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61.殻やぶりな男
親の匂いってこういうのなのかぁ~いいかも。
オレは、やわらかい匂いと感触に浸っていた。
「凛ちゃん、ママね、京舞があんなに感情を顕にするのを初めて見たわ。
もちろん赤ちゃんのときはギャンギャン泣いていたこともあったけど、物心つくころには、全然怒らない子になっちゃった。
明るく元気にいつも笑っている子になった。
きっと彼にとって四ノ宮一族は、大きすぎて立ち位置を探り続けているんでしょうね。
にこにこして愛嬌たっぷりで可愛いいでしょ?いつもお兄ちゃんを追いかけて、勉強もスポーツも完璧主義者で、何事も一生懸命に頑張る子で、みんなから、本当にみんなから愛される存在。
でも本当は、自分の居場所をずっと探している。
パパもママも恐かったの。本音というものがおよそ計り知れない子だったから、私達にも、他の誰にも言えたことがないかもしれないなって。
だから、いつか京舞が壊れてしまうのではないかって。怖かった…」
そこで話がとまる。オレは上を向かなかった。
ママの震えが伝わってきたから、泣くのを堪えているんだろうと思う。オレごとママを抱きしめているパパが、ママの背中を撫でている。
オレは、腕のすき間から京利を覗き見ると、なんともいえない顔で、どこを見るともない視線をこちらに向けていた。目が合うと、すごく優しい目で微笑んでくれた。
パパが話の続きを受け取った。
「今、京舞、すごく怒ってたな。
やっと、やっとやっと本音を吐き出した瞬間だ。
ありがとう凛くん。
これで京舞は、一人で悩み、考えることになるだろう。例えば、『恥ずかしい』『見られた』とか、『これからどうしよう』なんてね。
でも、もう大丈夫。京舞の殻はそれは豪快に割られてしまったからね、凛くんに。くくく」
「ほんとほんとっ豪快な凛ちゃんの一発!ふふふ」
少し復活したママも、笑いだした。そんなに豪快に割ってしまったかな。
「でも、まだまだ殻が残っていたら?」
オレは思わず聞いてしまう。
「それは大丈夫だ、俺が保証する。凛の一発は、後から後からどんどん効いてくるんだ。俺がそうだった」
「ねえ凛くん、冴さんに色々聞いただろう?数々のオメガの求婚を交わし、笑顔を一万光年先に置いてきたと言われた京利。
京利も本当に悩んでいたんだよ?『運命』だったことは一旦置いておくけど、京利の変わりっぷりは、冴さんに一番に見た!って自慢されてね。散々聞かされたんだけど。それでもいやいやまさか!って全く信じられなかった。
一族にも冴さんのところ以外に『運命』と番った者が今までいたけど、こんなに『殻』を破られた話はきいたことがない。
前代未聞だよ。何回も京利に一発!をしてくれたんだね。ありがとう凛くん」
「あのっ!それに関してはひとつ言わせてください!
京利は、とても素直で誰よりも優しくて、誰よりもかっこよかった。自分の話を聞かせあったとき、パパとママのことを聞きました!
その時、オレ思ったんです。京利が幸せに生きてこられてよかったって。すごく嬉しかった。そんな京利だからこそ、オレに歩みよってくれて、いっぱい優しくしてくれたんです。
『運命』とか関係なく、一切の偏見がなかった。
パパとママの愛で、ゆっくり育ててくれたから、とてもかっこよくて、力強くて、優しくて、人の痛みや苦しみを理解しようとしてくれる京利になったんです。
京利が幸せに生きて来られたことが、何よりも嬉しいんですオレ。これだけはずっと伝えたかったことです。
どうか、これから末永く宜しくお願いします!」
もう一度、ぎゅってママを抱きしめた。
「理桜ちゃん、僕達の『殻』も見事に割ってくれたね」
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