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80.彼女がお前に渡してって
京利の話によると、高校の近くに彼女が現れるようになったそうだ。京利本人が見たわけでもフェロモンが匂ったわけでもなく、他の学生から聞いたそうだ。
『どこそこのコンビニに居た』『そこの本屋に居た』とか、『あれ、今日会うんじゃなかったのか?彼女、門の所で待っていたぞ』なんて、そんな感じの話が聞こえてくるようになった。終いには『京利の婚約者って可愛いよな』『ラブラブじゃねえか』なんて茶化される。
京利は、これは無視できないと思い、目撃情報があがった時点で、その場に急いで向かった。
でも居ない。
何処にも居ない。
匂いもしない。
別にどこかで待ち伏せするわけでもなく、話が聞こえてくるだけで京利は焦る。早く彼女に会わなくては。
「京利!おーい京利!」
振り向くと、友人のひとりが居る。
「これ、彼女がお前に渡してってさ」
「あいつは何処にいるっ!?」
「えっ、あそこに...あれ?」
友人は後ろを振り向いて門を指差していた。友人は、ほんとに今まですぐそこにいたんだといった。
京利は、走って追いかけた。だが、見つけられない。なぜだ。已む無く手紙の中身を確認する。ほのかに彼女の匂いを感じた。
『京利様 私はいつまでも待っています』とある。
怒りがおさまらなかったのか京利は、僕達に直接、頭を下げてきた。僕は、京利が頭を下げる理由はないって言ったんだけど、京利は譲らず、頼みこんできた。
京利が僕達に何かの頼みごとをするなんて、この時が初めてだったよ。
『彼女に婚約は破棄になったことを、もう一度理解して貰うためにも、向こうの両親と一緒に場を設けて欲しい』という事だった。大人達の前で、話に決着をつけようとしたんだろう。僕達もそれが良いと考えた。
そして、実際に皆が集まった時、京利の真っ当な主張に、彼女は、ストーカーまがいな行為をしていた事を一切否定した。
ニコニコと笑い婚約破棄は受け入れている。とも言った。親が無理やりさせた感じもない。
そうなると向こうの両親は、名誉毀損だ!と言い出した。それは、暗に四ノ宮グループとの関わりを復活させろということだ。
そんなこと出来るわけがない。京利のためにも、四ノ宮グループのためにも出来るわけがない。
僕の秘書を呼んで、誓約書を作り、小切手と交換で、また全員署名して、娘のストーカーまがいの行為を止めさせることと、今後一切、四ノ宮家との関わりを断つことを約束させた。次がもしあった場合は、法的に徹底的に戦うことも伝えた。
京利は、じっと彼女と目を合わせていた。逃げも隠れもせず、全く表情が抜けた顔で、ニコニコと微笑んだ彼女を見ていた。
『金のためにやったのか』京利は彼女に問うた。
『何をおっしゃるの京利さん。そんなはずありませんわ。それに私はストーカーのようなこともしておりません。ただ京利さんを想っているだけです』
『キミとの関係は二度と戻らない。迷惑だから想わないでくれ』
『フフフ、わかっておりますわ。京利さん』
何もわかっていないことは一目瞭然だった。でもそれ以上に、その時点で打てる手段は、誓約書に署名させることと小切手を渡すこと、秘書に一部始終を目撃させること、こっそり録画させること、それで全てだった」
ママがオレの背中に手を回してぎゅっと抱きついてきた。
「パパ、京利はパパにお金を借りているってことになるよね?」
「ああ、それなら、一年後に二倍になって京利からちゃんと返ってきたから、凛くんは心配しなくても大丈夫だよ。まあ、貸したつもりもなく、私の家族を守るためにした当然のことだったんだけどね」
ものすごい金額が動いたんだ。二倍にして返した京利かっこ良すぎた。
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