75 / 154
75.私がこの手を離したくないの
慌ただしい。
人が沢山いる。
音が消えていく。
京利を乗せたベッドが移動していく。口に呼吸器をつけて、止血のためか、看護師さんに布で押さえつけらている腹部。血が、血が。真っ白い布を赤く染めている。
ベッドが止まる。メイに引っ張られて近くに連れて行かれる。京利、目を閉じている。寝てるのかな。またメイに引っ張られる。なんでそんなあっちこっちに引っ張るんだよ。ワンちゃんの散歩かよ。
ベッドが移動を再開する。手術室に入っていった。
どふん、と頭に大きな手を置かれた。なんだろう。ものすごい圧を感じる。大きい人?ゆっくり振り仰ぐ。でかい。低く響く声が耳に届く。
「凛。俺がわかるか?」
不敵な笑いを浮かべている。ドラマとかで見たことがあるような青い手術着にマスクをしていて、目の部分しか見えないけど、自信満々なアルファ然とした不敵な笑いを浮かべていることがわかる。瞳の色はグレーに見える。フェロモンはオレにはわからない。でもわかる。
この人が誰なのかはっきりわかる。
「さえたんの番さんですね」
「そうだ。俺は神の手の技術と、天才がゆえに膨大な知識を持つ最強の外科医だ。必ず、京利の腹の傷は、俺が美しく元通りにしてやるから、安心しろ」
面白いぐらいアルファな人だな。思わず笑ってしまう。周りの音が戻ってきていたことに気づく。
「偉大なる外科医師様、よろしくお願いします」
「うむ。待っていろ」
さえたんの番さんは手術室に入っていった。
バタバタバタと誰かが走ってくる。振り返る前に後ろから抱きしめられる。
「りんりん、よく頑張ったね、手術は、連に任せておけば大丈夫だよ」
「うん。さえたん、来てくれてありがとう。連さんてなんかすごいかっこいいね」
さえたんは、微笑んだだけだった。
ここで、ようやくオレは、メイの手をずっと強く握り締めていることに気付く。ハッとして、離そうとしたけど、メイが離そうとしない。
「ごめん、メイ。痛かっただろ?」
「大丈夫。私がこの手を離したくないの」
「りんりん、その娘がメイさんだね。僕は、冴です」
「あっごめんなさい!先にご挨拶すべきなのに、ごめんなさい。私もかなり混乱していて。そのっごめんなさい」
「なんにも謝らなくていい。というか、謝る理由なんてないっ!こんな状況、混乱して当たり前なんだから。僕達のように医者でも看護師でもないんだからね。君達、りんりんが言っていた通り、本当に双子みたいだ。二人で手を握りしめあって。いや違うな、この場合は君の方がりんりんが遠くに行っちゃわないように、握りしめているんだよね。最高に尊い。最っっ高に尊い。僕はやっぱり人間が好きだよ。メイさん。僕、京利の親族なんだけどね、りんりんは、その京利の唯一の番であり、奥さんだから、りんりんも家族ってことになって、メイさんは、りんりんの家族。だから僕の家族ってことになる。可愛い家族増えてめっちゃハッピーなんですけど。これからも宜しくねメイメイ。メイメイって呼んでいい?ふふふありがとう。りんりんメイメイって何かすごく良くない?可愛い!一心同体って感じ!あっでもパンダちゃんの名前みたいかな。でもどっちも可愛いからありあり。あり寄りのあり。さっ後は、待合室で待っていよう?もちろん僕も一緒にいるから何にも心配しないでいいからね。こう見えて僕は優秀なお医者さんなんだよ」
メイは、いっぱいお話するタイプのさえたんに、目を白黒させて一言、はい。と返事をしていた。その間にオレは、メイと繋がった手を見ると、手の甲が内出血して真っ赤になっていた。
メイごめん。今は謝罪を聞いてくれないだろうから、心の中で言った。
あなたにおすすめの小説
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
言葉が通じない暴君皇帝の運命の番として召喚されました〜炎を鎮めたら冷徹な彼が甘々になりました〜
水凪しおん
BL
帰宅途中の夜道、突然の光に包まれた青年・アオイが目を覚ますと、そこは見知らぬ異世界の宮廷だった。
言葉も通じず、隔離された離宮に閉じ込められた彼が出会ったのは、ソラリア帝国を統べる皇帝・レオニダス。
強大な竜の血を引き、その力に肉体を焼き尽くされそうになりながら孤独に耐える冷徹なアルファ。
だが、特別な魔法を持たないはずのアオイには、彼の荒れ狂う魔力を静かに鎮める「不思議な波長」が備わっていた。
「触れるな」
お互いを傷つけることを恐れ、遠ざけようとする不器用な皇帝。
だが、アオイは苦しむ彼を見捨てられず、自ら灼熱の炎の中へと飛び込んでいく。
言葉の壁を越え、魂の波長が重なり合った時、冷徹な皇帝の態度は一変。
誰よりも優しく、独占欲に満ちた重すぎる溺愛が始まって――。
孤独な竜と、彼を癒やすただ一人のオメガ。
二人が真の「運命の番」となるまでの、切なくも温かい異世界救済ボーイズラブ。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。