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夜会へ招待されました

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 帰り際、フィーザは眼鏡を外してミーヤに告げた。

「世話になった。今回のこと、改めて御礼をしたい」
 

 その赤い目はザクロを偲ばせ、黒髪は艶やかに風にたなびく。
 綺麗な顔をしている男性だと、ミーヤはしみじみと思う。

 寒がりだけど……。
 雪原で遭難しかけたけど……。

 本来は魔導士団副団長で、強力な氷結魔法の使い手。

 女性に、もてるだろうなあ。
 ともかくもミーヤの目の保養になった。

 ミーヤは、フィーザと馬が小さくなるまで見送った。



 数日後。
 王都。


 フィーザは魔獣討伐報告の為、王都の魔導士団公舎に出向いた。
 団長のライルはフィーザの報告を、ニヤニヤしながら聞いている。

「で、雪に埋もれたお前を、令嬢が助けてくれた、っと」
「はあ、ええ、まあ」
「そして一晩二人で、一緒に過ごした、っと」
「ヘンな言い方しないでください!」

 団長は魔術師学校でフィーザの先輩に当たる。
 面倒見は良いが、如何せん下世話なネタが好きだ。

「いやいや。女を寄せ付けない『氷結のイタチ』が、雪山で遭難して女性に看護されたってだけでもニュースだな」

「クロテンです、イタチじゃなくて」

「どっちも変わらんな。で、美人だったのか? 確かゴーシェ家の令嬢って、コレモンのコレモンだったよな」

 ライルは自分の胸の前で、何かを掴むように掌を動かす。

「いや、コレモンの令嬢は養女の方でしょ。ご令嬢のミーヤ嬢は……か、可愛い感じで、料理もなんでも出来る、す、ステキな女性でした」

「そかそか。うんうん。じゃあ御礼をしないとな」
「ええ、俺もそう思ってますが、御礼って何をすれば良いんでしょう?」

 ライルは白い歯を見せて親指をビシッと立てる。
 フィーザには意味不明なジェスチャーだ。

「ドレスと宝石を贈り、王宮のパーティに招待しろ!」
「え、王宮のパーティって、王族じゃないと招待状出せないでしょ」

「そこは任せろ。王国魔導士団団長、舐めんな!」

 別に舐めていないものの(面倒くさいとは思っている)、いきなり伯爵家の令嬢を、王宮パーティなどに誘っていいのか分からないフィーザであった。

「ああ、ダイジョブ大丈夫!」

 ライル団長は鼻歌まじりに、なにかの書類を書いていた。


 少しばかり気になって、フィーザはミーヤの兄、ルシアンに会った。
 ルシアンは王都の騎士団所属で、魔導士団と顔合わせをする機会も多い。

 まだ新人ではあるが、剣技は優れていると評判のルシアンだ。彼の顔と名前は既知であったが、話をするのは初めてだ。なんとなく雰囲気が、ミーヤに似ている。

「そうですか。妹は別邸で一人暮らしをしているのですね。最近は父と連絡を取ることもなく、全く知りませんでした」

「知らなかったのか?」
「あまり、父の後妻である義母や、義妹と会いたくないもので、つい……」

 ゴーシェ家当主は後妻を貰ってから、領地からの税収が低下し、商会の仕事も手放したそうだ。堅実な伯爵家だったはずだが、現在の内情は火の車。
 後妻とその娘の浪費が、年々高額になっている。

 ルシアンは騎士として身を立てるつもりで家を出た。
 妹のミーヤが婿を取り、跡を継いでくれればと思っていた。
 ミーヤが婚約破棄されて、義妹のロアナがその相手と婚約し直したと聞き、些か心配しているところだった。

「ミーヤは元気でしたか?」
「ああ、ウサギや山羊や鶏と楽しそうに暮らしているぞ」

 ほっとした表情のルシアンに、フィーザも安心した。

「俺も、遠征する時には様子を見に行くよ。何かあったら、ルシアン、君にも伝えよう」
「あ、ありがとうございます! わたしはまだ新人ゆえ、自由に動くのは難しいので、よろしくお願いいたします」

 さっと敬礼するルシアンに、ミーヤの面影を見たフィーザは慈愛の視線を投げる。

 だって、ひょっとしたら……。

 ぎ、義理の、あ、兄……。
 義兄になる人かもしれないし。

 なんて思って、顔が真っ赤になる氷結のクロテンだった。


 年越しが近くなる頃、王都では王家主催のパーティが開かれる。
 高位貴族は基本全員、それ以外は特別に功績があった者が招待されるものである。

 ミーヤの住む別邸にも招待状が届いたので、彼女は驚いた。
 別邸の住所まで、王家には登録されているのかと。
 ここ数年、ゴーシェ伯爵家に届いた招待状は、後妻とロアナが奪い取っていたのだ。

 デビュタントだけは、なんとか出席したものの、以後は公式のパーティに参加していない。

「どうしましょう。招待は嬉しいけれど、パーティ用のドレスがないわ」

 それに、王都のパーティに出席したら、前後一週間くらいは留守になる。
 その間、ウサギたちの世話をどうすれば良いのだろう。

「やっぱり、お断りしないと。どうせゴーシェ家からは父も義母も出席するだろうから、失礼には当たらないわ」

 ミーヤが招待状を手にぼんやり考えていると、膝の上に乗ってきたピンク色のウサギが、イヤイヤをするように頭を振る。
 なぜか他のウサギたちも、ミーヤの足元を前足で掘っている。

「あらあら、みんなどうしたのかしら? 何か言いたいことがあるのかなあ……」

「その通りじゃ」

 ポンと軽い音がして、空中にウサギ大神のレミッシュが現れた。

「あ、出た!」
「失敬な! わしを物の怪みたいに言うな」
「すみません」

 レミッシュはコホンと咳払いをする。

「このウサギたちは、お前がパーティに行くことを望んでおるんじゃ」

「ええ? そうなの?」

 七匹のウサギは全員、コクコクと首を縦に振る。

「でも、ドレスないし……」

 などとミーヤが俯いていたら、ドアがノックされた。

「お届けものです」

 送り主はフィーザ・パドロス。
 ミーヤの胸がコトンとなる。

「開けてみるがよい」

 レミッシュの言う通り箱を開けると、見事なドレスと宝飾品が入っている。
 同封されたカードには、「一緒にパーティに行きましょう」と書いてあった。

「ほれほれ。これで行けるじゃろ?」

「でもでも、この子たちのお世話が……」

 デモデモダッテ現象に取りつかれたミーヤである。
 それくらい、ミーヤには縁のないイベントなのだ。

「だから、わしが来たんじゃ」
「はい?」

「わしが面倒みちゃる」
「ふぇ?」

 ミーヤは思わずヘンな声を出した。

「わしゃあ神様じゃけん。不可能はないのじゃ」
「はあ……(この神様、どこの国の御方かしら?)」

 結局後顧の憂いなく、ミーヤはパーティに出席できることになった。
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