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89.たまには呪いのように
今日も良い天気だな。
京利の匂いがだんだん濃くなっていく気がする。
元気になってきてるってことだと思う。
オレの最近のルーティン、夜は、京利のベッドに自分のベッドを寄せて手を繋いで、『おやすみ』って声をかけて、手の温もりと京利の匂いを近くに感じながら、眠る。朝は、起きたらすぐに自分のベッドを部屋の端っこに寄せて、『おはよう』の挨拶をして、ごはんをしっかり食べる。
その後は、京利のベッドの横に、ゴージャスな座り心地の椅子を持ってきて、また京利の手を握る。そしてベッドに顎を置いたり、頬杖をついたりしながら、窓からその日のお天気を感じて、京利の美しいご尊顔を拝しながらぼーっとする。
たまには呪いのように『起きて~』『京利~』『こっちだよ~』なんて、超低い声で京利の耳元で何度も何度も何度も囁きかけたりして、途中で自分で笑っちゃったりして、面白い。もし京利が起きたら教えてあげよう。
とても気持ち良い時間が流れる。
気持ち良すぎて寝てしまうこともある。
だんだんとわかってきたことがある。オレ達の赤ちゃんはアルファ性だ。おそらく、たぶん、なんとなく。
オレの心がやっぱりどうしても沈んでしまうとき、ぽやんて、温かい気持ちと表現したらいいのかな、なんかかこうあったかい匂い?空気?みたいなものがオレに伝わってくる気がするんだ。
メイおすすめの胎教クラシック音楽を、ぼんやりききながら、お腹をなでなでしているときも、時々ぽやんって、温かくなる。
今までも伝えてくれていたんだろうな。
オレが受け取らなかっただけで。
午後になって、 今日はパパとママが来てくれた。来る度にオレに食べさせたいという華麗な品々が、観音開きの冷蔵庫に詰め込まれていく。美味しいものばっかりで困るんだよね、太り過ぎ注意報が先日さえたんより発令されてしまった。
妊娠中の肥満は何かと良くないと、また何も食べなかったあの日のオレを掘り返してきて、『りんりんは全く食べないか食べすぎるかどっち?』って、可愛い顔をぷくーって膨らませてねちねち言われた。結構、根に持つタイプなんだよ。
「凛く~ん、おいで~」
ほくほく顔で、冷蔵庫に片付けていたら、パパが呼んでいる。はーいと返事して振り向くと、ばーんと両手を広げて待っている。純度の高い蜂蜜色の瞳が優しい甘さで微笑んでくれている。
えっこれって飛び込んでこい!みたいな?
「早く早く」
急かされて、オレも両手を広げて近づいてみた。
瞬間、捕まえられて、ぎゅうぎゅうとハグをされてしまった。
ああ、最高かも。パパ、すごくいい。
オレも遠慮なく背中に手を回した。
「あん!ずるい!ママも~」
って、いつもの逆バージョンのサンドイッチハグになった。ああ、最高。癒やされる。
「ぐふふふ。今しかできないことだからね。凛くんに今までしたかったけど出来なかったことを、パパは、京利が寝ている今のうちにすることにしたんだ!可愛い可愛い凛くん、おっと、今お腹、苦しくなかったかい?」
「大丈夫だよ。オレに似て頑丈みたいだから」
「ふふふ、凛ちゃん、私とさえたんがさんざん揶揄ってしまったこと怒ってるのね!もう!可愛いわ~」
ちゅっちゅっちゅっ
おっお二人さんっ好き放題じゃないか!
なんかくすぐったくてとろける~
「ねえ凛くん、一生のお願いがあるんだ」
「ふぇっ?何度もあるやつ?」
「一生に一度の大切なお願いよ、凛ちゃん」
「うん聞く」
「たとえ、京利が起きても起きなくても、居なくなっても、」
オレは、そこで顔を上げようとしたけど二人がかりで、ぎゅむってされて、余計に逃げられなくなった。
「たとえ、京利が居なくなっても、僕達に近くで君達を見守らせてくれるかい?」
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