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60.憧憬の念
「えっ何言ってんの?!そんなわけないじゃん!」
京舞くんは、にこやかな顔のまま固まっている。
「京舞!」
「京利、まって。少しお話させて欲しい。いい?」
京利がしぶしぶ頷く。
「パパとママ、最初に対面したときね、すごい厳しい顔して、待っててくれたんだ。多分怖がらせて、オレの反応を見たかったんだと思うんたけど、でもオレ、育ってきた環境のおかげで、人の悪意というのかな?そういうのに妙にするどくなっちゃって。
だから、パパとママが、すごく怖い声だったけど、『あっオレ、少なくとも嫌われてないな』ってわかっちゃったから、そこで緊張が解けて、しっかりご挨拶させてもらえたんだ。
それでね、さっき、京舞くんから声かけてくれたときは、悪意は感じられかったけど、嫌悪感を感じたんだ。それはなぜか?
京舞くんが、京利の方ばっかり見るもんだからすぐに分かったよ。見る度に微かに眉をしかめて。
『かっこよくて完璧な俺のお兄ちゃんが、だらしない顔で笑ってる!こいつがいるせいか!』ってなったんだよね。
当然の嫌悪だよ。憧憬の念が崩されてしまったんだから」
「わかったような口を聞くな!」
京舞くんは、顔を真っ赤にして怒っていた。
「ごめんね、京舞くん。オレはだらしなくでれでれ笑ってる京利も好きなんだ。この間なんかね、家の中なのにオレの姿が少し見えなくなっただけで、映画の○ナン君みたいに『りーーーん!!』って叫んでて、めっちゃ面白くてめっちゃ好きだなって思った。
それにね、オレ、京舞くんも大好きだよ。
オレの手を引いて、さっきここまで連れて来てくれたとき、つまずきそうな所で、さっと手を回してくれた。それに椅子にも早く座らせてくれた。オレの身体を気遣ってくれたんだよね。
京舞くんは、嫌悪を抱いている相手にも、無意識に優しくすることができるとっても優しい人なんだよ。オレ、嬉しくてさ。
だから、これから仲良くできたらいいなって思ってる。本当の兄弟になってくれないかな」
「おっお、俺は嫌だ!あんたも兄貴も大嫌いだ。勝手にやってろっ俺は知らない!」
京舞くんは、赤い顔のまま、ガタタッ!って椅子を乱暴にどけて立ち上がり、走っていってしまった。
ハッと気づく。
オレは、なんてことを。
みんなの顔が怖くて見られない。
オレは、立ち上がって頭を下げた。
「パパ、ママ、京利、ごめんなさい。貴重なお食事会を壊してしまいました」
返事がない。頭を下げたまま、オレはものすごく反省していた。
なんてことだ!良い嫁だと思ってもらうために、京利にもたくさん協力してもらったのに。
どうしよう。
京利、ごめん。
オレは卑怯にも悲しくて泣きそうになってきた。
みんなが立ち上がる音が響く。
あぁ、やっちゃった。
パチパチパチパチパチパチパチ!!!
なんの音?
見上げると、パパもママも京利も、才賀含む使用人の方々もスタンディングオベーション(のようなもの)をしていた。
「凛ちゃん!すごかった!本当に○ナン君みたい!素敵!」
「凛くん、君は本当に素敵だ!」
「凛、大丈夫だ。誰も怒っていない。みんなが凛を心の底から認めてくれたんだ」
「凛ちゃん!」
ママは、テーブルを回ってきて、オレを抱きしめた。
「あっずるい!凛くん。よしよし怖かったね」
パパまでやってきて、反対側からオレを抱きしめた。パパもママもいい匂い。優しい匂いがする。
「おい!何やってんだ、凛を離せ!」
京利が遅れてやってきて、パパとママを剥がそうとして頑張っているけど、なかなかお二人も力が強いみたい。オレ、前から後ろからぎゅうぎゅう抱き締められている。なにこれ、すごく安心する。
前側にいるママを思わず抱き返してしまう。うわぁあやわらかい!
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