64 / 154
64.それは今言うな
オレはすぐに抱きしめ返した。
京利のフェロモンがオレを包み込みはじめた。
「少し離れていただけなのに、こんなにさみしくなるなんてな。圧倒的に凛が足りない。これは大いなる欠如だ」
「もう大げさなんだから。オレが大学に戻ったらどうするの?」
「それは今言うな」
ふふ、京利はオレの頭とか首とかさり気なく匂いをかいでいる。くすぐったいけど、オレも匂いたいから京利の動きに合わせて、くんくんした。
「ごめんな、凛。随分疲れさせてしまったな。父さんも母さんも悪気はないんだが、何かされなかったか?身体は大丈夫か?変なところはないか?」
腕を緩めて、心配そうな蜂蜜色の瞳がオレの目を覗き込み、聞いてくる。いつもの優しい京利だ。安心する。京利、いい匂い。京利、大好き。
「オレもさみしかった、すごく。身体は大丈夫だよ」
京利が軽く唇を合わせて、温もりを分け与えるようなキスをする。労ってくれてるんだな。オレも京利を労いたくて、優しく唇を合わせた。温かい。
唇が離れて、見つめ合う。笑い合う。
「大成功だったな。凛が色々がんばった成果だ。さあ俺達の家に帰って、後はのんびり身体を休めよう」
「うん」
京利がずっとやわらかいフェロモンで包んでくれているから。すごく気持ち良くて、だんだん身体に知らず知らず入っていた力が抜けていき、なんだか眠くなってくる。
「凛、俺の仕事のことを聞いたんだな?」
「ごめんね京利、怒った?」
「怒るはずがないだろ?俺のことを知りたいという気持ちがあったということだ。むしろ大歓迎だ。
ただな、俺があからさまに大金持ちだってわかると……凛が、俺から離れていくような気がしていた。世界が違うとか、荷が重いとか言われそうで嫌だった。
でも、これだけは行っておくが、凛が眠っている間に必要な仕事はこなしているぞ。俺は、昔から睡眠時間が短くても平気な方なんだ。
反対に凛は、よく眠るいい子だからな。たくさん仕事をする時間はある。
いくら何でも、情報連携や指示が必要な部分は頑張ってやっている」
京利は、少し拗ねたような顔をした。
「ふふ、そりゃそうだよね。京利だもん。毎日頑張っているに決まってるよね。家賃とか食費とか、ふふふ大丈夫じゃないわけないよね。
ほんとに、ちょっとした疑問だったんたよ。
今は少しびっくりしているけど、京利のかっこいいところがまたひとつ知れて嬉しい。
そういえば、京舞くんに持っていってくれてありがとう。様子どうだった?」
「部屋の中には入られなかったが、静かに考え込んでる様子だったから、外から、おにぎりを置いておくことと、凛の伝言を伝えたら、『はあ?何言っての?』ってまたギャンギャン怒りだした、くく」
「ふふふ、京舞くんて本当に面白くて可愛いね、また会えたらいいな。
ねえ京利。
オレは、京利を捨てたりしないよ。
えいえんにいっしょにいるってちかったじゃん、だいすきなんだから……」
眠気が増して、抗い難くなっていく。
「凛、眠いのだろう。安心して眠っていい」
京利が頭を撫でてくれる。
「京利ごめん。ねちゃう…」
蜂蜜色の瞳が蕩けていく。
眠りに落ちていくオレは気づいてしまった。
オレを見つめる京利の瞳には、
隠せない狂気が滲んでいた。
これは夢?現実?
おやすみ、凛、ゆっくり眠れ。
すやすやと眠る可愛い凛の顔を見つめている。
おもむろにスマートフォンを取り出し、録画した動画を再生する。
『ーーですが、私は、京利さんと離れるつもりはございません。どうか、お義父様とお義母様がご納得いくまで、ご指導をお願いしたく存じます。
そしてきっと、京利さんの横に並んでも恥ずかしくない番にーーーーー』
蜂蜜色の瞳から狂気が薄らいでいく。
あなたにおすすめの小説
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
言葉が通じない暴君皇帝の運命の番として召喚されました〜炎を鎮めたら冷徹な彼が甘々になりました〜
水凪しおん
BL
帰宅途中の夜道、突然の光に包まれた青年・アオイが目を覚ますと、そこは見知らぬ異世界の宮廷だった。
言葉も通じず、隔離された離宮に閉じ込められた彼が出会ったのは、ソラリア帝国を統べる皇帝・レオニダス。
強大な竜の血を引き、その力に肉体を焼き尽くされそうになりながら孤独に耐える冷徹なアルファ。
だが、特別な魔法を持たないはずのアオイには、彼の荒れ狂う魔力を静かに鎮める「不思議な波長」が備わっていた。
「触れるな」
お互いを傷つけることを恐れ、遠ざけようとする不器用な皇帝。
だが、アオイは苦しむ彼を見捨てられず、自ら灼熱の炎の中へと飛び込んでいく。
言葉の壁を越え、魂の波長が重なり合った時、冷徹な皇帝の態度は一変。
誰よりも優しく、独占欲に満ちた重すぎる溺愛が始まって――。
孤独な竜と、彼を癒やすただ一人のオメガ。
二人が真の「運命の番」となるまでの、切なくも温かい異世界救済ボーイズラブ。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。