implicate man(インプリケイト マン)

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お嬢様は出ません。& ヒトシの冒険

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 2階の事務所に向かうと、社長がノートパソコンに向かい、両手の人差し指で必死になって何かを入力していた。今までこのノートパソコンが使われているのかどうか全く知らなかった為、動いている所に遭遇できたことは好機と言えよう。あと二つほど従業員用の机があるのだが、机の上には何も無く、ブックエンドさえ置いておらず、誰かが使っている様には思えたのだが、常時利用しているようには思えない机だった。

 およそ今社長が使っているノートパソコンがこのビルか、この会社に唯一あるパソコンかも知れない。昭和の仕事をしない探偵事務所かって思いたくなるくらいに何も無いこのビルなので、持ち出せる情報を仕入れる場合はこのノートパソコン以外あり得ないだろうとも思えた。

 そのため、前からずっとチャンスをうかがっていたのだが、今は社長が使っている事が確認でき、最新の情報があると言うこともわかっている。そして、運の良いことに、他の従業員も今はこの部屋には居ない。朝ばたついていた為にどこかに出かけたのだろうと思う。

 正直2階と6階しか知らないため、他の階に誰かが捕まっている可能性も否定できないし、その誰かを今さらって来ているのかも知れないことを考えると、その人に同情するが、もし俺達が上手く逃げ出し、正しい情報を流すことが出来た場合、その人の生存確率が跳ね上がるのだから少し我慢してほしい。

「おう、都築か」

 必死になって入力している社長の金本が俺に気づいて声をかけてくる。他の先輩社員達に比べて口調が柔らかいため、驚くことは無いが、これから反逆することが心にあるので、少し動揺してしまう。

「はい」

 とりあえず、短い受け答えだけにしてなんとかそれを表に出さないように努める。
 社長は集中しているためか、俺の動揺には気づかず、続けてゆっくりと入力し続けていた。
 俺はソファーに座り、社長が入力し終わるのを待つ。6階を監視しなくて良いのかと言われそうなのだが、彼女が暴れる事が無いため、彼らもその点に関しては寛容である。ひょっとしたらこの地域が予測通りにいくつもの彼らの国の店が協力して監禁させているとすれば、この緩い管理というのもわからなくも無い。

 もしそうであれば、俺達はより逃げ出すことが難しくなっていくのだが、脱出経路はすでに見つけてある。後は、朝に逃げ出す理由だが、すべての社員がこのビルに泊まり込みをしているわけでは無く、近隣のマンション住まいの者も居るのだ。
 そして、他の国のお店は8時を回らないと開かない傾向にある。深夜の時間はその国の人達が結構うろうろしている為、夜うろうろしている人達が減る時間と、一般の会社員が増え始める時間、さらにはお店が開店してない時間を考えて7時過ぎ辺りに決行することを決めていた。
 明日朝まで時間があるとは言え、今のこのチャンスは逃すことが出来ない。そのため、じっと社長が作業を終わるのを待った。



 約1時間後、社長が大きくのびをして椅子から立つ。

「うあー……疲れた……」

 キー入力のテンポはすごく悪く、10文字に1分くらいかかっている人であるため、よりその疲労は大きいのだろう。何の文章を書いていたのかわからないが、すごく集中していたことだけは間違いなかった。

「ダメだ。少し寝る。都築、ちょっと見張ってろ」

「はい」

 こんなにもタイミング良くパソコンを見るタイミングが来て良いのだろうかと不安になる。
 小説や映画などでは普通のチャンスでしか無い。しかし、主人公だと思えないこの自分がそのようなチャンスを有効活用できるのか、コレが逆フラグで無いとも言えないため、一瞬ためらってしまうが、これ以上の好機は無いと思える為、意を決して椅子に座る。
 少しきしむ音が聞こえ、慌てて金本の様子を確認するが、特に気づいた様子は無く、眠っているようだった。
 このパソコンのOSのロゴが移動するスクリーンセーバーが動いており、マウスの操作と共にそれがキャンセルされる。すると、画面一杯に文字データが見ることが出来た。

「郵便マーク……これって……」

 少し上下にスクロールすると、名前、郵便番号、住所、電話番号などが表計算ソフトでまとめられていた。そして、その中に俺の名前も発見することが出来た。
 そう、これは社員の個人情報だった。
 そして、下のタブに目を向けると、内、先と別れていた。この内の方に俺の名前があり、先のタブをクリックして中を見ていくと、俺の両親の名前と住所が見つかった。
 多分予測でしか無いが、このタブはいつでも脅せるようにと言う物なのかも知れない。このまま彼女と逃げても大丈夫なのだろうかと不安がよぎるが、このまま残る方がより危ないと思え、急いでUSBメモリにこのファイルをコピーすることにした。

 しかし、このノートパソコンは相当古い物であるらしく、操作をする度にハードディスクの音がガリガリ聞こえる。この音で金本が起きてしまわないか不安になるほどに。そして、OSもサポート期限が切れてしまった物であり、より不安を感じる。だが、すぐに気づいたのだが、LANケーブルや無線LAN等のような物は見当たらなかった。つまり、このノートパソコンは完全にスタンドアローンであり、この情報が流出することは、今の俺のように物理的に接触する必要があると言うことだ。

 このノートパソコンをどのように管理していたかははっきりと覚えてないが、毎日金庫などにしまっていたりすれば、プライバシーマークなどの個人情報保護観点から考えて、悪くは無いと言えた。

 USBメモリを挿し、すぐにコピーするために行動に出たのだが、古いパソコンであるため、USBメモリの認識に時間がかかってしまっている。そして、新しい接続先としてインストール作業が始まり、進行状況を表す数字が100%になるまでのんびりと進んでいく。

