ゲームメイカー

トモモト ヨシユキ

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      新たな年のラダンの月がきた。
     人々は、森の外から小さな箱を運んでくる。
     神は、箱をしぶしぶ開けた。
    中から、一人の少女が出てきた。
   茶色い髪の、緑の瞳の、可愛らしい少女だった。
    神は、言った。
   「好きなように暮らせ、ただ、私の邪魔はするな。それから」
   神は、悲しげな目で、少女を見た。
   「森には、行くな」
    そして、神は、神殿の中へと立ち去った。
   取り残された少女は、呆然としていたが、やがて、自分で箱から出てきた。
   「あなたは、誰?」
   少女は、僕を見つめて言った。
   僕は、答えた。
   「君の前に来た生贄、だ」
    「何で、肉体を持たないの?」
    少女は、はっとした。
     「まさか、死んじゃったの?」
     「そうだ」
     僕は、頷いた。
    「そして、僕の前の生贄も、その前の生贄も、みんな、死んだんだ」
     「何で?」
      「知らない」
      僕は、言った。
      「僕にも、理由は、わからない。ただ、僕たちは、神の元に来て一年もつことなく、死んでいくんだ」
     「そうなんだ」
     少女は、溜息をついたが、騒ぐこともなかった。
    僕には、少女の気持ちが伝わってきた。
   少女は、神に対して何も期待していなかった。
   だが、一年以内に自分が死ぬと知って、少し、ショックを受けていた。
     「ねぇ」
     少女は、僕にきいた。
     「死は、苦しかった?何故、あなたは、大いなる宇宙の魂へと帰らなかったの?」
     「死は、別に、苦しくはなかった」
     僕は、僕の死の時を思い出していた。
     自分の命が途絶えることよりも、僕は、神を一人にすることの方が悲しかった。
    ただ、ひたすらに、悲しかった。
   少女は、僕の魂に触れた。
   涙を流しているのは、僕だったのか。
   それとも、彼女?
   ひとしきり涙を流した後で、少女は、言った。
    「愛」
    僕は、頷いた。
   少女は、知ったのだ。
   神の愛、を。
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