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76.『ここに居たい』
「さえたん」
「なあに?りんりん」
「オレは、ここに居たい」
「メイメイは?」
「凛と、ここに居ます」
さえたんは、聖母のように気高く美しく優しい目で、オレとメイに微笑みかけた。
「そう言うと思っていたよ」
さえたんは、今度は可愛い顔でウインクをして、腰のポケットから鍵を取り出した。今オレ達が立っていた場所を少しよけさせると、壁に丸い金具が付いてて、それを回すと鍵穴が出てきた。倉庫かな?避難具?
さえたんは、鍵をガチャリと開けると壁だったところを横に滑らせて、ガラガラガラと押しはじめた。振り返ったさえたんのドヤ顔が可愛い。
開け放たれたそこは、ちょっとした小部屋だった。シングルのベッドを隙間なく並べて五台分くらいかな。その小部屋のド真ん中には、大きなソファが配置されていて、周りの棚には、気持ち良さそうなふかふかのブランケットが積まれていたり、電気ケトルが置いてあったり、なんとトイレもあったりして、オレは、『住めそう』と思った。
素直にびっくりしていたオレとメイの手を引っ張ってさえたんは、ソファに座らせた。大きなソファは、沈みすぎない程度の弾力があって、少しお腹の重みを感じはじめたオレには、とても楽に座れる気持ち良いソファだった。そして、一番素晴らしいのは、座って前を見ると、手術室の出入口が確認できるド真ん前だった。オレは、京利から離れたくない。
『運命』だからかもしれないし、『番』だからかもしれないし、『愛する人』だからかもしれない。何にしろ、オレはここに居たいんだ。
「さえたん、ここって」
「そう、りんりんみたいに『ここに居たい』って願った人のための場所だよ。りんりん、なるべく座って待っていようね。その子のためにも」
「はい。ここで座って待ちます。さえたんありがとう」
「ふふふ。僕はとてもとても優秀なお医者様なんだよ」
ふっ、メイが笑った。
「やっと力を抜いてくれたね、メイメイ。君は確か、フェロモンに敏感だったよね。さっき、連のフェロモンやらマーキングを消すのために色々してきたんだけど、完全に消えるわけではないから、苦しくないか心配していたんだ」
「もう大丈夫です。番の方のフェロモンがすごくて苦しかったです。でもここの濃度には慣れたので大丈夫です」
「なるほど。メイメイは濃度に身体を適用させていくこともできるんだね。すごいな、僕の、け...」
ダッダッダッダッダッダッダッダッ
タンタンタンタンタンタンタンタン
また、誰かが走って来ている。何人かいる?
「凛ちゃんっ!どこなのっ?!」
「凛くん、どこだい?!」
パパとママだ!オレは、ぴょんと立ち上がってメイに京利の両親であることを伝えて、一人通路まで出て姿を見せた。
「パパ!ママ!ここに居るよ」
「凛ちゃん!」
「凛くん!」
手術室の前で抱き合う。オレはまたサンドイッチ状態で、ぎゅうぎゅうされているけど、もちろんお腹の部分は、配慮してくれている。
「凛ちゃん、私達、貴方に沢山お話すべきことがあるわ。もう関係ないとばかりにお話もせずになかったことにしていたこと、すごく後悔しているの」
「凛くん。本当に私達が悪かった、どうか許しておくれ」
オレは、思っていた以上に、サンドイッチハグに安心した。そして、堰止められていた涙が溢れ出した。ものすごく泣きたかったんだなって自分で気付いた瞬間だった。滂沱の涙を流して、ひっくひっくとしゃくり上げて泣いた。
「ごわかっったんだ...っずっと、ずっとこわかったっ」
パパとママとソファのところまで戻って、座って二人に挟まれて泣いた。
「怖かったわよね。でもちゃんと赤ちゃんを守ってくれたわ。とても強かったわ凛ちゃん」
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