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88.『聞いてる?りんりん』(2回目)
この病院で一番豪華な個室の中で笑い声が響き渡る。
今日は、さえたんとママとオレの三人でお茶をしている。
話題は、ひとつだけだ。
オレが闇落ちしたところから、メイに豪快な平手打ちをされて、吹っ飛んで、啖呵切られて、見事にオレの目が覚めるまで。のシーン。
メイの武勇伝だ。
この繰り返される回想シーンにオレは、黙り込み小さくなっておくしかない。ママもさえたんもきゃっきゃっ言って楽しんでいる。
あの後、オレが自分で動き回れるまで回復してからは、さえたんの独壇場だった。
さえたんの優しくて可愛いお顔が鬼瓦のようになり、鬼説教が延々と続き、途中で回診に来た連さんは、無言で京利を診て、無言で帰っていった。ちらっとこちらを見たから目があったけど、憐憫の情が浮かんでいて、恐怖もあるようで逃げるように帰っていった。なるほどね。
『聞いてる?りんりん』
って問いただされ、また怒られた。メイと同等に怖くて震えた。さえたんの息子さん達もこうして怒られたのかなと考えると、まあある意味、胎教に良さそうだった。そして彼等を羨ましく思ったりした。その思いが顔に出ていたのか、
『聞いてる?りんりん』(2回目)が発動した。
てなことで、かっこいいメイと、情けないオレという対比が良かったのか、このお二人さんは喜々として盛り上がっている。ここ病院なんですけど。京利も寝てるんですけど。
この病室には、京利のベッドの他に、トイレにお風呂、シャワー、洗濯機、乾燥機、観音開きの冷蔵庫、電子レンジ、電気ケトル、お茶セット。もちろんテレビも壁掛けで配置されている。(ちょうどベッドから見える様になっている)
ベッドの右横に位置する窓がとにかく大きい。天気が良い朝には、カーテンを開けると太陽光が燦々と降り注ぐ。そして、なんといってもこの部屋には、小さなベランダまであるのだ。もちろん患者さんの状況によって、鍵の開閉には制限があるけど、オレは自由に出入りを許されている。
そう、オレはここに住んでいる。ような感覚だ。
京利が刺された日から六日目の今日、京利はまだ目を覚まさない。時々まぶたが動いたりするけど意識はないようだ。
オレが騒ぎ立てた次の日に行われた頭と脳の検査は、特に異常はなかった。
脳神経外科の四ノ宮先生は、『異常はありません』と言い切った。(当たり前だけどこの病院の医師は四ノ宮先生だらけだ)
ということは、覚醒に至らないのは、やはり多量に失血したこと、一時的に脳に酸素が行き渡らなかったことによる障害だと診断された。
京利は先程言ったように、目覚めの兆しはあるけれど、完全に目覚めたとて、意識障害が残る可能性は避けられないだろう。
オレは、幸せだった。
だって京利は生きている。
京利は、生きようとしてくれている。
お腹の赤ちゃんだって元気に毎日生きている。
面白い事件があった。
メイが絵本を持ってきてくれたんだ。おおこれは、メイの一番好きな本!昔からよく読んでた。
次の日には、京舞くんも絵本を持ってきてくれた。
『兄貴と赤ちゃんに読むのにいるでしょ?オレこれ好きなんだ』って。
それはもう本当に嬉しかったんだけど、なんと同じ本だったんだ。京舞くんはびっくりして、そしてとても非常に最高に凄く嬉しそうな顔をしていた。
『二冊も要らないよね。俺もう一度読もうっと』って、メイが持ってきた方を、ここで読み始めて、『やっぱ好きだな』って、持って帰ってしまった。メイにその話をしたら『なかなかいいセンスね』だってさ。
てなわけで、オレは毎日京利と赤ちゃんに、題名『大きいひねくれ姫と小さな王子様』を読み聞かせた。
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