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83.あの兄貴が凛くんを離すなんて
「そうなんだよ。連の重圧がすごくてね、彼女はもともとフェロモン過敏症の傾向があるから。でもりんりんのそばに居るためにずっと耐えていたんだよ。順応する力も強くあるようだけど、それでもすごい根性だよ。
彼女は強い。僕の研究人生の中でも診たことがない。一度、ゆっくり話してみたいな。
りんりん、ちゃんと当直の看護師に、今後のことと、薬の指示も出してきたから、もう大丈夫だよ。はい、どうぞ。熱いから気をつけて持って」
オレは大事に両手で包んで受け取った。いい匂い。
「よかったな。凛くん」
京舞くんは、ひとり、スツールに座っているけど、足が長くてかっこいい。片手でカップを持って飲む姿が絵になるな。
「あの兄貴が凛くんを離すなんて、考えられないから大丈夫だよ」
さえたんが、はわわわって大げさに騒いでる。
京舞くんの頭をわしゃわしゃしてる。
オレはありがとうって言って微笑んだ。よし!気合い入れ直して!京利を待っていよう。パパとママは相変わらず、温かい空気で両側からオレを包んでくれている。
どちらも、頬をオレの頭にぐりぐりしてくるから、なんだか、親鳥に挟まれる雛鳥になったようで嬉しい。
きっとここにいる皆、不安な気持ちで、でも信じる力も大きくてずっと揺れ動いている。だからお互い寄り添って、心を繋ぐように手を繋いだり触れ合ったりしているんだな。
大丈夫、大丈夫。ゆっくりお茶を飲んだ。
「っ終わったんだ...っ!」
さえたんが急に立ち上がった。
「えっ!」
皆、いっせいに立ち上がる。ブランケットが床に落ちたのをパパがすかさず拾ってくれた。皆が手術室の扉に集中した。そうか、さえたんは番だからフェロモンの変化に敏感なのか。
オレは?感じない。まだ、まだ、京利のフェロモンが感じられないっ!なんでっ?パニックになる。恐怖で背筋が凍る。
ブォン
扉が開いて、連さんが出てきた。目が血走って完全に瞳孔が開いている。皆、連さんに釘付けになる。
「凛っっ!!!」
「はいっ!」
「手術は成功した。俺の腕も最高だったが、あの馬鹿野郎もこの時間、耐えぬいた。後は目が覚めるのを待っていろ。おいっ!冴っ!!!来いっ!!」
連さんは殺気だった?ままひとり歩いていく。
「はいはい。そんな大きな声で呼ばなくてもここにいるよ。見えてたでしょうが。
りんりん、僕は連の面倒見てくるから。また様子見に行くからね。京利くんについててあげて」
「おいっ!冴っ早く来い!」
「はいはい。患者の心のケアだよ」
さえたん、ぶつぶつ言いながらも連さんの後を小走りで追いついて行った。
ガラガラガラガラガラ
振り向くと、顔を真っ赤にしている京舞くんと少し安堵した表情のパパとママ。
補佐についていたであろう医師さんと看護師さんが顔面蒼白で京利のベッドを押して手術室から出てきた。
「京利っ」
近づこうとしたらママに止められる。ベッドが動いているときは危険だからだめよ。とまってからね。と言われる。戸惑っていると、医師がオレに話しかけてきた。本当に心配なくらいに真っ白だ。
「京利様は、今から集中治療室に入ります。失血量が多く、命の危機をいまだ脱出できていません。腹部と臓器の手術は大成功と言えます。本当に信じられない。神業としか言えません。でも血が、あまりにも少ない状態なのです。引き続き京利様に最善を尽くします」
「京利をお願いします」
それしか言えなかった。京利は今から、輸血を行ないながら、呼吸器の補助と術後の経過を24時間体制でたくさんの高次元医療従事者が見守ってくれるという。
『手術は成功したけど、血が足りず危険な状態』
何度も頭の中で繰り返される。
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