108 / 154
108.オレにとっての一番の怖さ
陣痛促進剤を点滴でゆっくり身体に流し始めて、約二時間半になろうとしている。
個人差はあるものの、だいたい効果が出始めるまでに相当時間がかかるものらしい。ところが、オレには良く効いてくれるのか、すでに微弱な陣痛が始まっていた。
痛い!とはまだまだならないけど、一定の間隔で、ぐぐうぅうと子宮が収縮しているのがわかる。
それが苦しくて、波が来る度に冷や汗をかいている。なんというか、お腹を壊して、トイレに座っているときのような鈍痛だ。
京利は、ベッド横の椅子に座ってずっと手を繋いでいてくれるし、一度も離そうとしない。反対側の手では、オレの汗をこまめに拭いてくれている。
なんて素敵な旦那様なのだろう。
優しい京利の大きな手がオレの汗ばんだ髪の毛に細くて長い指を通して梳いてくれるんだけど、それがあまりにも気持ち良くて、思わずすりすりと甘えてしまう。京利の手、大好き。
「あぁ、凛、可愛いすぎる」
京利の顔がでれでれとしている。こんなときなのに、嬉しくてこちらもにこにこしてしまう。
「お二人さん、いい感じにリラックス出来てるよ」
さえたんもずっとこの部屋に居すわり、オレの様子の変化と、モニタリング装置のチェックをしていて、見逃さないよ、という視線を度々送ってくる。
昨夜も大きな手術があったという連さんが、横になって眠っているソファの頭の方に座って、ノートパソコンに何かを入力しながら向き合っている。
さっきは、食べられるうちにたべましょう!って豪華な御膳の差し入れを持ってきてくれたのは、パパとママだ。メイもいる!
メイはとにかく顔色が悪い。連さんの影響かもしれないし、あるいはオレよりはるかに緊張しているのかも。
無表情だし、無口だし、オレに悟られまいとしているときの顔だ。オレは知らないふりをして、来てくれてありがとう。とだけ伝えた。
だってメイの姿が見えなくても、ここに来てくれたことがどうしようもなく心強いんだ。
それで、みんなで揃って『いただきます』をして、正直、お腹は空いてないというか食べる気にならないというか食欲がなかったんだけど、お腹の中は、朝に処理をしたから空っぽのはずだ。それならばと、これからの体力のためにもと奮起して完食した。
パパとママいっぱい褒めてくれた。
「じゃあ一旦、待機室に戻るわ。
京利、凛ちゃんをお願いね。
メイちゃんいきましょう、あら」
そう言ってパパとママは、にこにこと待機室にメイも連れて一旦戻っていこうとしたんだけど、メイが小走りでオレのところにやってきて、聞いてきた。
「凛、大丈夫なの?」
「大丈夫!可愛い凛真の誕生を待っててよ」
「わかったわ」
メイはやっと少し笑って部屋を出ていった。
メイ、オレも凛真もがんばるからな。
そこから約一時間。だんだん、仰向けの姿勢が苦しくなってきて、今は京利の方を向いて横になっている。
陣痛の間隔が短くなってきているような気がする。波が来る度に鈍痛が重く、強く、広くなっていく。
この痛みがというよりは、この状況がまだまだ続くということが、オレにとっての一番の怖さになってきてしまう。
また来るっ!
ぐぐううう...
痛い、痛い。
痛みに、鋭さも帯びてきた。
懸命に耐える。
思いっきり力んでしまう。
息を止めて耐えていると、
うそのように、すうっと痛みがひいていく。
はあはあはあはあはあ
苦しい。
なんとか今回の波も乗り切れた。
でも終わりじゃない、またすぐに次が来る。
顔に恐怖がでてしまう。
どうしよう。
はあはあはあはあはあ
ぎゅっと手を握られる。
さえたんだ。
もともと繋いでいた京利の手にも力が入った。
二人とも笑顔だ。
そうだ、オレはひとりではなかった。
情けなさすぎる。
あなたにおすすめの小説
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
言葉が通じない暴君皇帝の運命の番として召喚されました〜炎を鎮めたら冷徹な彼が甘々になりました〜
水凪しおん
BL
帰宅途中の夜道、突然の光に包まれた青年・アオイが目を覚ますと、そこは見知らぬ異世界の宮廷だった。
言葉も通じず、隔離された離宮に閉じ込められた彼が出会ったのは、ソラリア帝国を統べる皇帝・レオニダス。
強大な竜の血を引き、その力に肉体を焼き尽くされそうになりながら孤独に耐える冷徹なアルファ。
だが、特別な魔法を持たないはずのアオイには、彼の荒れ狂う魔力を静かに鎮める「不思議な波長」が備わっていた。
「触れるな」
お互いを傷つけることを恐れ、遠ざけようとする不器用な皇帝。
だが、アオイは苦しむ彼を見捨てられず、自ら灼熱の炎の中へと飛び込んでいく。
言葉の壁を越え、魂の波長が重なり合った時、冷徹な皇帝の態度は一変。
誰よりも優しく、独占欲に満ちた重すぎる溺愛が始まって――。
孤独な竜と、彼を癒やすただ一人のオメガ。
二人が真の「運命の番」となるまでの、切なくも温かい異世界救済ボーイズラブ。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。