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87.一番豪華な個室
メイは、踵をかえして歩き出そうとした。
「待って!!メイっ!
目が覚めた。
ありがとう。ごめん」
メイの足が止まる。振り返ってはくれない。
「凛が今すべきことはなに?」
「ごっごはんをたべる。トイレにいく。お風呂に入る。寝る。そして、毎日お腹をなでて、赤ちゃんに話しかける。絵本を読んであげる。クラシック音楽を聞く」
「そうね、そしてこの状況下では?」
「っ!!!
もちろん京利にも、毎日撫でて話しかける。絵本を読み聞かせる。クラシック音楽を聞かせる!」
「いいじゃない、また来るわ」
メイは、かつかつと、靴を鳴らして、軽快に去っていった。
メイが去っていった途端、さえたんが急いでやってくる。
「立てるかい?」
過去一番の聖母の微笑みだった。オレは、ゆっくり立ち上がって、その場にいた全ての人達に感謝と心配をかけたことを、心からお詫びした。
特にひどい事をいってしまったさえたんにはなんていっていいかわからないぐらいで、泣いてしまった自分に腹が立つ。泣くな。ずるい。自分でしてしまったことから逃げるな。これから長い時間をかけてでも、絶対に恩返しをしていくと決めた。
パパとママはオレが大好きなサンドイッチハグをしてくれた。またまた俺は泣き疲れるまで泣いた。
その間、ずっとさえたんは待っていてくれた。
「ねえさえたん、トイレに行きたい。連れていってくれる?」
「もちろん、そこにあるから安心していいよ。京利くんのお金を使って、一番豪華な個室にしているから何の心配もいらない。それにシャワーもお風呂もあるんだよ。素敵なお風呂だからぜひとも入っておくべきだよ。その間に僕は、りんりんの好物でも準備しておくよ」
さえたんは、ぱちんとウインクをした。可愛い。
「ただちょっとお風呂ためなきゃね。その間にお茶でも飲もうよ」
「うん、さえたんのお茶飲みたい!」
オレは泣き腫らした目で、心から笑った。
その後、ようやく、人間活動を再始動させたオレは、見事に倒れてしまった。過労というやつだ。薄れゆく意識の中で、京利のそばから離れたくないのにって思った。
目が覚めると、真っ暗だった。
あれ?京利がみえる。
「やあ起きたかい?」
さえたんだ。
「気分はどうかな」
「すごく身体が軽い」
「良かったね、栄養の点滴を流しているから、管に気をつけて」
「ありがとう、さえたん。ここって、」
「そう、京利くんの個室の中だよ。りんりんと京利くん、そばに居たいだろうなと思って。ここにベッドを運んでもらったんだ。手が届くでしょ?」
病院のベッドにはもちろん転倒防止の柵が頭の方と足元にあって、京利のベッドの中に移って入られるわけではない、でも手を伸ばせば京利の手を握ることができる。なんてことだ。
「ありがとう、ありがとう。さえたん」
「ゆっくりおやすみ」
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「ねえそこのおねえさん」
曲がり角から見えない相手に声をかける。
軽快な靴音がとまってくれた。
「なにかしら?」
「キミは俺の『運命』だね」
「そうね。貴方は私の『運命』ね。
でも私、お馬鹿なクソガキが大嫌いなの」
「知ってるよ。だから、キミに見合う男になる。
必ずなる。
キミに追いついてみせるから。
ひとつだけ約束してほしいんだ」
「何を約束するの」
「俺がキミに見合う男になったら、
どうか俺の童貞をもらってください」
「………ぷっふふふふははは!!!
ええ、わかったわ。がんばってね」
彼女は、颯爽と去っていった。
「必ず番おうね。綺麗でかっこいいおねえさんっ」
彼もまた、来た道を戻っていった。
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