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糸との格闘
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ヨナの手ほどきで、私は組み紐を始めた。
「刺繍用の糸だと、少々細いですから、まずは紐を作りましょう」
ヨナはどこからか、古い厚紙と同じ長さの小枝を揃えて来た。
厚紙は円筒の形にして、その周りに小枝を貼り付ける。
「お嬢様の好きな糸を、二色選んでくださいね」
円筒に貼り付けた小枝に糸を掛けていく。
少しずつ、ほんの少しずつ、円筒の内側には、二色の糸が紐のようになって生まれていく。
なんだか、楽しい。
指先を動かし、互い違いに糸を掛けていると、あっという間に時間がたつ。
「お嬢様。素敵な紐が出来ていますよ」
ヨナの誉め言葉で、一層やる気が出る。
「ヨナ。こういうこと、何処で覚えたの?」
「私の育った場所では、皆小さい頃からやってます。組み紐は元々、私の祖国よりも東にある国で、大昔から作られていたようです」
数日後、私の腕の長さ程の紐が数本出来上がった。
「上出来です。でもお嬢様。これからが本番ですよ」
ヨナは一本の紐を手に取ると、曲げたり、そこに紐を通したりしながら、三つの輪の形を作った。
凄い。
魔術かしら?
「何を言っているんですか。コツが分かれば誰にでも出来ますよ」
それから、私の紐との格闘が始まった。
私はきっと、ヨナほどの器用さがない。
何度も見本を見せてもらって、何度も同じ様にやってみた。
ヘンなところに結び目が出来たり、ようやく輪が出来ても、形が不揃いだったりする。
昼間は学園に通い、夜は遅くまでヨナの指導を受ける。
そうして七日間たった。
「で、出来たあ!」
ようやく、三つの輪が均等になる。
「スゴイスゴイ! 良く出来ましたね、お嬢様!」
「ヨナのおかげよ! ありがとう」
これで、友人たちにも教えることが出来る。
自分の手で何かを作っていくのって、こんなに楽しいことなんだ。
もっと、上手く出来るようになりたいな。
「これは組み紐の基本的な結び方なんですが、これが出来ると、次はもっと華やかなものが作れるようになりますよ」
「そうなの? 私、頑張ってみるね」
練習用の紐をカバンに入れて、私は翌日足取り軽く学園に向かった。
晴れた空の下、心も軽い。
軽い、はずだった。
校門に立つ、マークスを見るまで……。
「オイ」
ギロッとこちらを見るマークスに、私は息を止める。
そして大きく息を吐くと、挨拶をする。
「おはようございます、マークス様」
マークスはいきなり、私の腕を取る。
「ちょっと来い!」
「やめて下さい!」
私は腕を払う。
「なんで……」
マークスのショックを受けている様な表情に、私も驚いてしまう。
「なんで俺と一緒じゃない! 一緒じゃないのに、なんでお前は楽しそうなんだ!」
意味が分からない。
いつも不機嫌だった相手と一緒にいて、楽しいわけないだろう。
一緒じゃないから、楽しいのに。
「お、俺を、愛していないのか!」
「私たちの婚約は、貴族の義務のようなものでしょう?」
「え……」
呆然とするマークスに、私も呆れてしまう。
「シュリー嬢。もう鐘がなるよ、急ごう」
後ろから来ていたらしいダニエルが、私の肩を叩く。
「え、ええ。ありがとう」
私は簡単に礼をして、マークスを置き去りにした。
何か間違ったことを、私は言ってしまったのだろうか。
「いいえ、シュリー様は、至極真っ当なことしか言っていませんわ」
「そうそう。気にしなくて良いと思うわ」
昼休みに、ライラとミオンには朝の出来事を話した。
二人の言葉に、私はほっとした。
良かった。
「そうそう、話は変わって、組み紐の作り方、少し出来るようになりました」
私が言うと、ライラとミオンの顔が明るくなる。
「スゴイです、シュリー様」
「私も家で挑戦したけど、なかなか上手くいかなかったよ」
放課後、私は二人に、三つの輪の作り方を教えることにした。
二人は私より手先が器用なので、何回か練習すると、すぐに出来るようになる。
「「また、教えて下さいね」」
「ええ、私が覚えたら」
朝の不愉快な出来事を、私はすっかり忘れていた。
だが、邸に戻ると否応なしに、不機嫌な人たちに囲まれてしまう。
それは婚約者(一応)のマークスと、母だった。
「刺繍用の糸だと、少々細いですから、まずは紐を作りましょう」
ヨナはどこからか、古い厚紙と同じ長さの小枝を揃えて来た。
厚紙は円筒の形にして、その周りに小枝を貼り付ける。
「お嬢様の好きな糸を、二色選んでくださいね」
円筒に貼り付けた小枝に糸を掛けていく。
少しずつ、ほんの少しずつ、円筒の内側には、二色の糸が紐のようになって生まれていく。
なんだか、楽しい。
指先を動かし、互い違いに糸を掛けていると、あっという間に時間がたつ。
「お嬢様。素敵な紐が出来ていますよ」
ヨナの誉め言葉で、一層やる気が出る。
「ヨナ。こういうこと、何処で覚えたの?」
「私の育った場所では、皆小さい頃からやってます。組み紐は元々、私の祖国よりも東にある国で、大昔から作られていたようです」
数日後、私の腕の長さ程の紐が数本出来上がった。
「上出来です。でもお嬢様。これからが本番ですよ」
ヨナは一本の紐を手に取ると、曲げたり、そこに紐を通したりしながら、三つの輪の形を作った。
凄い。
魔術かしら?