 父親に聞いた話を思い出し、このような時の並行作業は今は手を止めている。父の言葉は、古いパソコンでいくつも複数の処理をいっぺんにさせると、すべてが止まるぞ。と言うことだった。この焦っている状況で良くその言葉を思い出せたと自分に褒めてやりたいが、最終的にコピー出来なければ意味が無い為、焦りつつもUSBメモリのインストール作業が終えるのを待つ。

 97%辺りでピタッと止まるが、ハードディスク自体はガリガリと音を鳴らして動いているため、処理は進んでいるのだろう。だが、あと少しでと言う所で止まっているのはとても心に悪い。
 突然、インストール進行画面が消え、表計算ソフトが前面に出てくる。処理は終わったのか?! と思うが、まだハードディスクはガリガリ鳴っている。まだいじってはいけない。USBメモリのフォルダが自然と表示されるまで待たなくてはならない。焦る気持ちを押さえ、なんとか待ち続けると、なんとかインストール処理が終わり、USBメモリのフォルダが表示された。

 とりあえず一息つくが、もう一つの問題。このファイルが何処に保存してあるかだ。
 デスクトップを表示させてみたのだが、古いおじさんにありがちなデスクトップいっぱいにアイコンがあると言うことは無く、幾つかのソフトのショートカットとマイコンピュータ、ゴミ箱以外何も無かった。
 どうやって調べるべきかと頭を一瞬悩ませたが、表計算ソフトを今さっきいじっていたばかりな為、新たにそれを上書き保存すれば、ファイル検索した時、時刻でソートすれば最上位にこのファイルが来るはずだと言うことに気づき、急いで保存し、ファイル検索をかける。

 またもやハードディスクがガリガリと音を立てて回り始めるが、今まで一回もファイル検索をしたことが無かったのか、うなるだけで殆どファイルが表示されてこない。表計算ソフトのファイルだけを検出するように指示したのも悪かったのだろうが、多くのファイルが検出された中、そのファイルだけを見つけるのは時間の浪費になるからだ。
 しかし、このパソコンの中にはその表計算ソフトを利用したファイルが殆ど無い様で、いつまで経っても検出することが無かった。

 焦り、変な汗が湧き上がってくるが、とある段階で10個ほど検出することに成功した。
 ファイルサイズもさほど大きいわけでは無い為、すべてをUSBメモリにコピーすることを決意する。
 コピー開始してからまたハードディスクがガリガリと音を立てて回り始める。
 しかし、その時1階の入り口で扉が開く音が聞こえた。
 先輩社員の誰かが戻ってきたのだろう。進行状況はすでに70%を超えている。ほんの数メガバイトのファイルのはずなのだが、古いノートパソコンではコピーするのにとても時間がかかっている。

 階段を上がってくる足音が聞こえ、この部屋に向かってきているのだろう事がわかる。
 90%を超える。
 だが、足音はすぐ近くまで来ていた。
 検索した窓は閉じて居るのだが、ファイルのコピーが終わってるわけでは無いのでまだ抜くわけにはいかない。
 先輩の足音が階段を上りきる音が鳴り、俺は慌てて近くの社員用の椅子に座り直した。
 座った時のギッと強くきしむ音と共に、誰かがドアを開けて入ってくる。

「しゃちょー! AV見たいんでパソコン貸してよー!」

 太った先輩社員は入るやいなや、すぐに社長に対して要求する。社長の金本はもぞもぞとけだるい眠気と戦いながら起き始める。

「あー……、お前DVDデッキ持ってるだろう……」

「昨日壊れちゃった!」

「ちっ、今やってることあるんだがなぁ……」

「それじゃ、6階のやっちゃって良いっすか?」

「言い訳あるか! 馬鹿が……! しかし、お前の性欲適度に抜かしておかないと不味いからな。しかたねーな。すぐ返せよ」

「ありっす!」

 いとも簡単に許可が下りてしまった。貸さなくてはならないパソコンは会話からして先ほど使っていたパソコンに間違いないだろう。そのパソコンには本来付いているはずの無いUSBメモリが未だに刺さっている。それを見落としてくれる先輩だとは思うが、そのまま戻してしまったら社長は確実に気づいてしまうだろう。そのため、大げさに立ち上がり、こう伝える。

「自分が準備しますよ!」

 社長や太った先輩社員よりは近くに居る自分だからこそ不自然では無い言葉。だが、演技等したこと無い為、何処まで上手く出来ているかはわからない。だが、この場合はそれを悟られないために強引に、そしてできるだけUSBメモリに気づかれないように繊細に動く必要があった。

「このノートパソコンで良いんですよね?」

 社長も先輩社員も俺の言葉を鵜呑みにしてくれたのか、その場から動いている様子は無かった。社長は寝ぼけた頭で判断が出来てないだけなのかも知れない。先輩も気を使って取りに来てくれる人で無かった事が功を奏している。

「PC落とした方が良いっすよね?」

 より大げさに許可を取り、俺がパソコンを操作する事が悪いことでは無いと思わせる。
 マウスを動かす仕草に合わせてUSBメモリを抜き、空いている左手に持たせ、スーツの上着左ポケットに入れる。
 多分、寝ぼけてる社長出なければすぐに気づかれたかも知れない動作だ。
 色々なタイミングが功を奏して俺はこの会社が扱っているだろう貴重なデータを入手することに成功した。
 PCが落ちたことを確認してから電源コードを抜き、パソコンを先輩に渡すと、太った先輩はお礼の一言も無くすぐに上の階に走って上ってしまった。
 社長が再度眠りに入る前に、さっさとこの場から逃げることを選択する。

「夕食買ってきます」

「おう……」

 許可と取れるような言葉が聞こえたため、俺はすぐに会社から飛び出てコンビニへと向かった。



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