ある日『運命の番』に出逢ったオレに起こる、なんやかんや、でもやっぱり最高に幸せだと思う。

音羽 りんね

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108.オレにとっての一番の怖さ

 

 
 陣痛促進剤を点滴でゆっくり身体に流し始めて、約二時間半になろうとしている。

 個人差はあるものの、だいたい効果が出始めるまでに相当時間がかかるものらしい。ところが、オレには良く効いてくれるのか、すでに微弱な陣痛が始まっていた。

 痛い!とはまだまだならないけど、一定の間隔で、ぐぐうぅうと子宮が収縮しているのがわかる。

 それが苦しくて、波が来る度に冷や汗をかいている。なんというか、お腹を壊して、トイレに座っているときのような鈍痛だ。

 京利は、ベッド横の椅子に座ってずっと手を繋いでいてくれるし、一度も離そうとしない。反対側の手では、オレの汗をこまめに拭いてくれている。

 なんて素敵な旦那様なのだろう。

 優しい京利の大きな手がオレの汗ばんだ髪の毛に細くて長い指を通していてくれるんだけど、それがあまりにも気持ち良くて、思わずすりすりと甘えてしまう。京利の手、大好き。
 

「あぁ、凛、可愛いすぎる」


 京利の顔がでれでれとしている。こんなときなのに、嬉しくてこちらもにこにこしてしまう。


「お二人さん、いい感じにリラックス出来てるよ」


 さえたんもずっとこの部屋に居すわり、オレの様子の変化と、モニタリング装置のチェックをしていて、見逃さないよ、という視線を度々送ってくる。

 昨夜も大きな手術があったという連さんが、横になって眠っているソファの頭の方に座って、ノートパソコンに何かを入力しながら向き合っている。

 さっきは、食べられるうちにたべましょう!って豪華な御膳の差し入れを持ってきてくれたのは、パパとママだ。メイもいる!

 メイはとにかく顔色が悪い。連さんの影響かもしれないし、あるいはオレよりはるかに緊張しているのかも。

 無表情だし、無口だし、オレに悟られまいとしているときの顔だ。オレは知らないふりをして、来てくれてありがとう。とだけ伝えた。

 だってメイの姿が見えなくても、ここに来てくれたことがどうしようもなく心強いんだ。

 それで、みんなで揃って『いただきます』をして、正直、お腹は空いてないというか食べる気にならないというか食欲がなかったんだけど、お腹の中は、朝に処理をしたから空っぽのはずだ。それならばと、これからの体力のためにもと奮起ふんきして完食した。


 パパとママいっぱい褒めてくれた。


「じゃあ一旦、待機室に戻るわ。
 京利、凛ちゃんをお願いね。
 メイちゃんいきましょう、あら」


 そう言ってパパとママは、にこにこと待機室にメイも連れて一旦戻っていこうとしたんだけど、メイが小走りでオレのところにやってきて、聞いてきた。


「凛、大丈夫なの?」


「大丈夫!可愛い凛真の誕生を待っててよ」


「わかったわ」


 メイはやっと少し笑って部屋を出ていった。

 メイ、オレも凛真もがんばるからな。


 そこから約一時間。だんだん、仰向けの姿勢が苦しくなってきて、今は京利の方を向いて横になっている。

 陣痛の間隔が短くなってきているような気がする。波が来る度に鈍痛が重く、強く、広くなっていく。

 この痛みがというよりは、この状況がまだまだ続くということが、オレにとっての一番の怖さになってきてしまう。 


 また来るっ!

 ぐぐううう...
 痛い、痛い。
 痛みに、鋭さも帯びてきた。
 懸命に耐える。
 思いっきり力んでしまう。
 
 息を止めて耐えていると、
 うそのように、すうっと痛みがひいていく。

 はあはあはあはあはあ

 苦しい。

 なんとか今回の波も乗り切れた。
 でも終わりじゃない、またすぐに次が来る。

 顔に恐怖がでてしまう。
 どうしよう。

 はあはあはあはあはあ



 ぎゅっと手を握られる。
 さえたんだ。

 もともと繋いでいた京利の手にも力が入った。

 二人とも笑顔だ。
 そうだ、オレはひとりではなかった。
 情けなさすぎる。




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