「何を言っているんですか。コツが分かれば誰にでも出来ますよ」
それから、私の紐との格闘が始まった。
私はきっと、ヨナほどの器用さがない。
何度も見本を見せてもらって、何度も同じ様にやってみた。
ヘンなところに結び目が出来たり、ようやく輪が出来ても、形が不揃いだったりする。
昼間は学園に通い、夜は遅くまでヨナの指導を受ける。
そうして七日間たった。
「で、出来たあ!」
ようやく、三つの輪が均等になる。
「スゴイスゴイ! 良く出来ましたね、お嬢様!」
「ヨナのおかげよ! ありがとう」
これで、友人たちにも教えることが出来る。
自分の手で何かを作っていくのって、こんなに楽しいことなんだ。
もっと、上手く出来るようになりたいな。
「これは組み紐の基本的な結び方なんですが、これが出来ると、次はもっと華やかなものが作れるようになりますよ」
「そうなの? 私、頑張ってみるね」
練習用の紐をカバンに入れて、私は翌日足取り軽く学園に向かった。
晴れた空の下、心も軽い。
軽い、はずだった。
校門に立つ、マークスを見るまで……。
「オイ」
ギロッとこちらを見るマークスに、私は息を止める。
そして大きく息を吐くと、挨拶をする。
「おはようございます、マークス様」
マークスはいきなり、私の腕を取る。
「ちょっと来い!」
「やめて下さい!」
私は腕を払う。
「なんで……」
マークスのショックを受けている様な表情に、私も驚いてしまう。
「なんで俺と一緒じゃない! 一緒じゃないのに、なんでお前は楽しそうなんだ!」
意味が分からない。
いつも不機嫌だった相手と一緒にいて、楽しいわけないだろう。
一緒じゃないから、楽しいのに。
「お、俺を、愛していないのか!」
「私たちの婚約は、貴族の義務のようなものでしょう?」
「え……」
呆然とするマークスに、私も呆れてしまう。
「シュリー嬢。もう鐘がなるよ、急ごう」
後ろから来ていたらしいダニエルが、私の肩を叩く。
「え、ええ。ありがとう」
私は簡単に礼をして、マークスを置き去りにした。
何か間違ったことを、私は言ってしまったのだろうか。
「いいえ、シュリー様は、至極真っ当なことしか言っていませんわ」
「そうそう。気にしなくて良いと思うわ」
昼休みに、ライラとミオンには朝の出来事を話した。
二人の言葉に、私はほっとした。
良かった。
「そうそう、話は変わって、組み紐の作り方、少し出来るようになりました」
私が言うと、ライラとミオンの顔が明るくなる。
「スゴイです、シュリー様」
「私も家で挑戦したけど、なかなか上手くいかなかったよ」
放課後、私は二人に、三つの輪の作り方を教えることにした。
二人は私より手先が器用なので、何回か練習すると、すぐに出来るようになる。
「「また、教えて下さいね」」
「ええ、私が覚えたら」
朝の不愉快な出来事を、私はすっかり忘れていた。
だが、邸に戻ると否応なしに、不機嫌な人たちに囲まれてしまう。
それは婚約者(一応)のマークスと、母だった。
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