺は、イオルグを止めた。イオルグは、俺を睨み付けた。
   「なんだよ?お前もヴィスコンティみたいなタイプかよ」
   俺は、その場にしゃがみこむとフェンリルの子に手を伸ばした。
   「おいで」
   「きゅう」
     子フェンリルは、俺の方へと近付いてくると俺の手をペロッと舐めた。
  かわいいな。
  俺は、こいつを殺したくはなかった。
   どうすればいいんだ?
   そう思ったときに、誰かが頭の中で囁いた。
   テイムしてみては、いかがですか?
   テイム?
  「テイム」
   俺は、小声で呟いた。
  すると、俺の指先から白い光の紐のようなものが伸びて、子フェンリルの首もとへと巻き付いた。
   「きゃん、きゃん」
    子フェンリルが喜ぶように鳴いた。
   子フェンリルの首に巻き付いた光は、黒い首輪になってそこに留まっていた。
    イオルグが驚いたように言った。
     「お前、テイマーなのか?」
   「えっ?」
       とにかく。
  俺は、子フェンリルを連れて行くことにした。
   どうやら、この子は、俺の使い魔になったらしい。
   「赤ん坊に、子フェンリルかぁ」
    イオルグが呆れたように言った。
   「本当に、物好きだなぁ」
    俺たちは、その日の夕方には、次の町であるルルシュの町へと着いた。
   そこの冒険者ギルドに直行するとヴィスコンティとイオルグと俺は、事情を話して赤ん坊をギルド職員に託し、フェンリルの毛皮やら牙やらを売った。
    そして、俺は、冒険者登録をすることになった。
   「では、この水晶の上に手を置いてください」
   ギルドの受け付けのお姉さんに言われて、俺は、水晶の上に手を置いた。
   チリチリという感覚があって、俺のステイタスが開いた。
   それを見て、お姉さんは、顔色を変えて言った。
    「ちょっと、お待ちくださいね」
    奥へと走っていくお姉さんを見て、ヴィスコンティが俺の腕を引いて、駆け出した。
    「えっ?」
    俺たちは、ギルド支部から走り出ると、魔導車に飛び乗り、すぐに出発した。
   イオルグも、ヴィスコンティもしばらく無言だった。
   俺たちは、そのまま、急いで町を出ていった。
   「あの・・俺のステイタスって」
    俺は、ヴィスコンティたちにきいた。
   「いろいろ書いてあったけど、あの・・聖女って、何?」
    「わかんねぇよ!んなもん!」
     イオルグが喚いた。
    「なんで、そんな奴が魔王様の体に入ってんだよ!」
    「っていうか、ハジメ、君、男の子だよね?」
   ヴィスコンティにきかれて、俺は、頷いた。
   二人が同時にきいた。
  「なんで、男が、聖女なわけ?」
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