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79.優秀な者の一人
京利は、チラリと彼女の姿を見てから、いつもの無表情で、
「才賀。着替えさせてやれ、それと客室を用意しろ。あと、あちらの家に連絡を入れて迎えに来させろ」
京利は、それだけ言って、部屋をでていったわ。
残された彼女は、それはそれは嬉しそうに笑って涙を流しながら、こう言ったの。感無量といった感じでね。
「京利さん...会いに来てよかった。
お義父様、お義母様ありがとうございます。こんな格好でやってきて、お騒がせして申し訳ございませんでした。浅はかな考えだけで来てしまい、お恥ずかしい限りでございます。深く反省しております。
いつも通りに京利さんは優しかった。『今は耐えるとき』ということだったんですね。本当に浅はかでしたわ。京利さんの婚約者として、もっと堂々としていないとだめですわね。私も会社の立て直しにもっと協力しなくてはなりません。しっかり精進してまいります」
そう言って、私達に丁寧な礼をして、その後は、才賀に従って応接室を出ていった。
私達は、何も言えなくなって......。
とても恐ろしくなってしまったの、私。凛ちゃん。ごめんね」
オレは、ママの手を握った。
「彼女が言い残して言ったことは、すぐに京利にも伝えたんだ。僕としては、彼女には、警戒が必要だと判断したからね。
京利は自室で静かに本を読んでいたんだけど、僕の話をきいて、それをパタンと閉じて僕達に少し待つように指示をした。
そして、京利は、その場でサラサラと書面をしたためて、それも2枚用意して、2枚ともに自分のサインを入れたんだ。
『これを向こうの迎えに渡してもらって。父さんと、母さんも書いて一緒に渡して。必ず1枚は返して貰えるように伝えて欲しい。出来れば、彼女が来ない間に』
内容は正式な形式に則ったもので、婚約はすでに破棄されていること。と、改めて破棄すること。などが書いてあった。
僕達も『分かった。すぐに用意する』と伝えて、部屋をでようとしたら、『父さん、母さん。迷惑かけた、ごめん。俺がもっと早くに動いていればよかったんだよな』と言うもんだから、
『京利、それは違うな。全てを断ち切った際に、大人達がちゃんとけじめをつけていなかったから、今こうなっている。こちらこそ、申し訳なかった』
って頭を下げた。京利は驚いていたけど、本当にそうなんだよ。もしかしたら、京利の寝込みを襲われていたかもしれない。恐ろしい話だよ。間違いなく大人がすべき仕事だったんだ。
そして、僕達も急いでそれぞれの自室に戻って、書き上げた。
あちらの家から、迎えが来たと才賀から報告があったから急いで、三通の書面をもっていき、使いの者に渡した。
その後は、京利も僕達もでていったりせず、彼女はひとりで車に乗り込んで帰っていった。
書面の方は、しっかり三部返ってきた。内容の件に関しては全て承知している。婚約はすでに破棄されていること。今後も婚約者になることはないこと。の詳細と最後に本人のサインがキチンと本人の字で書かれていた。
さすがに彼女のサインはなかったけれど、娘の無礼の謝罪も確かに書いてあった。
うん、書いてはあったんだけどね。再起をかけた新規プロジェクトに向けての協力の要請がひたすら書かれていた。
まあ、サイン入りの書面も帰ってきたし、京利も、僕達も、ここで終わったと。そう思うことにした。
ちなみにその製薬会社は、娘の知恵で、大手のお菓子メーカーに買収してもらい、見事に立ち直らせたんだから、彼女もまた、優秀な者の一人なんだろうね。
そして、京利が高校生になって、放課後や休日に、僕の後ろに着いて、仕事学び始めたころ、また思いもしない事件がおきたんだ。
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