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94.花の名前は全くといっていいくらい知らない
「あら、京利。本当にもう起きたのね」
「京利、起きられたのか!あと少しで凛くんを…」
オレは、安定のサンドイッチハグで駆けつけたパパとママを出迎えた。
「もう、パパもママもそんなこと言って!ちゃんと顔がものすごく嬉しそうだよ」
「だって凛くんに会いたかったんだも~ん」
後方腕組み古参顔の京舞くんは黙ってにやにやしている。
「ちょっと待て!いったいどういうことなんだ。凛こっちに来い。なぜそんなに両親といちゃいちゃしているんだ!」
少し声を荒げてこちらに手を伸ばそうとする京利。
おおっ怒りもちゃんとある!嬉しい。
手は、ぷるぷるしているけど、手を動かす感覚が失われていないみたいだ!良かった。
こんな当たり前なことに、オレはまたどうしようもなく目頭が熱くなる。どうも泣き虫になってしまったようでやるせない。自分が弱くていやだ。
「なんだよ!京利のばか!オレはさみしかったんだから」
オレはぷいっと横を向いて涙を隠しながら、病室の外に出て左に曲がると。
そこにはさえたんが白衣姿で立っていた。こちらを見ていて、手は白衣の両側のポケットにいれて、頭と肩を壁にこてんと、もたれさせていた。髪の毛が重力で顔にかかっている。真剣な顔だ。
え~超イケメンなんですけど!
真面目な顔してるさえたん超イケメンなんですけど。
「りんりん、今超絶に失礼なこと考えているよね?」
「トンデモナイ」
「まあいいや。それより僕も京利くんに言いたいことたくさんあるんだよ、だから参戦してくるから。30分くれる?お願い」
オレは無言で頷いて、一礼して早々にその場を立ち去った。
すっかり落ち着いているオレは、院内の探検に行きたいところだけど、ふらふらするのは良くないと思って、京利の病室と同じ階の休憩スペースに初めてひとりで向かった。
こうしてぽてぽて歩いていると、自然にお腹を撫でていたりする。なんだか幸せな気分になる。
飲料コーナーで適当なジュースを買いながら、ふと矢印に『散歩道』と書いてあるのが見えて、へぇいいじゃん。って思って気軽に自動ドアから外に出た。
そして、ぎょっとした。
うわあ、すげぇ。
そりゃそうか。
ここは、特別個室がある階だもんな。
広大な屋上庭園が目の前に存在していた。まだまだ暑いけど、日が陰ってきた夕方の風が心地いい!
綺麗なモザイクタイルで彩られた花壇が、緩やかなカーブを描いた散歩道に沿って配置されている。所々に、結構大きな木が生えていた。ここ屋上で地面とかないのに、あんな結構大きな木って生やせるんだ~って、ぼーっとした。
散歩道は、歩きやすさを重視したクッション性のある素材が敷かれていて、一歩一歩が楽しくなってしまう。車イスもスイスイ通れるように道幅も広いし、段差もない。なにここ最高。
道を辿って少しばかり歩いていくと、広場に出た。円形になっていてその周りが散歩道だ。広場の中は、人工芝生みたいだから、きっとお子様が遊べるんだね。
オレは、見つけたベンチに座ってジュースを飲みながら、ゆったりと花を眺めた。
昔から花を眺めるのが大好きだったな。
花の名前は全くといっていいくらい知らないんだけど、眺めていると可愛い、綺麗だな、いい香りだな、大好きっ、てなる。
「メイも花が好きだから、明日ここのこと教えてあげよ」
京利が起きたことを電話で伝えたら、さすがに今日は大騒ぎでしょうから、明日に行くわねって言っていた。まだまだ大騒ぎが続きそうな感じだけどね。
もう、オレの涙はどこかにいった。
さて、そろそろ戻ろう。
………京利の病室の前で、オレは躊躇していた。
さっき、怒っていたんだった。入りにくいな。
「凛!凛っ!どこだ!」
「もうすぐ帰ってくるよ、ねえりんりん?」
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